↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『知らない世界で、前世の知識が武器になる』 ~剣と銃で乱世を生き抜く転生領主の成り上がり~  作者: 相田 ソウ
第五篇 乱世に広がる火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/163

第十八話 敵陣の四人

シュヴァルツ伯軍との決戦を前に、アレクたちは三百挺の火縄銃を配置する戦場を視察します。

マティアスが商人に姿を変えて会いに行った四人の正体と、敵将の退路を巡る策が明かされます。

 夜明け前に目を覚ましたのは、寒さのせいではなかった。

 天幕の外では、見張りの交代を告げる低い声と、馬が地面を蹴る音が聞こえている。兵たちの多くはまだ眠っているはずだが、野営地全体が静かに息をしているようだった。

 昨日まで俺が起きる場所は、アイヒェンタールにある領主の館だった。

 朝になれば領内の道や木炭、集落の倉についての報告を聞き、それからベルグハーフェンへ向かっていた。

 今朝、天幕の入口を開けた先にあるのは、見慣れた村の道ではない。

 湿った草に覆われた高まりと、その向こうに広がる戦場だった。

 遠くにはまだシュヴァルツ伯軍の旗は見えない。

 だが、斥候の報告が正しければ、敵は遅くとも明日までには姿を現す。

 俺は水で顔を洗い、マティアスから贈られた鎧を身に着けた。

 重い板金を全身へ重ねた鎧ではなく、必要な場所だけを鉄で守り、革と鎖を組み合わせた動きやすい鎧だ。林を走り、火縄銃を扱う兵たちの間を移動することを考えれば、この鎧でなければならない。

