二十一話
騒がしい喧騒の中、彼は台車に載せた塩の入った袋を運んでいた。
「(こんな調味料も臨時レーションとは)」
彼はそんな事を思った。
そして、露店の外に停車している車両を見て、改めて別次元の世界だなと
認識する。
外では、M2重機関銃、Mk.19グレネードランチャー、M240汎用機関銃、M249軽機関銃、M134ミニガンを装備したハンヴィーやストライカー装甲車、そして
軍用大型トラックが停車していた。
ただ、それらは来店する客達の車両ではない事が彼にはわかった。
なにせ、それぞれの車体には三匹のペンギンの画が描かれているからだ。
そのロゴマークは、尚文露店主から店のロゴマークである事を説明で聞いた。
現に、その車両の周りでは、誰も無駄口を叩かずに露店店員達が無駄のない動きで発送商品を詰め込んでいる。
「(しかし、この店ではあんな物までおいてあるとはなぁ)」
彼は、停車している車両の中でかなり目立っている車両を見ながら、何とも
言えない表情を浮かべた。
その視線の先には、某SF映画で登場した輸送車両が一台が 置かれている。
車高は低く抑えられており、巨大なタイヤを備え不整地走破性能はかなりの
ものだろう。
また、砲塔も後部に収納可能の様だ。
その車体にも三匹のペンギンが描かれているが、微妙に画が変わっていた。
アロハシャッを着込んだペンギン、法被を着込んだペンギン、王冠を被った
ペンギンだが、アロハシャッを着込んだペンギンだけか扇子を咥えている。
その車体に、露店店員によって木箱に詰め込められた弾薬類が押し込められているのが見える。
「兄ちゃん、また悪いが店番頼むよ。やはり俺も行かないとまずいからな」
そう声が聞こえ、後ろに振り返ると手提げ鞄を持った尚文露店主がいた。
「あ、いえ・・・何か大事ですね」
ここにきてからこの光景そのものが大事なのだが、彼はそう尋ねた。
「防衛軍は何を考えているのかさっぱりわからないが、17地区緊急防衛指定
場所の救援の他にラブホ建設予定地の奪還も発令したからなぁ。
まぁ、俺に取っては商品を売り捌ければ文句は一つもない」
そう尚文露店主が口元に笑みを浮かべて応えた。
何を考えているのか、17地区の緊急防衛指定場所の救援の他に、
ラブホ建設予定地の奪還も放り込んできたからぁ・・・、まぁ、俺に取っては、
商品が売れれば文句はないんだけどな、兄ちゃん」
そう尚文露店主が応えた。
その返答に、彼は曖昧な笑みを浮かべるだけに止めた。
「(どう応えていいのかわからない)」
彼はそんな事を思った。
緊急防衛指定場所の救援は理解できたが、ラブホテルが建設される場所の奪還
うんぬんに関しては、返答に困った。
尚文露店主は、右手をひらひらさせサンダルをペタペタと鳴らしながら、
某映画で宇宙海兵隊達を現場に運んでいた輸送車両の前まで向かうと、立ち停まった。
「さあ、尚文ペンギン丸二号――――、お前の華麗な走りで見る者を魅了してやれ」
車輌に右手をぽんっと置きながら、尚文露店主は静かに告げた。
その声には、並々ならぬ決意が滲み出ていた。