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東雲一高eスポ部っ!  作者: とら猫の尻尾
第三章 新章、eスポ部始動
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第51話 始まりのシンクロ

「まぁしょうがない。二人で勝ってね」

 リオンは肩をすくめて笑う。


「じゃあ指示をしてください。お兄ちゃん」


「うん、でもね――二人で指示もしなよ。僕が全部言ってたら意味ないだろ? 拓也もつばさも、これから大会を目指すんだ。なら、自分たちで声を掛け合って、呼吸を合わせる練習をしないとね。僕はリビングで沙羅と話す用事があるし……だから、この試合は二人に任せるよ」


 そう言い残し、リオンは軽やかにヘッドセットを外し、部屋を出て行った。

 残されたのは拓也とつばさ。二人の間に、微妙な沈黙が落ちた。


「…………」

「…………」


 視線が合うでもなく、ただモニターに釘づけのふりをする。

 けれど肩が触れそうな距離感と、リオンの「二人でやれ」という言葉が余計に意識させてくる。


「……えっと」

 つばさが小さく口を開いた。

「わ、わたし、どっちに動けばいい?」


 拓也はわずかに息を吸い込み、視線をモニターに戻した。

「……右を見ろ。俺が左をカバーする」


「りょ、了解……!」

 つばさの声は緊張で上ずる。

 次の瞬間、敵の足音が近づき、画面に赤いマーカーが点滅する。


(……タイミングを合わせろ。俺がずれたら終わりだ)


 拓也は心臓の鼓動を押さえ込むように指先を走らせた。

 すぐ隣では、つばさがぎこちなくも必死に追いすがってくる。

 二人の視線が交差することはない。だが、同じ敵を狙っている感覚だけは確かに重なっていた。



 ◇◇◇



 大牙は一時間かけて、ようやく黒瀬家に到着した。

 つばさと同じルートを辿ったせいで、道中からすでに疲労困憊だ。


 玄関のチャイムを押す。しばらくして扉が開くと、穏やかな声が返ってきた。


「どうだった?」


「あ、伊勢木ですが……つばさの……」


 言葉を探して口ごもったその瞬間、涼しい顔で返ってきた一言。


「カレかな?」


「はぁっ!? 違ぇから!」


 大牙は思わず素っ頓狂な声を上げた。

 目の前にいるのは間違いなく、つばさの母親――なのに、口から出てきたのは予想外すぎる一言。


(いや待て、なんで母親がそんな軽いノリで言うんだよ!?)


 頭の中で全力ツッコミを入れつつも、口からは言葉が出てこない。

 母親の笑みと「カレ?」というズレた質問が、じわじわと大牙を追い詰めていくのだった。


「上がってね。リビングで、沙羅さんもいるので」

 大牙はスリッパを履き、廊下を歩く。


 リビングでは、すでに沙羅とリオンが笑顔で向かい合っていた。


「黒瀬リオンさん、先ほどのプレイ……まるで舞踏会でのダンスのように華麗でしたわ!」

 沙羅が両手を軽く合わせて拍手する。


「舞踏会は行ったことないけどね。でもまあ、照れるな。褒められるのは嫌いじゃない」

 リオンは肩をすくめ、にやりと笑った。


「ご謙遜を。あのエイム力、まさに芸術の域でございますわ!」

「芸術ってほどじゃないけど……そうだな、勝つだけじゃなくて“魅せる”のが僕の流儀だから」


 二人の会話は、リズムよくポンポンと続いていく。

 かたわらで聞いていた大牙は、ただぽかんと口を開けるしかなかった。


(……すげぇ。もう完全に気が合ってんじゃねぇか)

 

 沙羅の会話力、そして軽妙に返すリオン。

 その二人の掛け合いは、まるで旧知の友人のように自然だった。


 そこへ沙羅が、きらりと目を光らせる。


「――そうですわ! ここに大牙くんも加われば、三人で“黒瀬流トリオ”の完成ですわ!」

「はぁっ!? いや、俺は……」

「ほらリオンさん、彼はこう見えても的確なカバーで部を支えているんですのよ」

「へぇ? じゃあ頼りになるのか。つばさ、いい仲間がいるな」

「え、いや、だから俺は別に……!」


 沙羅の無邪気な推しっぷりに、大牙は抵抗する間もなく会話の中心へと引きずり込まれていた。


「コーヒー? それとも紅茶? それとも昆布茶?」

 つばさの母がにこやかに問いかける。


「じゃ、コーヒーでお願いします」

 大牙は少し緊張気味に答えた。


「ミルクは? 砂糖は?」

「えっと……その、いくつって聞かれるの苦手で……ブラックで」


 思わず正直に答えてしまう。

 すると沙羅が横からすかさず――。


「まぁ! ブラックなんて、大人の男性みたいで素敵ですわ!」

「ちょ、沙羅……」


 大牙は耳まで赤くなる。

 つばさの母は、くすっと微笑んでコーヒーを入れに立った。



 ◇◇◇



 二人きりになった部屋に、マウスのクリック音とキーボードの打鍵だけが響いていた。

 敵の足音が迫るたび、鼓動がうるさく聞こえる。


「つ、次……どうする?」

「俺が先に撃つ。……お前はその隙に回り込め」


 拓也は短く指示を飛ばした。


「で、でも……!」

「大丈夫だ。お前の動きに合わせる」


 返事を待たずに飛び出した拓也の銃声に、つばさが息を呑む。

 だが次の瞬間、彼の声が背中を押した。


「今だ、行け!」

「っ……了解っ!」


 つばさは慌ててマウスを滑らせ、敵の側面に食らいつく。

 ぎこちなさはある。けれど必死に食らいつく姿勢に、拓也の動きが呼応した。


 二人の弾がクロスし、敵の体力バーが一気に削り取られていく。

 撃破の文字が並んだ瞬間――。


「……やった!」

「ナイス」


 思わず同時に声が重なった。

 一瞬の沈黙。そして、二人は顔を見合わせることもなく、同時に小さく笑った。


(……呼吸、合ったな)

(わ、私……拓也くんと一緒に、できた……!)


 画面には次の敵部隊が映る。

 だが、もうさっきまでのぎこちなさは消えていた。


 リオンの声はない。

 けれど二人だけの戦場で、少しずつ「コンビ」としての手応えが形になっていった。

 拓也が敵の位置を確認し、短く告げる。


「俺が囮になる。……今度はお前が仕留めろ」

「えっ、わ、わたしが!?」

「やれる。信じる」


 その一言に、つばさの胸が高鳴る。

 マウスを握る手の震えが、今は不思議と止まっていた。


「い、行く……!」


 勇気を振り絞って飛び出したつばさの銃弾に、拓也が横から即座にカバーを重ねる。

 二人の射線が重なり、敵が崩れ落ちた瞬間――。


「ナイス!」

「……お前もな」


 声が再び重なる。

 モニターの中で、二人のキャラがまるで背中を預け合うように並び立っていた。


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