八十五話
―――――18地区の露天商では喧騒が渦巻いていた。
17地区へと向かう他地区の住人がひっきりなしに商品を求め、店内の三十数台ある露店専用電話は、
鳴りりづめに鳴っている。
それら全てが17地区で死闘を行っている購入客からの電話だ。
その喧騒の中商品の補充などをおこなっていた彼は、どごかぐったりとし様子で隣にいた男性店員
静納鷹谷に視線を向けていた。
「・・・嘘ですよね? 今、何か客同士が揉めているのはそれなんですか」
彼は、信じられない表情を浮かべながら尋ねる。
「うん。そりゃあ、まともな精神だとペスト菌なんて買おうとはしないよ 。
幾らなんでも、値引きセール商品でもねぇ」
静納も、何処かぐったりとした表情を浮かべながら応えた。
「・・・値段って、確か100円でしたっけ?」
彼は尋ねた。
「半額セールだよ」
静納は、何処か諦めにも似た声で応える。
「・・・50円ですか・・・」
彼は、貌を引きつらせながら応えた。
「で、それを買うの買わせないとで、客同士が揉めてるんだな。これ」
そう告げながら、騒ぎの起こっている所に視線を向けた。
そこでは、迷彩服を纏った客が揉めていた。
複数の人間が、1人の人間を必死で止めていた。
「俺があの商品を買うんだ!! 鬼獣ども全滅させてやるっ!!」
止められている男性住民は、蒼白な貌色で喚き散らす。
その足元には、数人の客が呻き声を上げながら地面に倒れている。
「頭を冷やせ!! そんなもの購入してバラまいてどうするんだっ!? 」
後ろから羽交い締めしている男性住民が告げる。
「うるせぇぇぇぇっ!! 世紀前のアレクサンドロスもペスト菌使っているんだぞ!! 」
羽交い締めされている男性住民が叫ぶ
「そういう問題じゃねぇよ! 鬼獣は死滅するだろうが、俺たちも感染して死ぬだろうがっ!!?」
後ろから羽交い締めしている男性住民が、鬼の様な形相で応える
「鬼獣を殺せるなら本望じゃねぇぇかっ!! ペスト菌を寄こせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
羽交い締めされている男性住民が叫ぶ様につげる。
それは、心の奥からの叫びの様にも聞こえる。
その様子を、ペスト菌の商品を用意しようとしていた露店従業員が戸惑いながら見ていた。
「お客様、ご注文はペスト菌でよろしいのでしょうか?」
営業スマイルを浮かべながら、露店従業員が尋ねた
「あるだけ全部買う!! だからペスト菌を・・・ペスト菌を・・・」
羽交い締めされている男性住民が懇願するような声で、注文する
「すいません、キャンセルですっ、キャンセル!! マジでやめてください!!
シャンプーじゃなくて、軍事レーションください!! 糞まずいのでも構わないので」
後ろから羽交い締めしている男性住民が、すぐさまそう告げた。




