僕とハカセと電波な妹
ハカセの杜。
もちろん番地表記や地図にはそんな名前はない。いつの頃からか、僕たちはその場所を勝手にそう呼んでいるだけだ。
だって、ハカセが棲んでいるから。
「ハカセ、ハカセ!」
ハカセの杜は、パッと見スクラップ工場か廃材置き場だ。車とか、元々は何の機械だったのか判らない、稼動実績も不明な物体が無造作に山積みされている。しかも、スクラップ工場とか会社の看板も表札もない。機械は勝手に溜まっていた。ハカセ本人が僕にそう言ったことがある。
「ハカセ、居ないの」
答えはなかった。ハカセは、暇そうにスクラップをいじっていることもあるけど、何日も行方不明になる時もある。
(にゃ~)、スクラップの車と車の隙間から、仔猫が現れた。上部が黒でお腹とかが白の、お手本のようなブチ猫だ。毛並みに光沢があるから、野良猫じゃないみたいだ。
「帰るか」
ハカセが不在みたいだから、僕は家に帰ろうとした。ブチの仔猫は、まるで僕を引き止めるようにもう一回啼いた。
「おいで」
どこの家の猫かな? 親猫はどうしたのかな。僕は、舌を鳴らしながら手を差し出して仔猫をあやそうとした。
(ふんっ! だ)
もちろん猫がそんなこと言うわけないけど、もしも仔猫が言葉が話せたらそんなセリフだったと思う。猫も子供扱いは嫌なのかな。
仔猫は身軽にスクラップの隙間に飛び込んでしまった。
「おお、仔猫でも美少女のご機嫌とりは難しいのぉ」
小さな買い物袋を片手にハカセが、杜から呑気に出現した。
夏でも冬でも何年前の新品かわからないシャツに半ズボン、サンダル姿。増減はあるけど無精ひげに火事にでもあったような赤茶けた肌の年齢も正体も不明な老人なんだ。
そしてこの場所を僕たちがハカセの杜と呼ぶのは、スクラップ品が樹木やトーテムポールみたいに積み上げられているだけじゃなくて、本当に何十本もの木々があるからだ。
赤錆とか廃材からの有害物質とか大丈夫なのかなと心配しちゃう時もあるけど、ほとんどの木は丈夫に真っ直ぐ立ち続けている。
「お前さん昔猫絡みで怪我した割に変わらんのぉ」
「たいした傷じゃないよ」
僕の右手には小さな筋みたいな古傷がある。なんで傷ついたか僕もあまり覚えていないけどね。猫関係だったかな?
「それでノブナガは殺せたのかな、カサイホーチキ」
「それ石器時代のあだ名だよ、ハカセ」
僕の小学生時代のあだ名。いや幼稚園時代からハカセとは付き合っているんだ。
「第一どのモードでも、十九歳にならないとノブナガ殺しは選択できないよ」
「まったく不便なキカイを造ってしまったもんだ。それで、どうもアイテムを発見したお礼の雰囲気ではないようだの」
「ああ、そうだダイアモンドってなに」
僕は素早く財布から、RTの認識証を抜き出してハカセに突きつけた。ハカセは、深刻な顔をしたけど、
「むむ。最大の硬度と商品価値を持つ宝石の……」
やっぱり、トボけた。
「じゃなくて、どうして僕がダイヤモンドプレイヤーかな」
「噂では、ルビーを五個集めるとダイヤモンドのマークに格上げすると聞いとるが」
「な・ん・で・僕についているの。今までルビー一個しかなかったの知ってるでしょ」
ちょっと強めの地団駄を踏んでいた。いつもなら風や地震でスクラップが崩れないかと心配だけど、今の僕は怒りモード発動中だった。
「この前認識証貸したけど、またズルしたの」
「おお、ズルとは正確な発言ではないの。データーをちょこちょこっと試しにいじってみただけじゃ」
