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密室への誘い

革命と言うと血なまぐさいイメージがあるがそうならなかったものの少しはある。結果として革命と同等の結果を得たにも関わらず血が流れなかった故に革命と称されなかったやつだ。これは『改革』または『改変』と呼ばれる場合が多い。

そしてこの学園でも『改革』の芽は芽吹いていた。


「ちょっとあなた、放課後時間を空けておいてくれない?」

昼休み、僕に話しかけてきたのは隣のクラスの女の子だった。名前は『森下 雪 (もりした ゆき)』本来ならAランクにいてもおかしくない成績を叩き出している才女だ。ただ思想が尖がっているのと運動が全く駄目な為、Cランクで燻っている。


「あーっ、今日はちょっと・・。」

はっきり言って彼女と関係するのは宜しくない。思想的に問題児である彼女は風紀委員会に徹底的にマークされている。だから声を掛けられるのも迷惑なのだ。よって僕はやんわりとお断りする事にした。


「そう警戒しないで。何も取って喰おうという訳ではないわ。でもあなた、何やら変わった特技を持っているそうじゃない。どんなものか詳しく聞きたいわ。それじゃ放課後、学生集会室で待っているわ、必ず来てね。」

僕の特技・・。なんだ?妄想のことか?いや、そんなはずがない。妄想については誰にも話したことはないんだ。あっ、でも宇宙人経由で情報が漏れたのかな?いやいや、なんでも宇宙人のせいにしちゃ駄目だな。というかあんまり宇宙人、宇宙人って言っていると本当になりそうだから今後は控えよう。


森下が立ち去った後、僕はひとり考えを巡らす。今回はなにやら展開が読めない。確かに僕の妄想した通りの設定なんだけど細部が合致していない感じだ。僕が読んで妄想した物語は女の子は人身売買、男の子は臓器提供者としてある日突然学園から消えるんだけど、その黒幕が生徒会なんだよね。


でもここの生徒会って金に困っていないからなぁ。そんな事する動機がないよ。確かに人身売買や臓器売買は個の単価は高いだろうけど数が集まった生産集団の売り上げには遠く及ばない。会社なんて千人の社員がいたら給与だけで1日1千万以上が必要なんだ。大会社のトップが業績に神経質になるのも分かるね。


そして森下だ。妄想では彼女は生徒会を弾劾する急先鋒なんだけどきれい事ばかり夢見て有効な対抗措置を取れないでいた。ただ、言うこと自体はもっともな事なので影では多くのシンパがいる。そこで実務派として僕が登場するのだけど、なんだかここいら辺も違っちゃってるな。実際の彼女はきれい事というより一直線過ぎて煙たがられている感じだ。


