447 囚われのアニキとやら
「とりあえず、自己紹介をしておこう。俺はジン。こいつは相棒のレフだ。あとそろそろ立ってくれ。土下座だと話しづらい」
「にゃぁん!」
俺がそう言って名乗ると、男三人も立ち上がり、順番に名乗り始める。
「ジンの旦那、よろしくお願いしやす! 俺はハイロウといいやす!」
最初にハイロウと名乗ったのは、強者警戒というスキルを持つ二十代後半の男だ。灰色の髪と鋭い目つきをしており、狼のような雰囲気とごろつき感があった。
「私の名前はパルーフです。ジンの旦那。本当にありがとうございます!」
次にパルーフと名乗ったのは、紫色の長髪をした二十代半ばの男であり、まるで爬虫類のような印象を受ける細身の男だった。
「俺はオレンっす! よろしくお願いしやす!」
最後にオレンと名乗ったのは、オレンジ色の短髪をした小太りの男。年齢は二十代半ばといったところだ。身長も三人の中で一番高く、190cmくらいはありそうである。
灰色のハイロウ。紫色のパルーフ。オレンジ色のオレン。なんとも覚えやすい連中だ。
「それで、捕まったアニキというのは、どういうやつなんだ? まずは詳しいことを教えてくれ」
俺がそう問いかけると、ハイロウが代表して話し始める。
「ヘイ。アニキは元々アプルン男爵家の三男で、その名前をリゴル・アプルンといいやす。
この国でも有名な、あのアプルン男爵家ですぜ。ブルーフォレストの街から出荷されるアプルの実といえば、とても有名でさぁ」
リゴル。アプルン男爵家。ブルーフォレスト。初めて聞く家名と地名だが、なぜだろう。地球で噂を聞いたことのある、青森県という場所が脳裏によぎる……。
確か地球でも、青森県はリンゴがすごく採れたらしいが、荒廃した地球ではそうもいかない。だがその代わりにダンジョン内で、リンゴが襲ってくるという噂を耳にしたことがあった。
まあ今更それについては、どうでもいいことだけどな。
「なるほど。それでそのリゴルとやらは、どうしてこの街にいたんだ? それとお前らとの関係はなんなんだ?」
俺が続けてそう問いかけると、ハイロウがそれに答えた。
「ヘイ。アニキは三男で家を継げなかったのと、またアプルの実に辟易としていやして、それで冒険者になって家を飛び出したんでさぁ。
そして俺たちは小さい頃からアニキの子分でして、そのままアニキについてきた感じですぜ。これでもCランク冒険者まで、俺たちは成り上がったんでさぁ」
ふむ。見た目はチンピラやごろつきのような三人だが、元々は貴族の三男であるリゴルの子分だったらしい。
また通常Cランクとは、一目置かれる存在である。才能が無く、また努力のできない者は、上がれてもDランクまでが関の山なのだ。
そしてブラックヴァイパーというマフィアに捕まったのは、アプルン男爵家の三男だからだろうか?
またアプルの実で有名だとすれば、それが名産品として売れている証拠だ。何かしらの繋がりを得るために、捕えられてもおかしくはないかもしれない。
だが果たして、家を出た三男に実家を動かすだけの影響力があるのかは、正直微妙なところだ。家族愛が強ければ、まあ可能性はあるだろう。
俺がそう考えていると、ハイロウが続けて話しをする。
「それでこのシルダートの街にやってきてしばらく経った頃、つい一週間くらい前から、ブラックヴァイパーの連中がおかしくなったんでさぁ。
何でも強力な後ろ盾に加えて、かなりの戦力を同時に失ったらしく、それを補填するために後先考えなくなったんですぜ」
「後ろ盾?」
一週間くらい前と言われると、何だか嫌な予感がするな……。
すると俺のその予感は、皮肉にも的中してしまう。
「そうでさぁ。その後ろ盾とは、セマカという町を実質牛耳っていた、ジンジフレ教のハンスという男だったようですぜ。なんでも神の怒りに触れて、この世から消滅したという噂でさぁ」
「はぁ、またあいつは、消滅した後も俺を悩ませるのか……」
「へ?」
まさかまだ追加で、ハンスの置き土産が残っているとはな。いや、シルダートの街でも影響力を伸ばそうとしていたならば、後ろ暗い組織と繋がっていてもおかしくはないか。
たぶんそのブラックヴァイパーというマフィア内にも、ジンジフレ教の信者がいたのだろう。
そしてハンスの関係者として罰を受けたことにより、サーヴァントを失ったのだと思われる。戦力の喪失とは、それの可能性があった。
故にハンスが消滅した事実についても、即座に受け入れることができたのかもしれない。当時はおそらく、阿鼻叫喚の一大事になったことだろう。