 傷ついた革の手袋は、今回も布へ包んで荷物の中に入れてある。

 戦場で使うためではない。

 エリーゼと交わした約束を、戦場へ持ってきただけだ。

「アレク殿、起きていますか」

 天幕の外からユリウスの声がした。

「はい。すぐに出ます」

 外へ出ると、ユリウスはすでに馬を用意していた。

「レオンハルト殿下とマティアス様は?」

「先に高まりへ向かわれました。工兵の指揮を執る者と、周辺を調べた斥候も同行します」

「敵の斥候は近くまで来ていますか」

「森の外で二人を見つけました。こちらの騎兵が追い払いましたが、敵もこの場所を調べ始めています」

 戦場を選べる時間は終わりつつある。

 今日のうちに火槍隊の配置を決め、土塁と柵を作らなければならない。

 俺は馬へ乗り、ユリウスとともに緩やかな高まりへ向かった。

 高まりの上には、レオンハルトとマティアスが立っていた。

 その周囲では工兵たちが地面へ杭を打ち、縄を張っている。どこへ土塁を作り、どこを兵の通路として残すのかを示すためのものだ。

「遅いぞ、アレク」

 レオンハルトが俺を見る。

「申し訳ありません」

「まだ夜明けだ。遅くはない」

「では、なぜ遅いと」

「お前がどんな顔をするか見たかった」

「戦の前に試さないでください」

 レオンハルトはわずかに笑い、それから正面の平地へ顔を戻した。

「敵は一万ほど。こちらは六千七百。正面から同じ幅に並べば、こちらの両端を回り込まれる」

「ですが、左には小川と湿地があります」

 平地の左側を流れる小川は、深くはない。

 歩兵なら渡ることはできる。

 ただし、大勢が隊列を保ったまま進むのは難しい。川底の泥へ足を取られ、渡った先の湿地で速度が落ちる。

 騎兵が勢いを保ったまま突入する場所には向かない。

「右は林です。敵が少数を通す可能性はありますが、大軍は並べません」

 俺が言うと、ユリウスが頷いた。

「敵が正面で使える兵数は限られます。先頭の部隊が崩れれば、後続は前へ出られません」

「敵は数を持っている。だから、その数を狭い正面へ押し込める」

 レオンハルトが答えた。

 俺たちの正面には、敵が進みやすい平地がある。

 一見すれば、敵へ攻撃しやすい場所を譲ったように見える。

 だが、左右を小川と林に挟まれた平地では、一万人が同時に槍を向けることはできない。

 先頭の三千人ほどが、後ろの兵を塞ぐ壁になる。

 そこへ三百挺の火縄銃を集中する。

 工兵の指揮者が地面へ置いた縄を指した。

「土塁はこの線に沿って作ります。高くしすぎると火槍隊が前へ出にくくなりますので、膝より少し高い程度に抑えます」

「土を盛るだけですか」

「正面を浅く掘り、その土を後ろへ積みます。人の胸まである壁を一日で作るのは無理ですが、馬の脚を乱し、兵が身を伏せられる高さなら間に合います」

「掘った跡も溝として残るのですね」

「はい。ただし、雨が降れば水が溜まります」

 幸い、空に厚い雨雲はない。

 だが、戦が予定どおり明日始まるとは限らない。

 土塁の後ろへ水を逃がす溝も必要だった。

 俺は縄に沿って歩き、火槍隊を並べる幅を確認した。

 三百人を一列に並べれば、横へ広がりすぎる。

 しかも、全員が同時に撃てば、次の射撃まで長い時間が空く。

「三つに分けます」

 俺は地面へ落ちていた枝を拾い、土の上へ三本の線を引いた。

「第一の百人がここへ出ます。撃った後は後ろへ下がり、第二の百人が前へ出る。続いて第三の百人です」

「三列に重ねるのではないのか」

 レオンハルトが尋ねた。

「後ろの者が前の者の肩越しに撃てば、味方を撃つ危険があります。射撃する百人だけを土塁の前へ近づけ、残る二百人は下がった場所で装填させます」

「第一が撃ち終わる前に、第三まで撃ち終わったらどうする」

「第一の装填が間に合わなければ、槍兵と弓兵に時間を稼いでもらいます。無理に急がせて、火薬や装填棒を落とさせる方が危険です」

 訓練では、百人ずつの射撃を何度も繰り返した。

 それでも、本物の敵が近づく戦場では、同じ速さで動けるとは限らない。

 手が震える者もいる。

 火縄を掛け金へ留めるのに手間取る者もいる。

 煙で赤い布が見えなくなるかもしれない。

 だから、射撃の間を埋める兵が必要だった。

 土塁の間には、槍兵が前へ出られる通路を残す。

 弓兵は火槍隊の左右と、少し後方へ配置する。

 敵の騎兵が突入してきた時には、低い柵と杭で速度を落とし、槍兵が受け止める。

「柵はどれほど作れますか」

 俺が工兵の指揮者へ尋ねる。

「街道沿いから運ばせた木材があります。近くの農家から買い取った柵も使います。すべてを塞ぐほどはありません」

「すべてを塞がないでください。騎兵が出る場所と、こちらが追撃へ移る場所が必要です」

「左右に二か所ずつ通路を残します」

「敵から見て、通路だと分かりにくくできますか」

「前へ軽い柵を置きます。味方が出る時に外せます」

 立派な城壁を作るわけではない。

 低い土塁と浅い溝、馬の勢いを弱める杭、持ち運べる柵。

 どれも、それだけで敵を止められるものではない。

 だが、敵が足を止める時間が少し増えれば、その間に次の百挺を撃てる。

「火薬を積んだ荷車は高まりの裏へ置きます」

 ユリウスが言った。

「一か所へ集めない方がいいでしょう」

「三つに分けてください。それぞれの百人隊に一つずつ。火薬と火種の管理場所は離します」

「敵の矢が届かない場所を選びます」

「火事が起きた場合に備えて、水と砂も置かせてください。荷車を動かす道も塞がないように」

「承知しました」

 兵が戦う場所だけではなく、弾と火薬が届く道を残さなければならない。

