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布団探偵  作者: 真波潜
1/1

1日目 蝉のうるさい日

不定期連載です。気が向いた時にぽちぽちスマホで書きます。よろしくお願いします。

「おち、落ちる、落ちるぅ!」

 がばっ、と掛け布団を跳ね上げ起きたが、下は安定の1組ニーキュッパな硬い下敷き布団。エアコンの駆動音と、締め切った窓越しにも五月蝿い蝉の声以外は可笑しな音も落下に伴う風切り音も聞こえない。

「夢か……、寝よ。寝直そう」

 こういう夢を見るときはよくない。五月蝿いのがやってくる前兆だ。

 俺は再び布団に潜り込む。23度設定で冷え切った部屋、長袖のスウェットと万年床で快適に寝るのが好きなんだ。温暖化なんか知るかボケ。

 神様どうか俺、草野玄冶に安眠を。

「はい、いち、にぃ、さん……おやす」

「玄冶ァ!」

「………………来たよ」

 五月蝿いのが。

 部屋の合鍵をこの五月蝿い進藤篤に渡してしまったせいで、度々俺の睡眠は阻害される事になっている。

 俺は草野玄冶。アフィリエイトブログを趣味でやりつつ、親の遺産を食い潰して生きる引きこもりの穀潰しだ。趣味はネサフとスマホゲー。

 そして今飛び込んで来たこの五月蝿いのが幼馴染の進藤篤。25歳会社員営業マン彼女持ちリア充爆発しろ。

 俺の不摂生と不健康を心配して半ば取り上げる形で部屋の鍵を持っていったお節介な幼馴染だ。

 まぁそれで何度も助けられているから文句は言えないんだけれど。主にスマホゲーのイベントが悪いと思う。寝かせてくれないじゃん。

「どうしたの……、そんないつも通り五月蠅くして」

「それが聞いてくれよ玄冶ァ!」

 営業マンはこの時間は仕事なのでは?

 その疑問をぶつける前に、ついでに華麗に嫌味もスルーして、進藤は語りはじめた。

「彼女がここ最近冷たいんだよぉ……、連絡しても返ってくるの何時間も後とか、デート誘っても断られたりとか……」

「なんだ、そんな事で来たの。邪魔。帰って。爆発して」

「玄冶こういうの得意じゃんか?! どうしてこうなったのか理由探ってくれよぉぉ!」

 男がおいおい泣き出しちまったよ面倒くさい。暑苦しくて男らしい癖に昔から女関係で泣かされてるんだよな。まぁ俺は泣かされる女もいないわけですが? 彼女いない歴イコール年齢ですが何か?

 あーあ本当に爆発しないかな。

「……ツンカ2万円分」

「え?」

 でも、何故かコイツの頼みは断れないんだよなぁ……。

「解決したらオイツーンカード2万円分でいいよ」

「玄冶ァ!」

「抱き着くな暑苦しい汗臭い鼻水つく俺にそのケはない!」

 元柔道部の筋肉に抱き潰される寸前で進藤を蹴り放してなんとか腕から逃れる。救いの神を見るような目で俺を見る進藤に手を差し出しそして。

「スマホ。ムイッター見せて。あとカンスタ」

 ムイッターは呟き系SNS、カンスタはカメランスタグラムという写真系SNSだ。

「いいけど……」

 不思議そうにその2つを表示させたスマホを渡してくる。

 俺は暫くその2つをチェックすると、5分後にはスマホを返した。

「あと3日我慢してろ。次の日にツンカ買ってこいよ」

「へ?」

 呆然としている進藤を蹴り出すと、俺はようやく布団に戻れた。その間20分?貴重な睡眠時間だ。

 俺は夢も見ずに安眠した。


 ーー4日後。

「いやー、まさか誕生日用プレゼントの為にバイトしてくれてたなんてなぁ!」

 ご自慢の元のプレゼントである天然石入りのタイピンとカフスボタンを見せ付けながら進藤は2万円分のツンカと銀麦500mlの六缶セットを持ってやって来た。

 惚気は銀麦分として聞き流してやる。

「でもなんで分かったんだ?」

「簡単だよ、3つのキーがあっただけ」

「3つのキー?」

「一つ、彼女は進藤の会社の営業事務。事務員の給料は月に15万前後。都心の会社に勤めてるんだから家賃は高い。毎月の貯金を削るかバイトでもしなきゃ恋人用のプレゼントなんて無理」

「ふんふん」

「二つ、彼女のムイッターの呟きは先月までは毎日定時の18時にはあった。今月は23時。約5時間の差があるから、移動時間を考えて約4時間。大方の接客アルバイトのシフトと合致する」

「なるほど」

「三つ、彼女のカンスタには先月までデート用の服や小物、友達とのランチ写真があった。今月はない。そして今月の、まぁ昨日だけど、昨日は?」

「俺の誕生日です」

 正座した進藤が、はい、とばかりに答える。生徒か。

「つまり、彼女は避けてるでもなんでもなくお前用のプレゼントを用意してたに過ぎない。以上、解散」

 帰れ、と言ったのだが拍手した進藤は正座のまま動かない。くそ、言わなきゃダメかやっぱ。

「……そこの、ママゾンの箱。持ってっていいから」

「えっ?! 段ボールがプレゼントとか流石に辛ぇんだけど?!」

「ちっげぇわ中身だよ中身!! お前の彼女はアクセ系だろうから俺からは実用品! 充電すれば五回はスマホに充電できるブルートゥースのモバイルバッテリー!」

「えー?! いいのか?! 高かったろ?!」

「……別に、2万はしないし」

 天然なんだよなぁ、嬉しそうにして犬みたいに寄ってきて。

「……だから、その、普段面倒見てくれてるし」

 もう一声、と言わんばかりに期待してこちらをみるのをやめろ。言いにくいだろ。

「………………誕生日おめでとう」

「おう! ありがとう!」

 言ってしまった。負けた気分だ。ガチャ回してから寝よう。いい事したから最高レア二枚抜きも夢じゃない。

「じゃあもう俺ゲームするから帰って」

「おう、また来るな!」

「………………はいはい」

 こうして嵐は去って行った。

(あの落下する夢を見ると、絶対進藤が面倒ごと持ち込んで来るんだよなぁ……)

 何でだろう? とは思えど今はガチャだ。

 部屋にはエアコンの駆動音と、締め切った窓越しにも五月蝿い蝉の声、そしてガチャを回す音だけが部屋に満ちていた。

 やがて、そこに爆死した俺の叫びも混ざるのだけど、まぁそれは次の話って事で。

ありがとうございました。次回の更新は近日未定です。週1ペースで書けたら良いなと思います。

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