「それをズルと言うの!」
「ん、信長モードが開かないと隠しアイテムのありかを儂に尋ねたのは誰だ」
「僕だけど、まさかアイテム天使が七人も同時に出現するとは思わなかったよ」
「小遣いが不足がちな高校生にはありがたかろう」
「思いっきり怪しいよ。おかげで、あの店しばらく行けないじゃないか」
「データをイジるくらい今時中坊でもしとおろう」
ハカセは、コンクリートブロックで作ったお手製の椅子に座った。
「実際今回はアイテムが“ある”ポイントだから大丈夫だて」
「今回?」
「で、素敵な紳士の助言でダイヤモンドプレイヤーになれて、お前さんはナニをするんかえ」
ハカセは、買い物袋から新品のライターを取り出して、こちらもブロック製の竈に火をつけた。
「戦国のお姫様たちと、ムヒョムヒョでパフパフなプレイとか」
「R指定だよ」
「ならば健全に、エルフにシルフとウィンディとうっふんなプレイ……」
「同じだよぉ」
ちょっとトーンダウン。
ハカセは変わった人だけど、RT関係の知識はズバ抜けているし、結局いつも僕が肩透かしをくらうだけなんだ。
「同じとは聞き捨てならんの。日本のお姫様と西洋のモノノ怪では、うひょひょ感が大違いではないかぇ」
ハカセは、焚き火が安定したのを確認すると、年代物の鉄鍋を火にかけた。もう晩御飯支度?
「毎日ノブナガキラーとか」
「キラーリスクはR指定にプラスして定期的にお医者さんに通わなければダメなんじゃない? RTのプログラムはハカセが創ったんでしょ」
「ううむ」
どーせまたいつもの自慢話だろうけど。
「そうじゃのお。会社やお役所の命令でも、面倒な仕様にしてしまったもんじゃよ。MMORPGの臨場感で満足しないで、バーチャル世界をより本物に近づけて、危険は回避した世界を創りたかったのに、ワシは結局壁ばかり残してしまったんじゃ」
「キラーリスクは、あった方がいいと僕は思うよ」
いつもとはちょっと違ったな。でも、ハカセの自慢話やグチは聞きたくないから、僕は家に帰ることにした。
「ウチの近所にはRT店は三つあるからのぉ、次の店では、うひょうひょな店員さんがいるといいのぉ」
「知らないよ、帰るね」
「で、その手に握り締めた魚は、アイテムゲットのお礼にくれるんじゃないのかえ」
「またね」
「冷たいのぉ。お隣さんではないか……」
僕は自宅にダッシュで帰った。
ハカセのヒントでアイテムがコンプリートできたのはありがたいし(でも、ゼッタイデーターいじっているぞ)、お隣さんと言うのも本当。
だけど、僕はちょっと怒っていたからね。せっかく常連になった店を変えるのは、正直面倒だよ。
ハカセの杜の敷地が何平米とかはわからないけど、僕の家とは少しだけくっついているから、ハカセと別れて三分もしないで僕は家に到着する。
ポケットから鍵を取り出していると、
「あれ、さっきの仔猫?」
玄関の脇に備わっている雨樋に巻き付くようにハカセの杜にいた(はずの)仔猫がいた。
「おいで」
仔猫は今度は僕に少しだけ近寄ってきた。
「鰯食べるかな」、手にしていたビニール袋をかざしてみた。
仔猫は鰯の匂いを嗅ぐように一歩だけまた僕に接近した。けど、
(にゃん)
猫がセリフを言えたならこんな感じかな? 白黒のブチの仔猫は可愛らしい鳴き声を残して走り去ってしまった。
二度も仔猫に振られてしまった僕は改めて玄関に入った。さて、そうは言ってもハカセのおかげでRPG系ワールドならヒロインのカスタムが可能になったし、これから戦国ワールドのノブナガのシナリオがプレイできるんだ。
