七十二話
「今度は、何が起こったんだ?」
台車に販売している弾薬類の商品を載せていた彼は、何やら騒がしくなった
店内の様子を見ながら呻く。
そんな馬鹿げた質問に答えている暇は無いのか、付近にいた店員達は答えずに
忙しそうに動き始める。
彼はまだ知らないが、この元凶は地区に唐突に出現した新鬼獣の影響だ。
「ともかく、この商品を補充しろっ!! 客が痺れを切らしてクレームをつけてくる前に、売り捌け!!」
男性店員の一人が叫ぶように告げながら、奥からジュラルミン・ケースを
積んだ台車を持ってきた。
その男性店員の後ろからも、ジュラルミン・ケースを積んだ台車を持ってきている店員達の姿が存在していた。
彼が、ざっと見た限り三十二個のジュラルミン・ケースだ。
叫んだ男性店員がジュラルミン・ケースの蓋を開け、中身の確認をはじめる。
「(なんだ、ハッカドリンクか)」
ジュラルミン・ケースの中身が彼の視界に入ったとき、彼はどこかほっとした
感想を抱いた。
ジュラルミン・ケースの中には、手野グループの医薬品メーカー『手野薬品』が扱うドリンク剤がぎっしりと入っていた。
商品名は『戦鬼』
広告キャッチコピー
『鬼獣が出たら、この一本』
『みんなで一人で、貴方と一緒に。私も飲んでる栄養ドリンク』
「(この世界の人は、どんだけハッカ好きなんだよ・・・)」
彼は、かなりどん引きした表情を浮かべる。
このような事を思うのも仕方がない事だろう。
彼は、そのドリンクを『鬼獣の饗宴』の時に、露店主に進められて飲んだのだ。
『戦鬼』という物騒な商品名だが、飲んだ感じでは、味はハッカのような味で
鼻がスースーしただけだった。
だが、彼と同じように飲んだ人は、かなり・・もといヤバいくらいに
テンションを上げていた。
「(おれは、そんなにハッカは好きでも嫌いでもないけどなぁ)」
彼は、次々と店に運ばれていくドリンク剤を眺めながらそう思った。
運ばれていくドリンク剤を、購入した客は間違いなく飲むことは間違いない。
だが、彼はあのハッカドリンクを飲んだ人が、ヤバいくらいのテンションになるのは、あまりうれしくは無かった。
ドリンク剤『戦鬼』
――――彼が、ただのハッカドリンクと思っているこの商品。
結論からいって、ハッカドリンクではない。
彼の味覚ではハッカのような味なのだが、本当の味はハチミツのような
甘い味だ。
この世界では、大規模鬼獣群との交戦時にはよく飲まれている戦闘
興奮剤だ。
ただ、その化学構造や材料に関しては、どういうわけか公開されていない。
『手野薬品』がどのような方法で製造しているのかは不明だが、唯一言えるのは尚文真一郎が関わっている。
そして、どういうわけかまったく不明だが彼には影響はない。
広告キャッチコピーは、交流させていただいている尚文先生が考えていただきました
ありがとうございました




