あたたかい食事-6
椿が帰宅すると、いつの間にか定位置となった場所に座り、二人は手を合わせた。
「ああ、人目を気にせず食べられるご飯最高…!」
色とりどりのサラダに囲まれ、チキンを頬張った椿の顔は、肉と一緒に安堵を噛み締めているように見えた。
「事務所の人とかに色々言われるの?」
「事務所からは、信用してもらっているから、何も言われないけど、仕事場で食事をするときは、和やかな空気をつくるために、どうしても気を張っちゃうんだよね」
そう言ったところで、椿は、今日の撮影スタジオで食べた、シーザーサラダを思い出した。
味覚では美味しいと感じているのに、気持ちの部分で、味を感じられなかったのだ。
「…そういえば、渚さんの家も、食事には厳しいっていっていたよね」
「うん。とにかく管理したがるというか、過干渉っていうの?そんな感じ。優しいには優しいんだけどね」
「過干渉はしんどいよね。俺の両親も極端だったよ。父親は家庭を顧みない人で、一緒に楽しく食事をした記憶が無いんだ。連絡も取り合わないから、今何をやっているのか知らない。
そして、母は厳しかった。母が体型管理をしていたから。
俺をモデルにしたのは、母なんだ」
「それは…」
理由を聞こうか迷って口をつぐんだ渚の気持ちを察して、演じているのか本心なのか、椿はサッパリとした笑顔で話を続けた。
「まあ…俺が、類稀なる美貌を持って生まれてしまったから、そりゃ親も期待するよね〜」
「うわ、自分で言った」
それからも、取り留めのない話をして、食べて、二人は笑った。
笑い合えば、一人の時間に感じた仄暗い現実や感情が引っ込み、心に小さくて温かい明かりが灯っていく。
「(今の俺/私は監視されずにご飯が食べられる。他人と笑い合える)」
それぞれに、このままではいけないと考えている。
しかしこのとき、あたたかく、憧れていたものを手にした椿と渚のに、欲が生まれてしまった。
──この生活を終わらせたくない。
あたたかい食事 終わり
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