だからこそブラックヴァイパーというマフィアの連中は、慌てて動き出したのだと思われる。神の怒りなど、予想できるはずがない。
しかしどちらにしてもハンス関連であれば、本格的に俺も動くことにしよう。ハンスについては、俺にも原因があるからな。
それとおそらくこの大陸にいる限り、ハンスの置き土産には、今後も遭遇する予感がしてならない。
正直ハンスの死んでも迷惑をかける度合いは、あのタヌゥカ以上だろう。
まあ成り上がり度を比較すると、タヌゥカよりもハンスの方が上だからな。
でも大陸全体を巻き込んだツクロダよりかは、幾分かはマシかもしれない。
そう思いながらも俺はため息を吐くと、ハイロウに続きを促す。
「いや、こちらの話だ。続けてくれ」
「へ、へい。それで奴らの計画が破綻しかけているらしく、辺境伯の代替わりという絶好のチャンスを逃すことはしたくないようで、なりふり構ってはいられなくなったようでさぁ。
それでアプルン男爵家の三男であるアニキが捕まってしまいやして、返してほしければ金貨百枚か、俺の力で代わりとなる強者を勧誘してこいと脅されているんでさぁ」
ハイロウのその言葉で、状況がかなり判明する。
そいつらは辺境伯の代替わりで、いったい何をするつもりなのだろうか。今代の辺境伯には手出しは難しいが、次代はそうした隙がある人物なのかもしれない。
もしかして次代は、暗君なのだろうか? マフィアと本格的に手を組みそうな人物だとしたら、少々面倒だな。
別にシルダートの街がどうなろうと関係ないが、ここに住むプリミナたちに影響が出るのは気に食わない。
最悪の場合は、何か手を考えた方がいいだろう。
それとハイロウたちは脅されていたみたいだが、正直そうした連中が素直にアニキとやらを返すとは思えない。
金貨百枚というのは、端から持ってくるとは思ってはいないだろう。
地球とは色々と物価や手に入る物などが違うが、だいたい大雑把に換算すると、金貨百枚とは、日本円にしておよそ五千万円~一億円である。
ちなみに荒廃した地球での価値ではなく、それ以前のまだ繁栄していた頃の物価に近い。地球で確かデータチップから、その頃の記録を見たことがあったような気がする。
まあどちらにしてもとてもではないが、Cランク冒険者が即座に集められる額ではない。
おそらくハイロウの強者警戒のスキルを知っていたからこそ、そうした命令を出したのだろう。
だが一人二人を勧誘したところで、金貨百枚とは釣り合わない。故にその際は難癖をつけて、永遠に酷使するつもりだったのかもしれない。
「なるほど。それで俺に声をかけたのは、そのマフィアに加われということか?」
「い、いえ、違いやす! いや、最初は言われた通り勧誘しようと思ったのですが、ジンの旦那の強者のオーラに圧倒されて、これならアニキを助けてもらえるかもしれないと思ったんでさぁ!」
そうか。それであのジャンピング土下座に繋がった訳か。
正直ブラックヴァイパーというマフィアはその名称と、ハンスの置き土産ということで不快な存在だ。
けれども同時に、時間潰しの相手としては十分だろう。ならその勧誘とやらに、乗っかろうではないか。
「ならちょうどいい。俺が勧誘されたことにして、そのマフィアに潜入しよう。それが一番手間が無さそうだ。またそのアニキとやらを助けるついでに、そのマフィアを内部から壊滅させよう」
「――ッ! あ、ありがとうございやす!」
「お、お願いします!」
「ど、どうかアニキのことを、助けて下さいっす!」
そう言って三人は、再度土下座をした。別に何度もしなくてもいいのだが。それくらい、アニキとやらが大切なのだろう。
さてと、それはそうとマフィアの内部に潜入か。何だか少し、ワクワクしてきたな。
俺はどこかそう思いながらも、潜入のために動き出すのであった。
昨日の十五日で、カクヨムでの初投稿から二周年を迎えました。
(小説家になろうには、後から投稿を始めました)
まさか二年も続くとは、驚きです。
最初は一年で終わらそうと思っていたのですが、気がついたらここまで続いていました。
それと文字数は二年でおよそ190万文字になりました。おしくも200万文字には届きませんでしたね。
正直今年中には完結を目指したいですが、一年予定の作品が二年を突破したので、どうなるかは未知数です。
また二周年を記念して、この章の終わりに毎度おなじみのSSを投稿します。
三年目も、どうぞ『モンカド』をよろしくお願いいたします。
乃神レンガ