さてさて、ここまでの感じではどうも僕は妄想をコントロール出来ているとは言いがたい。どうしたものか・・、やはり妄想は封印した方がいいのかな。


「タケル君、あなたさっき森下 雪と話していたわね。」

今度は、このクラスで唯一の風紀委員である『東雲 美里 (しののめ みさと)』が話しかけてきた。


「あーっ、まぁただの世間話だよ。国営放送の番組を僕が録画していたという話しを聞いてダビングさせてくれって言ってきただけさ。」

森下相手にアニメ番組の名を挙げては逆に信憑性をなくす。かといってスポーツやバラエティでも駄目だ。結構メンド臭い言い訳を言ってしまった。


「誤魔化さなくてもいいわ。彼女は今日あちこちに声を掛けているらしいの。そこでお願いがあるんだけど、あなた、その集会に出て内容を聞いて来て欲しいのよ。」

「ん~っ、スパイかぁ。それはちょっとなぁ。」

森下といい、東雲といいなんで僕に厄介事を持ち込むんだ?あっ、僕が主人公だからか。


「この事を依頼しているのはあなただけじゃないわ。だからそんなに怯えなくても大丈夫よ。ちょっとした点数稼ぎと思えばいいじゃない。」

「ふ~ん、そうなんだ。」

「ええっ、ひとりだけ潜入させると逆に間違った情報を持ち帰えさせられる危険があるから何人かの情報を刷り合わせて真偽を確かめるんですって。」

成程、さすがは風紀委員会、証拠集めの方法は全うだ。当たりを付けて決め打ちで容疑者に自白を強要した戦前の特別警察とは違うぜ。


「まっ、そうゆうことならいいよ。但し聞いてくるだけだからな。質問なんか受け付けないぞ。」

「ええ、それじゃお願いね。」

そう言って東雲は自分の席に戻る。そして何やらスマホを弄り始めた。多分、委員会に報告しているのだろう。律儀だねぇ。


さて、時間は過ぎて放課後である。

「来たわね、タケル君。風紀委員とは話がついたの?」

学生集会室に入るなり森下が探りを入れてきた。僕は聞こえない振りをして誤魔化す。

「他の生徒は?」

あっ、失敗した。森下は僕に他の生徒も読んでいるとは言ってなかった。くそっ、東雲ねっ、いらん情報を教えやがって!


森下はくすっと笑って僕の失敗を無視した。

「何のことかしら、今回はタケル君しか呼んでいないわ。まぁ、そんな事はどうでもいいの。さぁ、あなたの秘密を教えて頂戴。」

森下は僕が失敗したことに萎縮していると思ったのか上からの物言いで要求してくる。でも秘密といってもなぁ、具体的に何のことか分からんぞ?こいつが僕の妄想能力の事を知っているとは思えん。だとすると今回の妄想で参考にした小説の中にヒントがあるのかもしれない。・・しれないけど思いだせん。仕方ない、とっておきのネタで様子を見るとしよう。


「秘密と言われてもなぁ、君のパンツにクマさんの刺繍が施されている事ぐらいしか・・。」

これは効いたらしい。森下の顔がいきなり真っ赤になる。

「なっ、何を言ってるの!てっ、適当な事を言わないでよねっ!」

向きになって否定する森下。まぁ、女の子だからな、男子にいきなり履いているパンツの柄を当てられたら動揺するか。


「いや、実は僕念写が出来るんだ。パンツ専用なんだけどね。ただひとりの時でないと出来なくてさ。おかげで誰も信じてくれない。」

「あっ、当たり前よっ!誰が信じるものですかっ!」

はい、これで言質は取りました。自分で信じないと言っちゃったんだからこれから僕が何を言っても彼女は信じることが出来なくなりました。もしも、信じるわなんて言ったら都合がいいなと嫌味が言えます。


「いや、いいんだ。誰も僕の言うことなんか信じてくれないからね。君なら信じてくれるかもと思って話したんだけど僕が間違っていたよ。忘れてくれ、それじゃ僕は帰るね。」

うん、我ながらうまい逃げ台詞を思いついたものだ。これなら追ってはこれまい。


「待ちなさい!信じるわ!」

うわっ、出たよ、一直線。お前、さっき信じないって言ったばかりじゃないか。

「森下・・、君の優しさには感謝する。でもいいんだ、今回の事は無かったことにしよう。さようなら。」

僕は森下に追い討ちを掛けるように言葉の呪縛を放つ。頭のいいやつほどこれは効く。逆に馬鹿には全然効果が無い相手の立場を持ち上げて降りられなくする高等技術です。


「待てと言っているのよっ!」

そう言って森下は僕が開けようとした扉に鍵をかける。おいおい、監禁かよ。それって大人がやったら犯罪だぞ?いや、子供がやってもいたずらとは言い張れんな。


「ばっ、パンツの件は置いといて私の話を聞きなさいっ!」

はい、やっと本題に入ったよ。初めからさっさと話せばいいのに、いらぬ勘繰りなんかするから恥を掻くんだ。馬鹿だねぇ。


「いいだろう、それじゃ話して貰おうか。」

立場が完全に逆転した僕は上からの物言いで彼女を促す。あれっ、これって結局僕も彼女と同じなのか?もしかして2人とも馬鹿?

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