 三百挺を並べても、一発筒を使い切った後に補給できなければ、ただの重い鉄筒になる。

 俺たちが配置を話している間にも、兵たちが高まりへ上がってきた。

 鍬と籠を持った工兵が地面を掘り始める。

 槍兵は木材を運び、弓兵は射線を確かめている。

 六千七百人全員が土を掘るわけではない。

 見張り、炊事、馬の世話、斥候、荷車の修理。

 軍が戦場へ着いても、戦う以外の仕事は消えなかった。

「正面はこれでいい」

 マティアスが言った。

「次は林を見るぞ」

 昨日から気になっていた言葉だった。

 敵が崩れた後、どこへ逃げるかを考えろ。

 そして、マティアスが商人の格好で会いに行った四人。

 その答えが、林の向こうにある。

 俺たちは馬を高まりの裏へ残し、歩いて林へ入った。

 護衛兵のほか、火槍兵長と斥候二人も同行する。

 火槍兵長には、百人が実際に通れる場所かを見てもらう必要がある。

 林の中は、外から見た時より暗かった。

 木々の間隔は狭くないが、地面には根が浮き、低い枝が進路を塞いでいる。昨夜の露で落ち葉も湿っていた。

 横一列で進むことはできない。

 十人ほどの幅に分かれ、縦に長い隊列を作ることになる。

「模擬銃を持って走った林より、地面が悪いですね」

 火槍兵長が言った。

「百人が通るのに、どれくらい掛かりますか」

「道を決めて、邪魔な枝を落とせば、訓練場と大きくは変わりません。ただし、火縄へ火を付けたまま走るのは危険です」

「火縄は消しますか」

「火を残した火縄を持つ者だけを別に歩かせます。全員が火の付いた火縄を持って転べば、火薬へ燃え移ります」

 正面戦列を離れる時、すでに何発か撃った後になる。

 腰の弾薬箱には一発筒が残っている。腰箱には火皿用の細かな火薬もある。

 その状態で火縄を振り回しながら林を走らせるわけにはいかない。

「百人を十列に分けます。前の者が転んでも、後ろの者が全員重ならないよう間隔を取ってください」

「到着が遅れます」

「早く着いても、半分が転んで撃てなければ意味がありません」

「分かりました」

 火槍兵長は歩きながら、通れる場所を覚えていく。

 斥候は目印になる木へ細い布を結んでいた。

 敵から見える外側の木には付けない。

 林の中へ入った者だけが分かる高さと色にする。

 途中には小さなくぼみがあり、雨水が溜まっていた。

 その横を迂回し、倒れた木を越える。

 百人が火縄銃と装備を持って進めば、今より時間が掛かる。

 それでも、正面の戦場から街道を回るよりははるかに短い。

 林を抜けると、細長い草地へ出た。

 その先に、轍の跡がほとんど消えた道が延びている。

「これが古い街道ですか」

「そうだ」

 マティアスが答えた。

「今は使われていないように見えます」

「大きな橋ができる前は、商人もこの道を使っていた。遠回りになるうえ、途中の宿駅が減ってからは荷車が通らなくなった」

 道の幅は、荷車二台が余裕を持ってすれ違えるほどではない。

 だが、騎兵と少数の護衛が逃げるには十分だった。

 土も林の中ほど柔らかくない。

 道の両側には草が伸びているが、馬なら速度を出せる。

「シュヴァルツ伯は、敗れればこの道を使う」

 マティアスは確信しているように言った。

「密書にそう書かれていたのですか」

「それだけではない」

 マティアスは街道の先を指した。

「この道を進めば、川を渡る古い石橋がある。その先には、今も使える小さな宿駅が一つ残っている。馬を替え、シュヴァルツ伯の領地へ戻るなら最も早い」

「北へ逃げる道は?」

「小川と湿地を越えなければならん。晴れている今でも荷車は通しにくい。軍資金や書類を捨てる覚悟があれば逃げられるが、シュヴァルツ伯は捨てん」

「南は」

「こちらの騎兵に追いつかれる。広い街道へ出るまで身を隠す場所もない」

 俺は振り返った。

 林の向こうに、火槍隊を置く高まりがある。

 正面の戦場から見れば、古い街道までは大きく回り込まなければならない。

 だが、林を斜めに抜ければ、その距離を大幅に縮められる。

「だから、私の百人に林を進む訓練をさせたのですね」

「地形を見て、使えなければ別の策を考えるつもりだった」

「いつから、この街道を知っていたのですか」

「商人をしていれば、使われなくなった道も覚えている。使えない道と、使われていない道は違う」

 今は使われていないからといって、通れないわけではない。

 一万の軍が使う道にはならないが、百人なら通れる。

 そして、敗走する敵将が少数の護衛とともに使う道にもなる。

「四人の若い領主から、この道を使うと?」

 俺が尋ねると、マティアスはすぐには答えなかった。

 街道の左右と林の出口を見た後、護衛兵へ周囲を調べるよう命じる。

 兵たちが声の届かない場所まで離れたところで、マティアスは俺とレオンハルト、ユリウス、火槍兵長だけを近くへ呼んだ。

「敵陣の中に、俺と連絡を取っている者が四人いる」

 昨日聞いた言葉が、ようやく形を持った。

「四人とも領主なのですか」

「一人は父親がまだ生きているため、正式には領主の代理だ。だが、領地を動かしているのは本人だ。残る三人はすでに家督を継いでいる」

「年齢は?」

「十六から十八だ」

 俺と大きく変わらない。

 その年齢で領地を持ち、敵軍の中から寝返る道を探している。

「名前を聞いても?」

 マティアスは頷いた。

「ヴィクトル・フォン・ドルンハイム。十八歳。カスパル・フォン・ファルケナウ。十七歳。ロベルト・フォン・リンデンフェルス。同じく十七歳。最後が、エイドリアン・フォン・モルゲンフェルト。十六歳だ」

