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UN-KNOWN:チームQの潜入記録  作者: やた
プロローグ:「空白の12分間」

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1.ジオポリティクス101―三極のチェス盤

 スイス、ジュネーブ。レマン湖のほとりに佇む国際連合欧州本部(パレ・デ・ナシオン)の地下深くには、公的なフロア図には記載されていない講堂が存在する。


「諸君、まずこの数字を脳に刻んでおきたまえ。12,105、これが現在、この惑星で即時発射態勢にある核弾頭の総数だ」


 老練な男の、乾いた声が響いた。ハリー・エヴァンス。国際連合事務次官であり、この世界の「裏の調整役」を担う男だ。彼の前には、各国の情報機関から派遣された一握りのエリート候補生たちが、一様に硬い表情で座っている。


 彼らの背後で、巨大なホログラム・ディスプレイが静かに起動した。暗闇に浮かび上がるのは、青く光る地球の輪郭。だが、その表面はかつてのような国境線ではなく、三つの巨大な色分けによって塗りつぶされていた。


「二十世紀の冷戦は二極だった。単純な力比べだ。だが現代は違う。我々は今、最も不安定な『三極構造』のただ中にいる」


 エヴァンスが指を動かすと、北米、西欧、そして日本を含む太平洋の島々が、鋭い青色に染まった。


「第一の極、『西側諸国(The West)』。アメリカの軍事覇権とドルの金融ネットワーク。彼らは自由と民主主義という正義を掲げるが、その本質は圧倒的な海空軍力による制圧だ。だが、その一枚岩も内側からの分断という病に侵されつつある」


 続いて、ユーラシア大陸の北半分から東アジアの広大な領域が、重々しい赤色に明滅する。


「第二の極、『東側諸国(The East)』。ロシアの天然資源と、中国の巨大な製造サプライチェーンの結合。彼らはサイバー空間と地下工作において、西側の『正義』を無力化するハイブリッド戦の達人だ。力による現状変更を厭わない、最も野心的な勢力といえる」


 そして、最後に南半球からインド、中東、南米にかけて、流動的な黄金色が広がった。


「そして第三の極、『新興勢力(Global South)』。インドを筆頭とした非同盟の国々だ。彼らはどちらの陣営にも属さない。いや、属さないことで両陣営から最大限の利益を引き出す『キャスティングボート』を握っている。人口爆発と希少資源の独占。彼らがどちらに微笑むかで、世界の天秤は容易にひっくり返る」


 講堂内の温度が数度下がったかのような静寂が流れた。エヴァンスは教鞭を置き、候補生たちを一人ずつ見据える。


「国連という組織は、表向きは平和を謳っている。だが現実はどうだ?常任理事国が互いに拒否権を投げつけ合い、公的な対話は完全にマヒした。今、この瞬間も、三極の境界線――台湾海峡、ウクライナ東部、北極海――では、見えない指が核のトリガーにかけられている」


 ホログラムの地球上で、三つの色が激しく衝突し、火花を散らす箇所がいくつも赤く点滅し始めた。


「均衡とは、平和のことではない。互いの喉元にナイフを突きつけ合い、身動きが取れなくなっている状態を指す。そして、そのナイフが一ミリでも滑れば、人類の歴史はそこで幕を閉じる」


 エヴァンスは眼鏡を外し、疲れた目をこすった。


「公式な軍隊は動かせない。動かせば最後、全面戦争だ。ならば、誰がその『滑りかけたナイフ』を押し戻すのか?誰が記録に残らない戦いで、この壊れかけの天秤を支えるのか?」


 彼はホログラムを消去した。暗転した講堂に、彼の声だけが冷酷に響く。


「これから諸君に教えるのは、歴史書には決して載らない物語だ。平和という名の不愉快な嘘を維持するために、我々が支払っている『代償』についてだ」


 これが、世界の真実――「UN-KNOWN」への入り口だった。

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