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異界喫茶  作者: 昏片逢瀬


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第二章 記憶の本 第四話


「では、息子さんが連絡もなく家を空けるのは今回が初めてということですね」


 件の大学生はマメな性格だったのか、旧家の一人息子ということでそういう教育をされていたのか、どこに誰と出掛けるという報告を怠ったことはないらしいというのが、ここまでの聞き取り調査で得られた情報だ。

 警察に捜索願を出す前に心当たりの場所は全て調べたと言っていたが、漏れがないかの確認のために改めて話を聞きに訪れた家は流石旧家というべきか、かなり広かった。

 正直、この広さなら誰にも見つからずに隠れ続けることも出来るのではと思うくらいには。

 しかもこれが分家で、すぐ隣には本家の邸宅がある。そちらの一人息子と仲が良く、幼少期から互いの家を行き来していたらしい。

 家出、誘拐、自分のテリトリー内での雲隠れ。細の頭にそんな三択が浮かんだが、口にはしない。

 家族総出で本家も分家も家中隈なく探したと話していたので、最後の可能性は潰していいだろう。心当たりの場所も同じく総出で探したそうだが、こちらは念の為に細たちが再度訪れることになっている。

 聞き取った限りでは、いる可能性のある場所を本当に手当たり次第見て回っている印象だ。話の途中に追加で思い出す場所があったわけでもなく、あまり収穫はない。


「改めての確認になりますが、息子さんが突然家を空けるような原因に心当たりなどはありませんか?」


 再三繰り返された質問に、両親は特に心当たりはないと首を振る。

 当日の本人の行動を振り返ってもおかしなところはなく、夕食を一緒に食べてから入浴を済ませて出てくる姿までは目撃していたが、二階の自室に戻ってからのことは分からないという。両親が気付かないうちに下りてきて外に出ていったという可能性も大いにある。


「ありがとうございます。こちらから確認したかったことは、これで以上になります」


 因みに大学の友人に聞き込みをしたところ、卒業制作と就職活動のどちらも上手くいかずに悩んでいたらしいが、これまでの聞き取り調査の結果を見る限り両親には気付かれないようにしていたのだろう。

 だが敢えてこの情報を開示して両親を刺激する必要はないと判断し、細は聞き取りを終えることにした。


「あの、刑事さんたちに話しておきたいことがあるんです」


 別室で他の関係者たちに聞き取りをしていた愛瑛佳たちと合流し、今後の行動について話し合おうとしていた時、本家の少年が神妙な面持ちで話しかけてきた。

 彼は今日の聞き取り対象ではなかったはずだが、話したいことがあるというなら聞かないという選択肢はない。さっきまで聞き取りのために使っていた部屋に逆戻りして、話の続きを促した。


「神楽がいなくなる前日に、変なピエロから風船を貰ったって言っていたんです」


 細は、天を仰ぎたくなった。


「またか」


 そしてつい、苦々しく呟いてしまったのは仕方がないと思ってほしい。

 ここ最近、家出や誘拐を疑わせる事案に於いてそういった証言を聞くことが増えていたのだ。細たち以外の捜査チームからもその報告が上がるたび、課長が微妙な反応をすることに細は気付いていた。

 これを受けて細は以前、過去の捜査録を調べてみたことがある。

 このピエロの目撃証言は驚くべきことに随分と昔から記録されており、そのどれもが“特殊事案”として処理されていた。それはつまり、自分たち捜査一課の手に余るということ。

 嫌な予感を感じながらも、知ったからには報告しないわけにはいかない。愛瑛佳はピエロのことについて知っていることがないかを家族に確認をすると言って出て行ってしまったため、胡蝶だけをその場に残して上司へピエロの証言を伝えるべく電話を掛けた。

 細から「行方不明者が風船を配るピエロと出会っていた」という報告を聞いた上司からの返事は、「新しい指示があるまで捜査を続けろ」というものだった。

 再度の聞き込みでも大した成果はなかったという愛瑛佳と、ピエロの話をした少年と何か話していたらしい胡蝶と合流をして指示を伝える。「新しい指示」というものがどんなものになるのかは分からないが、とにかくそれがあるまで現場にいる細たちは変わらず捜査を続けるのみ。

 こうして、迅速に次の行動が決まった。


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