 知らない名前ばかりだった。

 だが、これからの戦を左右するかもしれない四人だ。

 俺は頭の中で、名前と年齢を繰り返した。

「四人は幼い頃から互いを知っている。父親たちが同じ戦へ参加し、領地も離れていなかった。子供の頃には、祝い事や狩りで何度も顔を合わせている」

「父親たちは、なぜシュヴァルツ伯へ?」

「領地が近い。血縁もある。兵糧や街道をシュヴァルツ伯に頼っていた家もある。反対したからといって、簡単に離れられる関係ではなかった」

「四人は反対していたのですか」

「少なくとも、今のように何度も兵を出すことには反対していた。だが、家督を継いでいない息子の意見で、父親が長年の関係を捨てられると思うか?」

 俺は首を横へ振った。

 貴族の家は、本人一人だけで動いているわけではない。

 血縁、婚姻、借金、街道、商人、家臣、領民。

 正しいと思った方へ、すぐに旗を変えられるほど単純ではない。

「最初の手紙には、レオンハルト殿下へお味方したいと書いてあった」

 マティアスが続ける。

「それで、敵地へ会いに行ったのですか」

「手紙一枚を信じて、四つの家へこちらの作戦を教えられるか」

「無理です」

「封印を調べた。筆跡も確かめた。使者がどの道を通り、誰と会ったかも調べた。四家しか知らない話を、別の返書に書かせた」

「それでも、自分で会いに行った」

「最後は顔を見る必要があった」

 マティアスは商人の格好で、敵地に近い交易宿へ向かった。

 荷車には空箱ではなく、本物の葡萄酒と布、塩を積んだ。

 護衛も武装を隠し、商会の使用人として振る舞った。

 もしシュヴァルツ伯側の兵に荷を調べられても、クレーマー商会と直接結びつかない小商人の一行にしか見えないようにしたという。

「四人全員が、同じ場所へ来たのですか」

「同じ日に来れば目立つ。二人ずつ、時間をずらして会った」

「本当に味方すると?」

「全員が言った」

「信じたのですか」

「言葉は信じていない」

 マティアスらしい答えだった。

「では、何を?」

「何を欲しがり、何を恐れているかを見た」

 四人が求めていたのは、レオンハルトのもとで高い地位を得ることではなかった。

 このままシュヴァルツ伯へ従えば、再び領民を兵として差し出さなければならない。

 食料も馬も奪われる。

 敗れれば、今度は若い領主たちが父親と同じ責任を負わされる。

 勝ったとしても、シュヴァルツ伯の力だけが増し、四人の領地が自由になるわけではない。

「四人は、自分の領地を守りたいのですね」

「それが一番大きい。立派な忠誠心ではない」

「ですが、分かりやすい理由です」

「人間は、何も得られない約束より、失いたくない物のために動く」

 マティアスはレオンハルトを見た。

「殿下には、四人の領地と家族を守る道を残していただきたいと頼みました」

「すでに返事はした」

 レオンハルトが言った。

「戦が終わった後、四人が正式に服従し、兵数、税、シュヴァルツ伯との関係を明らかにするなら、領地を奪わん。従わなかった家臣まで無条件で許すとは言わんが、領民を敵として扱うつもりもない」

「四人は、その条件を知っているのですか」

「知っている」

「なら、裏切る理由は減ります」

「なくなりはしない」

 レオンハルトの声は冷静だった。

「シュヴァルツ伯が勝つと思えば、こちらを売るかもしれん。家族を捕らえられれば、命令に従うかもしれん。若いから裏切らないということも、若いから信用できないということもない」

「では、四人をどこまで作戦へ入れるのですか」

「四人が何もしなくても、正面では勝てる形を作る」

 マティアスが答えた。

「三百挺の火縄銃が敵の前線を崩す。槍兵と騎兵が押し込む。四人の役目は、その後だ」

「敵軍を崩すためではない?」

「シュヴァルツ伯を取るためだ」

 やはり、この街道は敵将の退路だった。

 俺は道の先を見る。

 まだ誰もいない。

 だが、戦が始まれば、この細い道へ敗走兵と荷車が押し寄せるかもしれない。

「四人は敵陣のどこにいますか」

「配置は最後まで変わる。今の報告では、ヴィクトルは中央に近い。カスパルは軍議へ出入りできる家臣を持ち、攻撃の時刻と配置を送ってきた。ロベルトは後方の荷車と兵糧を任される可能性が高い。エイドリアンは騎兵を率いる」

「役割が分かれていますね」

「同じ場所で四人が同時に動けば、誰でも疑う」

 ヴィクトルは中央からシュヴァルツ伯の本陣を見る。

 本陣の旗が動いた時、自家の旗を決められた位置へ移し、退却が始まったことを知らせる。

 カスパルは軍議や命令の内容を、商品注文書へ変えて送り続ける。

 ロベルトは敗走が始まった時、兵糧や軍資金を積んだ荷車を古い街道へ向かわせる。

 敵の大切な荷を守ろうとしたように見せながら、道を塞ぐ。

 エイドリアンは騎兵の一部を動かし、シュヴァルツ伯の護衛へ合流しようとする兵を別の方向へ誘導する。

「露骨に道を塞げば、気づかれませんか」

 俺が尋ねる。

「戦場が静かならな」

 マティアスが答えた。

「正面が崩れ、味方の騎兵が突入し、何千人もの兵が逃げる中で、誰がどの命令を聞き違えたか確かめられると思うか?」

「難しいでしょう」

「ロベルトは、荷車を守るために安全な道へ移したように見せる。エイドリアンは、敵の騎兵を迎え撃つために動いたように見せる。ヴィクトルも、自分の兵を逃がすために旗を動かすだけだ」

