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13.幸せの報酬

13.幸せの報酬


 事務所のドアが開いた。入って来たのは黒木だった。その表情から憔悴しきっているのが見て取れる。

「始末書で済んで良かったなあ」

 矢沢はそんな黒木に他人事のような言葉を掛けた。


 先の瀬能康子からの依頼がマスコミにまで誘拐事件として報じられてしまった。実際には誘拐でもなんでもなかった。矢沢が牛田を引き止めるために黒木をそそのかして県警を動かした。結果として矢沢は自力で牛田を捕まえることが出来たのだが…。テレビのニュースを目にした矢沢は慌てて黒木に事の顛末を説明した。

「悪い!さっきのはちょっとした勘違いだった。今、みんな一緒に居るんだが久しぶりの再会にみんな感動しているところだ。テレビのニュースが有りもしない誘拐事件の報道をしとるが、ありゃ、間違っとるぞ。なので、ちゃんと訂正しておくように。いいな!」

 電話を受けた黒木はあ然としてその場で固まってしまった。このまま外国にでも逃げたい気持ちではあったのだけれど、すぐに栃木県警に誤報だと伝えた。すぐさま本庁から呼び出しをくらった。上司からさんざん小言を言われた挙句、始末書を書かされてきたのだった。


 矢沢の顔を見るなり、黒木の中には一気に怒りが込み上げてきた。

「何が良かったなあですか!もう少しでクビになるところでしたよ」

「だから良かったじゃねえか。クビにならなくて。今のご時世、再就職は難しいらしいからな」

「もとはと言えばあんたのせいでしょうが!」

「おっ!こいつ、開き直る気か?せっかくクビになったらウチで雇ってやろうと思っていたのに。あー、残念だったな」

「なっ…。冗談じゃない!誰が先輩なんかの世話になるもんですか」

 二人のやり取りにさすがに嫌気がさしたと見えて、美紀が割って入った。

「所長、まだ、美紀さんから報酬を頂いてないんですけど。どうする気なんですか?」

 矢沢は急におとなしくなった。

「仙台に行ってしまったんだ。今更どうにも出来んだろう…」

「大概にしてくださいよ!いつもそう!ここは探偵事務所なんですよ。依頼人から報酬を貰わなかったらどこから私の給料を払ってくれるんですか?申し訳ないんですけど、もう、刑事じゃないんですから、趣味で捜査をやるのは止めて下さい」

「しゅ、趣味って…」

「報酬にならないのに、無駄に動き回ってばかり。今回の経費は出せませんからね。最初に渡したお金は耳を揃えて返却してもらいますよ!」

「お、おい!ちょっと待って…」

 美紀は矢沢の言い訳を聞くつもりはないと言わんばかりにそのまま事務所を出て行った。

「先輩も色々と大変なんですね」

 先ほどまでは怒りに満ちた顔をしていた黒木が憐みの表情で矢沢のそばにやって来た、ポンと肩を叩いた。

「先輩、飯でも食いに行きましょうよ」




 このところ連勝で勢いに乗るベガルタ仙台はホームに首位を走る浦和レッズを迎えていた。0-0のまま試合時間が終わろうとしていたその時、ベガルタ仙台はコーナーキックのチャンスを得た。おそらくこれがラストプレーになるだろう。ベガルタ仙台はキーパーまでもが浦和レッズのゴール前に上がって来た。キッカーがボールをニアサイドに上げる。味方のヘディングをキーパーがパンチング。こぼれたボールは石川直樹選手の足元に転がった。石川直樹選手は迷うことなくそのボールをゴールに蹴り込んだ。そして審判が終了のホイッスルを鳴らした。

 早苗はスタンドで飛び上がって喜んだ。康子と抱き合い、満面の笑みを浮かべた。そんな二人を牛田は幸せそうに見守っていた。






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