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第34話 デスサイス

 実は昨日一日暇だったので、蟷螂の魔物から剥ぎ取った鎌を加工してもらうために箱庭(ガーデン)の鍛冶屋へと行っていたのだ。

 鎌の使い道は悩み悩んだが、使い勝手のいい三尾の狐の尻尾と合わせるのが良いだろうという結論に至った。そうと決まれば話は早く、尾骨と鎌を渡してこちらの大まかな意向を伝えて加工を依頼した。翌日の朝には出来ているとの事だったので、今日の朝に開拓者組合(ギルド)へ行く前に鍛冶屋に寄って受け取っている。

 結果、出来上がったのは伸縮自在の大鎌である。大鎌は柄の長さが1m程、刀身の長さが80cm程だ。骨で出来た柄に蟷螂の緑色の鎌が付いており、かなり怪しい雰囲気を放っている。

 見た目はアレだが実用性は言うまでもなく高いだろう。何と言っても蟷螂の攻撃力に三尾の狐の攻撃範囲が合わさっているのだ。二匹と戦った俺だからこそ良くわかる。この大鎌は強力な武器である。間違いない。


 新たな相棒を握り締めて、魔物に追われている開拓者(ストレンジャー)の下へ走る。

 索敵から感じるにもうすぐそこだ。

 茂みを抜けて拓けた場所に出ると、前方からこちらへ全速力で走ってくる開拓者の姿が見えた。

 開拓者は鈍く輝く銀褐色の鎧に身を包み、腰には長剣が鞘に収まっている。胸部の膨らみと兜の裾から流れる美しく長い髪から女性だと推測できる。

 女性はこちらに気付くと声を上げた。


「助けてくだーい!!」


 開口一番に救助要請だ。相当切羽詰まっているのだろう。言われずとも助けるつもりだから安心して欲しい。

 女性が俺の近くへ駆け込んでくるのと同時に、奥の茂みから魔物が姿を現した。

 黒い斑点の浮かぶ茶色の毛皮に、天を貫く二本の角を携えた2mに満たないサイズの鹿の魔物である。

 魔物はこちらを視認すると足を止めて前傾姿勢を取り、威嚇を始めた。女性の前へ立ち、大鎌を構えて鹿と対峙する。


 相対する俺と魔物の雰囲気に圧されて女性は声を出せないようだった。その程度の実力でなんだって危険区域にいるのか甚だ疑問だが、質問するのは全てが終わってからで良いだろう。まずは目の前の魔物をなんとかしなければならない。


 先に沈黙を破ったのは魔物だった。

 甲高い鳴き声を上げるとこちらへと突進を仕掛けてくる。女性がすぐ後ろにいるので躱すわけにはいかない。その場でぐるりと回転して尻尾を伸ばし、遠心力を乗せた一撃で牽制する。

 前方全てをカバーする尻尾の一撃に、魔物は堪らず前脚で勢いを殺して後方へ跳んだ。


 攻撃を躱したつもりなのだろうが、残念ながらそこはまだ、俺の領域である。


 更にその場でもう一回転。女性に当たらないように尻尾を縮めながら大鎌に魔力を込める。

 大鎌の柄がぐんと伸びて、先ほどより遠心力の乗った大鎌の一撃が魔物を襲う。バックステップの途中で未だ空中にいる魔物に攻撃を躱す術はなく、横薙ぎに振るわれた大鎌の餌食となった。


 魔物が二つに分かれて地面へ落ちる。気を緩める事なく辺りを索敵したが他に魔物は近くにいないようだ。

 ふーっとひと息つき、ようやく張っていた気を緩める。


 さて、今の戦闘を振り返ってみよう。

 かつては苦戦していた2mクラスの魔物だが、難なく倒す事が出来た。大鎌による戦闘能力の上昇はとても大きい。この大鎌なら上手く隙を作る事さえできれば、もう少し大きな魔物でも一撃で仕留める事ができそうだ。

 開拓者として進むべき道が見えたような気がする。


「あ、あの!」


 今の戦闘から得られた情報を頭の中でまとめていると女性が話しかけてきた。

 戦闘に夢中で女性の存在を忘れかけていたので少し驚いたのは内緒である。


「危ないところを助けていただき本当にありがとうございます! あなたが居なかったら死んでいました……」


 女性はぺこりと頭を下げた。


「同じ開拓者を助けるのは当たり前さ。頭を上げてよ。それで、あなたはこんな所で何をしていたの?」


「測量の仕事の途中だったのですが先程の魔物に遭遇しまして……。私の手に負える魔物ではなかったので何とか逃げ回っていたところです」


 あれが手に負えないだって?

 開拓者に成り立ての俺ですら倒せたのに、この女性は一体何を言っているのだろう。


「2mクラスが手に負えないって本当に? あれが倒せないなら危険区域に来るべきじゃないと思うんだけど……」


 ついこの前までただの子供だった俺が、生意気な事を言っているように聞こえるだろうが、これでも一人前の開拓者として認められたのだ。危険区域に関する認識は間違っていないはずである。ここは弱肉強食の外界(アンビエント)だ。力を持たない者がおいそれと立ち入って良い空間ではない。


「お恥ずかしい話ですが本当です……。ここが私の実力に見合っていないのもわかっています。ですが私にはもう開拓者しか道がないのです……!」


 そう言って女性は自身について語り始めた。


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