「四人がシュヴァルツ伯へ刃を向けるわけではないのですね」

「向けさせん。今ここで公然と寝返れば、四人の領地に残った家族が危険になる」

「四人の領民も、シュヴァルツ伯側の兵に襲われるかもしれません」

「だから、戦が終わるまでは敵のふりをさせる」

 敵のふりをしている味方。

 そう考えかけて、俺は思い直した。

 まだ味方ではない。

 同じ目的のために、限られた範囲で協力しているだけだ。

「ヴィクトル・フォン・ドルンハイム」

 マティアスが、四人のうち最初の名前をもう一度口にした。

「お前は、こいつについて知っておく必要がある」

「私が?」

「ヴィクトルの父親は、前回の戦で死んだ」

 四人の父親が、以前の戦で死亡したり、傷を負ったりしたことは聞いていた。

 だが、なぜ俺が知っておく必要があるのか。

「どの戦場ですか」

「お前の火槍隊が、初めて十挺を使った場所だ」

 胸の奥が冷たくなった。

 最初の五挺が発砲し、敵の指揮官の頬を弾がかすめた。

 敵は、火槍は五つしかないと思った。

 撃った後はしばらく次が来ないと考え、約四百人へ突撃を命じた。

 その直後、残る五挺が発砲した。

 一発が、敵指揮官へ命中した。

「あの指揮官の息子ですか」

「そうだ」

 顔も名前も知らなかった。

 俺が覚えているのは、遠くで倒れた人影と、指揮官を失って崩れた兵たちだけだ。

 十挺の火縄銃で四百人を倒したわけではない。

 ただ一人の指揮官を失わせ、四百人を一時的に戦えなくした。

 そう考えていた。

 だが、その一人にも家族がいた。

 領地があり、家臣がいて、家督を継ぐ息子がいた。

「ヴィクトルは、私が父親を討ったことを知っていますか」

「知っている。火槍隊を指揮していたのがお前だということもな」

「それでも、こちらへ?」

「お前を許したわけではない」

 マティアスは曖昧にしなかった。

「恨んでいますか」

「恨んでいる」

 当然だと思った。

 父親を殺した武器を作り、その兵を指揮した人間が、俺だ。

 戦だったから仕方がないと言うことはできる。

 敵の指揮官が生きていれば、こちらの兵が死んでいた。

 俺は自分の兵を守るために撃たせた。

 それでも、息子の感情まで消えるわけではない。

「なぜ、その話を最初にしなかったのですか」

「四人へ会いに行く前のお前に話せば、どうした」

「分かりません」

「ヴィクトルへ謝罪の手紙を書いたかもしれん。自分が会いに行くと言ったかもしれん」

 否定できなかった。

「どちらも、あいつを危険に晒す。お前が知らなければ、ヴィクトルとのつながりを敵に悟られることもない」

「ヴィクトルは、私のもとで働くつもりなのですか」

「今は違う。あいつは自分の領地を守るため、シュヴァルツ伯を倒そうとしている。お前に仕えるためではない」

 俺が勝手に許されたと思ってはいけない。

 同じ側に立てば、過去のすべてが消えるわけではない。

「ヴィクトルは、父親を討った私より、シュヴァルツ伯を憎んでいるのですか」

「憎しみの大きさを比べる必要はない」

 マティアスは街道の土を靴先で踏んだ。

「父親へ突撃を命じさせ、敗れた後は責任を押しつけ、今度は息子に兵を出させる。ヴィクトルは、それを続ければ自分の領地が終わると考えた」

「だから、感情とは別にこちらを選んだ」

「十八歳で、それができる。俺はそこを評価した」

 父親を討った相手への恨みを抱えたまま、領地のために手を結ぶ。

 簡単にできることではない。

 ヴィクトルがどんな顔でマティアスと会ったのか、俺には分からない。

 俺の名前を口にした時、どんな声だったのかも聞けなかった。

 だが、戦が終われば会うことになる。

 その時、何を言えばいいのだろう。

 謝れば許されるとは思わない。

 戦だったと言い訳をしても意味はない。

「今は、ヴィクトルへ何か言おうと考えるな」

 俺の顔を見たマティアスが言った。

「まず、生きて会うところまで進め」

「はい」

「ヴィクトルも、お前もな」

 敵陣の中で正体を隠す四人の方が、俺より危険かもしれない。

 密書が見つかれば、戦が始まる前に処刑される。

 旗の動きを疑われても同じだ。

 彼らを助けるためにも、正面で勝たなければならない。

「私の百人は、この街道でシュヴァルツ伯を待つのですね」

「まだ決まったわけではない」

 レオンハルトが口を挟んだ。

「条件が揃わなければ、お前の百人は動かさん」

「敵の前線が崩れる前には抜かない、ということですか」

「それだけではない。シュヴァルツ伯の本陣旗が後方へ動く。ヴィクトルの旗から合図が出る。こちらの騎兵と槍兵が敵を押し込み、残る二百挺でも正面を維持できる。そのすべてを確かめる」

