八十三話
狂乱怒涛が渦巻く17地区内を鬼獣群は展開していた。
建物や道路といわず田畑といわず、コールタールを流した様な鬼獣群が金切声の共鳴音を立てながら、
動いていた。
『雑多な武器で我々を止められると思うなよ?』
鬼獣群からそんな嘲笑が投げられている様な気が、あらゆる重火器類で応戦している地区住民や増援の他地区住民は感じた。
血みどろの死闘が繰り広げられている17地区の上空には、弾薬や増援を運んでいる輸送ヘリが飛び交っている。
「もう落城寸前の気配だな・・・悲壮感しかないな・・・」
CH-47 チヌークの機窓から覗いている他地区の男性住民が独りごちた。
機には完全武装をした老若男女が乗っていた。
今時なのか、携帯電話を弄っているものや銃器の点検をしている
「そんなところに、俺たちが行くんだぜ。ゴンザレス」
男性住民の右横に座っていた、携帯を弄っている男性住民が告げる。
「誰がゴンザレスだ。日本人じゃないだろ・・・」
機窓から覗きながら、男性住民が応えた。
右手の遠くに空を赤々と染める火災が望見できた。
鬼獣群との死闘を繰り広げているため、消火活動も不可能なのだろう。
それとも、鬼獣群の進軍を阻止するために、わざと建物に火を放ったのか・・・それはわからない。
「なあ、ゴンザレス。これ凄くね?」
今度は、左横に座っていた男性住民が何処か興奮したような声で告げてくる。
「お前もか・・・。何がだよ」
覗いていた男性住民が飽きれた表情を浮かべながら、左横に座っていた男性住民に視線を向けた。
「おれ、今弾丸六発しかない・・。これヤバくね?」
左横に座っていた男性住民が告げる。
「こんな喧騒の中、たった六発しか持ってこなかった事が凄いな!?」
覗いていた男性住民が、信じられない表情を浮かべながら応えた。
「急いでたから持ってこれたのがこのたった六発の弾丸とニューナンブM57A1一丁。
ヤバいだろ」
左横に座っていた男性住民が真顔で告げる。
「凄いな・・・。使い切ったら素手か」
その会話を聞いていた、右横に座っている男性住民が応えた。
「ヘリに乗る前にコンビニ寄れよ!? アサルトライフルぐらい買おう。な・・」
覗いていた男性住民がため息交じり告げる。
「コンビニ寄ったよ。でも、買ったのが缶コーヒーだったという・・しかも飲めないブラックコーヒー」
左横に座っていた男性住民が真顔のまま応える。
「それは悲惨だな。あれか、ブラックコーヒー飲んで鬼獣と闘うんだな。痺れるな。憧れはしないけど」
右横に座っていた男性住民が笑いをかみ殺しながら、再び携帯に視線を向けた。
「・・・手榴弾二個と予備にもってきたブローニングM1910を貸してやる」
覗いていた男性住民が、飽きれた表情を一瞬だけ浮かべながら告げた。
「おー、さすが!」
左横に座っていた男性住民が応えた。
「生き残って返せよ! わかったな」
覗いていた男性住民がさらに告げる。
「おう。生き残るさ。それに惚れた女に告白したいしな」
左横に座っていた男性住民が応えた。