だから僕は(また店を変えなきゃならないけど)明日からのRTの作戦会議の予定。会議室は自宅二階の西側の僕の部屋だ。
さてと、玄関のすぐそばに階段があるのは、多分普通なんだろう。だけど、
「遅かったのね。お兄」
まだ玄関先で靴も脱いでいない僕を、階段の途中で見下ろしている妹の、美香がいた。いやいや、妹の存在も、それが多少ナマイキだったりするなら許容範囲だ。
「RTでうひょうひょした後で学校の美少女と会話ポイントを稼いで、ハカセのところに寄っていたの?」
「美香こそ、またハカセのところに行っていたのかい?」
こんな風変わりな妹は滅多にいないだろうね。
「あら、ハカセが言っていたのは本当だったの」
美香は小学四年生。
だけど身長は一メートルちょっとしかないし、色白を突破して透けそうな血色をしている。もやしと言うより鉛筆で書いた直線みたい。見る角度によっては消えてしまいそうなほど存在感がないんだ。髪の毛も腰まで伸びているけど、長さ自体はそれほど長くもない。美香がチビなんだ。
「チビでも情報収集はするのよ。それに、美香は百十八センチ、1メートルちょっとではないの」
「そうですか」
お前はエスパーか! と突っ込むのを僕は我慢。美香はお母さんやハカセから色々入れ知恵されているから、僕は口では適わない。それに、あまりにも非力な妹を腕力で抑えるのも馬鹿馬鹿しいしね。
「どんな変わり者からでも情報は大切よね。それに比べて暴力はいけないわ」
「そうだね……」
エスパーな妹に負けている僕を助けてください。
「じゃあ、部屋に行くよ」
「待って」
美香は、まだ階段の上で僕を凝視していた。
「抱っこして」
階段に一歩踏み込んだばかりでずっこけそうになる。僕の(もちろん美香やお父さんお母さんも)家はフツーの二階建てだ。小さいだけで美香を抱きかかえなければならないほど豪奢ではない。でも美香の方はと言うと全部本気で、両手を差し出して既に抱っこ待ち状態。
「二階に行きたいなら自分で登りなさい。もう途中まで上がっているんだからぁ」
「抱っこして……」
「四年生は立派なお姉ちゃんでしょ。幼稚園児とか下級生に笑われるよ」
「美香も二階に行くの」
「お兄は忙しんだよ」
言葉とは便利で、僕は美香を片手に抱いて階段を登っていた。
「そう、短い間でも家族の触れ合いは大切よ」
美香は、微笑んだように見えた。また完敗。僕がRTにハマるのは、こんな家庭での立場の弱さななかなぁ……(泣)
僅か数歩で二階到着。美香は僕の腕からするりと降りると、真っ直ぐに僕の部屋をノックした。ぉぃ、部屋のヌシは真後ろにいるぞ。
「どうしたの、美香」
100トンのパンチが飛んで来た。僕の部屋から、お母さんの声。
「たた、た、ただいっまぁ」
「洸次、帰ってきたのはいいけど、普通に挨拶しなさい」
お母さんはゴム手をハメて雑巾とゴミ袋を持っている。それって完璧に抜き打ちの掃除体制ですが……
「ダメよ」
美香が僕とお母さんの間に割って入る。まるで、通せん坊しているみたいに両手を広げて、
「お母さん、お兄はたった今美香を抱っこしてここまで連れてきてくれたの。例え、青春の残骸があっても折檻してはダメよ」
美香、なんのフォローだ。って全くフォローになっていないし、それに残骸ってナニ?
「あら、残念。美香、そう言うのはなかったわ。多少散らかってたけど」
お母さん、貴方のムスコは変態ですか?
