八十四話
17地区内にある幾つかの臨時ヘリ発着場でも、狂乱怒涛から逃れる事は出来ていなかった。
その一つの臨時ヘリ発着場周辺では、重火器類で武装した地区住民が押し寄せる数多の鬼獣群
相手に、 死にもの狂いで戦い続けていた。
上空には物資や他地区からの増援住民を下ろした、大型輸送ヘリが舞っている。
地上のヘリ発着周囲には、重火器類の引き金を絞っている17地区の住民や増援住民の姿があった。
金属音に似た地の底から湧き出るような金切声が、地鳴りにも似たような音で響いている。
音の方角からは、無数の鬼獣群が急速に近づきつつあった。
めくれ上がって押し寄せる津波を思わせる異様な速さだ。
「まったく、ヘリのパイロットは気軽で良いぜっ!!」
男性住民が罵りながら、FN F2000の引き金を絞る。
撃っても、撃っても、鬼獣は接近を緩めない。
付近は鬼獣以外何も見えなくなった。
それは、もう群れというレベルではなかった。
何か得体の知れない、巨大で邪悪な一匹(体?)の生物だった。
地表そのもの、大地自身が生み出した鬼獣と溶けて人間への憎悪を剥き出していた。
際限のない鬼獣群の群れに、絶望感が防衛側に纏わりつき動きを鈍らせはじめた。
動きの鈍った分だけ、鬼獣群は勢いを増している。
その上空をヘリとは違う、双発レシプロ軽飛行機ビーチクラフトバロンが超低空で突っ込んできた。
ドアは開けてあり、縁日で売られている戦隊系のお面を被った男性が小さなボンベを投げ落とした。
ビーチクラフトバロンは超低空のまま東に抜けようとしたが、機首が上がけるのが間に合わずに
鬼獣群の群れに突っ込み炎に包まれた。
「何処の馬鹿だよ!?」
M4カービンをぶっ放していた他地区から増援としてやってきた男性住民が罵る。
バロンから投げ落とされたものは、誰一人みていなかった。
激戦中に超低空で突っ込んできたのだ。
小型機がいかなる目的で飛来したのか、この場にいる誰もわからなかった。
「まったく何の目的できたのか知らないが、それで墜落したら・・・」
M4カービンをぶっ放していた男性住民が、弾倉を入れ替えながらグチグチ呟いた。
装填を完了したとき、突然に、それはやってきた。
ストンと、息が詰まった。
その時に、何か得体の知れない恐怖を感じた。
男性住民の肺が酸素を求めて激しくもがく。
その次に肺は大量の空気を吸い込んでいた。
吸い込んだ瞬間、男性住民は身体を貫く衝撃を覚え、身体が2つに折れたような感覚を感じる。
眩暈に襲われたその時には、足が崩れていた。
地面に転がり喉を掻きむしった。
爪が喉に食い込み、爪は皮膚を掻き破る。
薄れゆく意識の中で空気を求めたが、十秒とも続かなかった。
男性住民は絶命した。
男性住民が倒れた時にはすでに二十数人が地面に転がっていた。
この場に配置されているアンドロイドオメガ800以外の人間と鬼獣群がもがき苦しみながら倒れた。
ヘリ発着場周辺は増援住民及び17地区住民合わせて数千人以上が固めていたが、その大半が将棋
倒しに倒れた。
それは、鬼獣群も同じだった。
数十分後、各地域の緊急防衛指指定場所で妙に沈鬱な、重い気配が漂い始めた。
その中でも、12地区の緊急防衛指指定場所は殺気立っていた。
その情報が飛び込んできたとき全員が怒気を浮かべ、気色ばんでいた。
「何処の馬鹿野郎だっ!! 露店から青酸ガスを購入してバラまいた間抜けは!!」
12地区の男性住民が殺気の孕んだ声で叫ぶ
「その間抜けは、飛行機事墜落して死んでるよ」
喚いた男性住民の隣にいた、男性住民が応える。
「馬鹿者だっ! というか誰も購入するのを止めなかったのか!? その前にそんなのを売る露店も露店だっ!!」
さらにその男性は喚く。
「商売の一環だよ。物理的に消されたきゃクレームを入れるんだな」
隣にいた男性住民が告げる。
「・・・」
喚いていた男性住民は沈黙した。