「一つの合図だけでは動かないのですね」

「敵が旗を倒しただけで、お前の百人が森へ消えたらどうする」

「正面の射撃が弱くなります」

「敵がまだ三千人をまとめて突撃させられる状態なら、その穴を狙われる」

 敵将を捕らえるために、戦そのものを危険にするわけにはいかない。

 三百挺の火縄銃が敵の主力を崩すことが先だ。

 その後で、百挺を別の目的へ使う。

「移動命令は、角笛だけですか」

「角笛と使者を使う」

 ユリウスが答えた。

「短い音を二度、その後に長く一度。ただし、それだけで動かないでください。私か、私が指名した使者が命令書を届けます」

「煙や戦場の音で、角笛を聞き違える可能性があります」

「だから両方を使います。旗の確認、角笛、使者。時間は掛かりますが、百人を誤って動かすよりはいい」

「承知しました」

 火槍兵長が街道の幅を歩いて測っている。

「ここへ着いた後、百人をどう分けますか」

「三十、三十、四十です」

 俺は街道の先と、林の出口を見比べた。

「三十人を街道の先へ出し、正面から来る騎兵を止めます。別の三十人を横へ置き、道を外れて突破しようとする者を止める。残る四十人は私とともに後方へ置きます」

「百挺を一度に撃たないのか」

「シュヴァルツ伯を生け捕りにするなら、一斉射撃は危険です」

 敵が何人で来るかは分からない。

 シュヴァルツ伯本人と五、六人だけかもしれない。

 百人の護衛を連れているかもしれない。

 敗走兵が先に押し寄せる可能性もある。

「最初の三十挺で先頭の馬を止めます。突破しようとすれば、次の三十挺。最後の四十挺は、敵が横へ逃げる場合と、最初の射撃が不発だった場合に残します」

「シュヴァルツ伯本人を狙うな」

 レオンハルトが命じた。

「はい。まず降伏を求めます」

「生きて捕らえれば、従っていた諸侯を切り離せる。誰が自分の意思で戦い、誰が命じられて兵を出したかも聞ける」

「死ねば、すべてをシュヴァルツ伯へ押しつける者が出ます」

 ユリウスの言うとおりだった。

 シュヴァルツ伯を討ち取れば、戦場では分かりやすい勝利になる。

 だが、その後の政治を考えれば、生かして捕らえた方が価値がある。

「敵が降伏しなかった場合は?」

「護衛を撃て。馬を倒せ。動けなくしてから囲め」

 レオンハルトは俺の腰の剣へ目を向けた。

「お前が一人で前へ出る必要はない」

「分かっています」

「本当に分かっている顔には見えんな」

「私も、好んで敵将と剣を交えたいわけではありません」

 こちらには百人がいる。

 火縄銃もある。

 槍を持つ支援兵も連れてこられる。

 わざわざ一騎討ちをする理由はない。

 前世の物語なら、敵の大将と主人公が向かい合い、互いの名を告げて戦う場面になるかもしれない。

 だが、現実の戦場で優先すべきなのは、生きて任務を終えることだ。

「四人には、この待ち伏せまで知らせているのですか」

「古い街道へシュヴァルツ伯を向かわせろとは伝えた」

 マティアスが答える。

「お前の百人が待つとは知らせていない」

「四人が捕らえられ、話す可能性を考えたのですね」

「知る者は少ない方がいい」

 マティアスが俺へ行き先を明かさなかったのと同じだ。

 四人は、自分に必要な役割だけを知っている。

 誰か一人が失敗しても、作戦のすべてが敵へ渡らないようにしている。

「四人が何もしなければ?」

「シュヴァルツ伯は普通に逃げる」

「この道を使わない可能性もあります」

「その時は追わん」

 マティアスは迷わず言った。

「正面で敵軍を崩し、こちらの勝利を残す。それが最優先だ。シュヴァルツ伯を欲しがって、火槍隊百人を森の中で失うようなことはさせん」

「四人がこちらを裏切った場合は?」

「その時も同じだ」

「罠があるかもしれません」

「だから斥候を先に入れる。林の出口と街道の先を調べる。百人を動かす直前にも、もう一度確認させる」

「それでも、完全には分かりません」

「戦で完全に分かることなどない」

 マティアスは古い街道から、正面の高まりがある方角へ顔を向けた。

「だから、四人へ勝敗を預けない。あいつらが動かなくても、正面では勝てる形を作る。動けば、シュヴァルツ伯まで取れる」

 三百挺が敵軍を崩す。

 槍兵と弓兵が火槍隊を守る。

 騎兵が混乱した敵の側面へ入る。

 四人が敵陣の中で、逃げる兵と荷車の流れを変える。

 俺の百人が林を抜け、古い街道を塞ぐ。

 どれか一つだけで勝つ作戦ではない。

 複数の動きが重なった時、シュヴァルツ伯を捕らえる機会が生まれる。

「四人は、戦が終わった後どうなりますか」

 俺はレオンハルトへ尋ねた。

「先ほど言ったとおりだ。正式に服従するなら、四家の領地は残す」

「シュヴァルツ伯側で戦ったことは?」