「でも、何冊かあったグラビアについては質問する価値があるわね」
「そうね」、美香ぁ~。
「お兄が誤った道に行かないためにも家族の協力は大切ね、お母さん」
「グラビアって、普通の漫画の印刷ページがちょこっとだけだよ」
「お兄ダメ。そうした小さい油断が、ヲ●△とかの第一歩なんだから。世の中バスト95のお姉さんが水着で微笑んでもらえる確率なんてナイようなものだわ」
僕はこうして漫画雑誌をお母さんに没収された。シクシク。
「ナイスフォローでしょ」
美香は僕に親指を立てた。どんなグッジョブなんだよ。
「何冊かの雑誌の犠牲でお兄がRTで自主出入り禁止になっていたり、青春のトキメキの後でハカセとアヤシイ会合をしたのは隠せたでしょ」
「美香って本当にエスパー?」
軽く首を振った美香は、胸元からペンダントを取り出した。
「ハカセがくれたの。大昔のポケベルを再利用したんだって。お兄、サイリヨウってどう言う意味?」
「ポケベル? 動くオリジナルだったら百万円はする年代物だよ」
「知らない。時々ハカセが、お兄がどうしたとか、お腹が空いたとか送ってくるの。文字だったりハカセの声だけだったり」
全く技術と資源の無駄遣いをする人だな、あの変わり者老人は。
「洸次、バケツとかお掃除道具持ってきてぇ」
階段下からお母さんが呼びかけた。僕の漫画雑誌を持ったまま。
「あら、貴方その袋どうしたの」
僕は、まだ成り行きで買わされた魚の入ったビニール袋を持っていた。
「鰯」
「どーして一匹だけ買ったの」
まさかハカセからズルっぽいヒントをもらっRT寄って、三浦さんに……と大河ドラマのわりにつまらない説明する訳にもいかないし。いつの時代も中学高校生が好む娯楽は父兄やご近所から敵視されているかららね。僕はなんと答えたらいいか思案していた。
「ああ、なんだ」
???
お母さんが謎の納得をした視線の先は僕の足元にあった。
「仔猫ちゃんいつの間に? あっ窓からか」
ハカセの杜から現れては逃げている白黒のブチ仔猫が、今度ははっきりと僕の足に絡みついていた。隣接するハカセの杜の木から登った仔猫が僕の部屋の窓から入ったんだな。
「お兄さすがだわ」
美香に褒められるのは珍しいから、余計に怖いんだけど。
「ついに人類を超越してしまったのね。美香、グゥの音も出ないわ」
「どう言うこと?」
お母さん、なんとなくオチが読めますから聞かないでください。
「高一になっても彼女がいないお兄が寂しさを紛らわすために選んだ恋人のにゃんこが出入りに苦労しないために、いつも窓を開けているのね。でもそれは無用心よ」
「美香ぁ~」
「ケモノ道は関心しないけど、この子は可愛いから許すわ。宜しくお義姉さん」
「でも、お母さんは猫が義理の娘ってご近所に紹介しにくいんだけど」
美香、仔猫に頭を下げるなよぉ。お母さん、突っ込む場所が違いますっ。
「でもその鰯は駄目なんじゃない。氷も溶けているし、血が滲んでいるじゃない。お水ピンク色よ」
「氷はさっきまであったから大丈夫じゃないかなぁ」
「洸次、鰯は傷みやすいのよ。それにね……」、それに? お母さんは二階の僕に向かって悪戯なウィンクをした。
「お嫁さんにはもっといい物をあげなさい」
「母さん! 美香も!」
こうして僕の家庭での地位はどんどん下がって行く気がする。
結局仔猫は鰯を食べなかった。
それではもったいないと、お母さんは塩焼きにした鰯一匹をハカセにお裾分けすることにした。猫も食わない魚を押し付けられるハカセって可哀想だな……
「おお、美香ちゃんの予言通りじゃ」
鰯だけでは格好がつかないとお母さんはオニギリも僕に持たせていた。
「美香が? またなにか言ってたの」
「今日は魚と飯が貰えるから、夕食の用意は要らんと、な。それで、今日は汁物と高級な栄養補給を用意したんじゃよ」
「ビールでしょう、それ」
美香に関しては、兄貴である僕もよく解らない。ハカセの言う予言っぽい言葉を言ってみたり、素っ頓狂なことも言う。
「この天才も酒は自作できんのじゃ」
ハカセは、ビール缶を咥えたまましゃべる。
「そうそう、隣町のRT店が潰れたぞい」
「ハカセ、なに語で話しているの? 潰れるのは仕方ないでしょう、スーパーだって潰れるよ」
「まぁ聞け。洸次みたいにまんべんなく近所のRT店を利用するのは、とても良い事なんじゃ」
「それって、データをいじった言い訳?」
「まぁ、それもある。じゃが、この優秀なハカセが、その内あっと驚くテクニックを披露してやるからの。塩焼にオニギリのお礼じゃよ」
「またね」
ハカセのその内は口癖だから、僕は全く期待もアテにもしていないからね。
もうそろそろ半袖でイイんじゃない?