「何も問わないとは言わん。だが、父親の代から従わされ、離れれば領地を襲われる状況だったことは考慮する」

「領民は守られますか」

「略奪は禁じる。税と兵役については、戦後に改めて定める」

「ありがとうございます」

「なぜお前が礼を言う」

「私にも領地があります。領主が変わるたびに領民まで敵として扱われれば、いつか私の領民も同じ目に遭います」

 レオンハルトは俺を見た。

「お前は、四人を自分と重ねているのか」

「すべてが同じとは思いません。私はマティアス様へ仕える道を自分で選べました。アルベルト様も送り出してくださいました」

 ヴィクトルたちには、その道がなかった。

 父親がシュヴァルツ伯へ従った時、息子たちだけが別の主君を選ぶことはできなかった。

 家督を継いで初めて選べるようになったが、その時には家族も領民も敵側の土地に残っていた。

「ならば、四人が選んだ結果を見届けろ」

 レオンハルトが言った。

「ただし、哀れだから許すのではない。こちらへ移る価値があると、四人自身に示させる」

「はい」

 同情だけで領地を任せることはできない。

 四人が本当に領民を守れる人物なのかは、戦後も見なければならない。

 とくにヴィクトルとは、簡単な関係にはならないだろう。

 俺が父親を討った事実は変わらない。

 それでも、同じ主君のもとで働く日が来るかもしれない。

 今はまだ想像できなかった。

 周囲を調べていた斥候が戻ってきた。

「街道の先に敵兵はいません。新しい馬の跡もありませんでした」

「林の外は?」

 マティアスが尋ねる。

「東側に斥候らしき三騎を見ましたが、こちらには気づいていません。戦場正面へ向かいました」

「なら、戻るぞ。今日中に百人が通る道を決める。枝を落とせ。ただし、林の外から道ができたと分からないようにしろ」

「承知しました」

 火槍兵長は斥候とともに林へ戻る。

 木を何本も切り倒せば、敵に何かあると知らせることになる。

 低い枝だけを落とし、足を取られる倒木を脇へ動かす。

 道を作るというより、百人が迷わず通れる一本の線を林の中へ通すのだ。

 俺たちは高まりへ戻った。

 工兵たちはすでに長い溝を掘り始めていた。

 掘った土を籠へ入れ、後方へ積み上げている。

 槍兵が運んだ木材は、低い柵へ組み替えられていた。

 火槍隊の三百人も、箱から出した火縄銃を持って配置を確認している。

 まだ火縄に火は付けない。

 一発筒の入った弾薬箱も閉じたままだ。

「第一の百人、前へ!」

 火槍兵長の代わりに、既存の教官の一人が号令を出す。

 アレク直轄の百人が土塁の後ろへ並ぶ。

「構え!」

 三百挺がすべて揃ってから、戦場で並べるのは初めてだった。

 訓練場より横幅が広い。

 土の高さも均一ではなく、兵によって立つ位置が少しずつ違う。

 それでも、百本の鉄筒が同じ方向へ向く光景には、十挺の時にはなかった圧力がある。

「第一、後退! 第二、前へ!」

 第一の百人が下がる。

 後ろで待っていた第二の百人が、空いた場所へ進む。

 兵同士が肩をぶつけそうになり、何人かが足を止めた。

「走るな! 前を見ろ!」

 教官が怒鳴る。

 敵が来る前に見つかった失敗なら、直せる。

 通路を少し広げ、土塁へ上がる場所を増やす必要がある。

 第三の百人まで位置を確かめた後、俺は三人の百人隊を率いる者を集めた。

「戦が始まれば、ここは煙で見えにくくなります。隣の隊が動いたからといって、勝手に前へ出ないでください」

「赤い布が見えない場合は?」

「号令と角笛を使います。それでも分からなければ、その場で待ってください。撃てるかもしれないという判断で前へ出る方が危険です」

「第一の百人が途中で抜けた後は?」

「第二と第三で交互に撃ちます。装填が間に合わない時は、槍兵を前へ出してください」

「敵が近すぎれば、撃たずに下がりますか」

「火縄銃を槍代わりにしないでください。槍兵の後ろへ下がり、撃てる距離を作ります」

 三百挺を持っていても、敵が目の前まで来れば装填できない。

 火縄銃だけで戦列を守ることはできなかった。

 配置の確認が続く中、野営地の東側から騎兵が一騎、全速力で近づいてきた。

 味方の斥候だ。

 泥を跳ね上げながら高まりの下まで来ると、馬から飛び降りる。

「敵軍を確認しました!」

 周囲の声が止まった。

「距離は」

 ユリウスが尋ねる。

「東へ半日ほど。先頭は騎兵と槍兵です。街道の後方まで旗が続いています」

「数は」

「すべては見えません。ですが、一万に近いかと」

「シュヴァルツ伯の旗は?」

「中央に黒地の旗を確認しました」

 ついに来た。

 レオンハルトは伝令を呼び、各部隊へ配置準備を命じた。

 土塁と柵の作業は止めない。

 見張りを増やし、敵の斥候が近づけば追い払う。

 兵には食事を取らせ、日が暮れる前に武具を確認させる。

「高まりの上から見えるかもしれん」

 マティアスが東を見た。

 俺たちは再び高まりの最も高い場所へ上がった。

 しばらくは、草原と街道しか見えなかった。

 やがて、地平に小さな点が現れた。

 一つではない。

 槍の穂先が日の光を反し、その後ろから旗が次々に姿を見せる。

 先頭の部隊が現れても、後方はまだ見えない。

 騎兵、槍兵、弓兵、荷車。

 複数の諸侯が持つ旗が、長い列となって街道を進んでくる。

「あれがシュヴァルツ伯軍……」

 十挺で向き合った四百人とは違う。

 高まりから見ても、軍列の終わりが分からない。

 一万人という数字を聞いていた。

 だが、数字として知ることと、実際に一万人が近づいてくる光景を見ることは違った。

 俺たちの三百挺は、あの軍へ向けて発砲する。

「四人は、あの中にいるのですか」

「いる」

 マティアスが答えた。

「どの旗です?」

 マティアスは敵軍の中央に近い場所を指した。

「あの細長い旗がヴィクトルのものだ」

 遠すぎて、色と形を完全には見分けられない。

 だが、シュヴァルツ伯の黒い旗から、それほど離れていない。

 父親を俺の火槍隊に討たれた十八歳の領主が、あの旗の下にいる。

「少し左に二本並んでいる旗がカスパル。その後ろ、荷車に近い位置がロベルトだ。エイドリアンの騎兵は、まだ後方だろう」

「四人とも来たのですね」

「来なければ疑われる」

 敵として戦場へ来なければ、領地と家族を守れない。

 そして敵として来たからこそ、シュヴァルツ伯の動きを俺たちへ伝えられる。

「四人は来た」

 マティアスが低い声で言った。

「ここから先は、こちらが勝たなければ何も始まらん」

 四人がどれほど情報を送っても、正面で俺たちが敗れれば意味はない。

 火槍隊が崩れれば、四人は寝返る機会を失う。

 マティアスとのつながりが知られれば、反逆者として処刑されるだろう。

 俺は高まりの下に並ぶ三百人を見た。

 低い土塁。

 浅い溝。

 運ばれてくる柵と杭。

 その後ろに置かれた、三百挺の火縄銃。

 十挺から始まった武器が、今は三百人の手にある。

 だが、それだけでは足りない。

 火薬を運ぶ者がいる。

 槍で射手を守る者がいる。

 命令を伝える者がいる。

 敵陣の中で旗を動かす四人がいる。

 そして、それらを一つの勝利へ結びつけなければならない。

「敵は、今日中には攻めてこないでしょうか」

 俺が尋ねる。

「一万の兵が到着して、すぐ同時に動けると思うか?」

 マティアスが言った。

「無理です。後方の兵は、まだ街道を進んでいます」

「シュヴァルツ伯も野営地を作り、兵糧を配り、諸侯の配置を決めなければならん。早くても明日だ」

「なら、今日中に土塁と柵を仕上げます」

「兵を働かせすぎるな。明日、鍬を握れないほど疲れた兵は、槍も握れん」

「交代で休ませます」

 俺は火槍兵長を呼ぶため、高まりを下り始めた。

 林を通る百人の順番を決める。

 射撃後に火縄を安全な位置へ戻し、林へ入る前に火を管理する。

 古い街道へ到着した後、三十、三十、四十へ分かれる。

 それらを今日中に、もう一度確かめなければならない。

 敵軍の旗は、少しずつ大きくなっている。

 その中には、シュヴァルツ伯の黒い旗と、ヴィクトルたち四人の旗があった。

 正面には一万人。

 背後には林。

 その先には、敵将が逃げると予測された古い街道。

 火縄銃を作り始めた時、三百挺を並べて一万の軍と向き合う日が来るとは思っていなかった。

 歴史の中で、火縄銃を大量に並べた軍が騎兵や歩兵を打ち崩した戦を知っている。

 だが、知っているのは結果だけだ。

 実際に何人が火薬を運び、どれほどの兵が命令を聞き違え、何挺が火を噴かなかったのかまでは知らない。

 ここは、俺の知っている歴史と同じ戦場ではない。

 敵も、味方も、地形も違う。

 それでも、考え続けるしかない。

 俺はもう一度、敵軍の旗を見た。

 明日、あの一万人が動く。

 そして俺たちの三百挺も、初めて戦場で一つの武器として動くことになる。

第十八話を読んでいただき、ありがとうございました。

敵陣の中で機会を待つ四人の若い領主と、彼らの情報を利用したシュヴァルツ伯捕縛作戦が明らかになりました。しかし、すべての前提となるのは正面の戦いで勝つことです。次回、アレクたちは一万のシュヴァルツ伯軍を迎え撃つため、三百挺の火縄銃と各部隊の最終準備を進めます。


少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や【★★★★★】での評価で応援していただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。