四月末でこのギラギラな日差しは、朝から勉強意欲を奪ってくれるね。お客様商売だけど、RTルームの快適さに比べたら
なんて拷問な天候なんだろう。
僕は学生鞄すら放り捨てたくなる衝動を我慢していた。テキトーに授業終わらせてRTに入り浸りできたらどんなに素敵な毎日なんだろう。
そう言えば、今朝のニュースで、牧場のトタン屋根から有料放送がダダ漏れ鳴り響いたって言ってた。タダで人気歌手の最新曲が聴けた牛は、楽しかったのかなぁ。
「背中ぁ丸めるな。朝だぞう」
接近する際のドップラー効果は音は高く聞こえるんだっけ? 低くなるんだっけ?
ズドン。
痛みは間違いなくある。
「スピード最高っ。元気よくお先に失礼。今日もギラギラするぜー」
ええっと、僕はどうやら自転車に乗った三浦さんに追い抜きざま背中を叩かれたらしい。僕は不意打ちもあって前のめりになってしまっていた。頭を上げた時にはMTBで疾走する三浦さんは、もう校内に消えていたんだ。
「学校行くか」
ゴールデンウィークもあるけど、中間試験もある。サボれない学生は辛いね。
三浦さんが女子部キャプテンを務めているラクロスは、男子は十人。女子は十二人で競技を行なう。女子部は、新入生と併せて結局合計で十二人。補欠とかリザーブ要員はいない。だから練習の時は男子部員を借りることが多いらしい。
「そんな動きじゃ、女子の攻撃も防御できないぞ」
男子部長の三年生の笹塚。樽に手足がついたようなバカでっかくて威張ったヤツ。女子部に専門顧問がいないから、でしゃばっている。
三浦さんが味方をすり抜けてボールを持った男子に接近。部活に備えてだろうけど今日も授業中爆睡していたから、全身に躍動感が溢れている。攻撃をしかけていた男子部員は苦し紛れのパスが外れて、マイボールをフィールドから出してしまう。
「ナイスディフェンス」
ラクロスが男女で違いがでるのは、男子は格闘技系、ヘルメットに防具を着けてボディアタックができること。逆に女子は、基本接触が禁止されている球技系なこと。男子部員は装備品を着用してしかも女子にぶつからないようにプレイしなければならない。つまり男子部が女子部と混ざって練習するのは、決して同情とか(なんか腹立つ笹塚の)点数稼ぎじゃないんだ。
だけど、
「三浦は凄いな」
笹塚ぁ。僕がもう少し腕力と度胸があったらグランドに駆け込んでいたかも。
だけど、僕は一、ニ年の補欠男子の攻撃を防いだ三浦さんの肩を撫でるように触れている笹塚を見るのが嫌でRTに行くしかなかった。
校舎を離れる時、微かにピアノの音色が響いた。多分杉山さんのピアノだ。
グランドでも、音楽室でも、誰かと一緒にいられないって寂しいな。僕はちょっと逃げるようにRTルームに向かったんだ。