439 セマカのダンジョン ⑥
ダンジョンボスの部屋を出ると、そこには廊下が見える。
その廊下をしばらく進むと、最深部の部屋へと辿り着いた。
部屋の中央には、宝箱が一つ。その後ろには、赤色でキューブ状をした、1mほどのダンジョンコアが浮いている。
また部屋の隅には、帰還用と思われる魔法陣があった。ここが最深部で、間違いない。
名称:ダンジョンコア
説明
・ダンジョンを動かす心臓のようなものであり、破壊されるとダンジョンが崩壊する。
・ダンジョン内や周囲から得られた魔力を元にして、一定の期間経過でモンスターや宝箱などを全自動で補充する。
・魔力量が一定値を越えた場合、ダンジョンの外へと大量のモンスターを吐き出すことで魔力を消費する。
一応ダンジョンコアを鑑定してみたが、特に異常はなさそうだ。
とりあえずダンジョンコアに何かする気は無いので、さっそく宝箱を開けることにしよう。
これまでなら神経質なくらいに罠を警戒して、ゴブリンに宝箱を開けさせていた。
しかしこの規模のダンジョンでは、俺を害する罠を用意することはほぼ不可能だろう。
そもそもダンジョンボス攻略の宝箱は、罠が無いのが普通らしい。船のダンジョンでレッドアイが罠を仕掛けていたのが、例外なのだ。
故に俺は自分自身の手で、宝箱を開ける。
「わくわく。わくわく」
「にゃぁん!」
その瞬間を、リーフェとレフも待ち遠しいように見届けた。
そして開かれた宝箱の中から、一つずつ入っている物を取り出していく。
まず最初に入っていたのは、金銭がいくつか入っている袋である。
この世界に来た当初ならありがたかったが、今では大した額ではない。
まあ、これについては別にいいだろう。
そう思いながら、金銭の入った袋をストレージに収納しておく。
続いて取り出したのは、いくつかのスキルオーブだった。
地底湖が広がっているダンジョンだからか、水属性関連のものが二つ。それ以外が一つという感じである。
名称:ウォーターのスキルオーブ
説明
水属性適正があれば、使用することでウォーターのスキルが習得できる。
名称:ウォーターシールドのスキルオーブ
説明
水属性適正があれば、使用することでウォーターシールドのスキルが習得できる。
名称:投擲のスキルオーブ
説明
使用することで、投擲のスキルが習得できる。
鑑定してみると、それはなんとも微妙なラインナップだった。
ちなみにウォーターシールドは、水属性の中級に位置しているので、実際には前提となる下級水属性魔法をある程度使いこなしていなければいけない。
つまり水属性適性だけでは、習得できないのだ。なので、結構説明詐欺だったりする。
だがそれに近いスキルや関連スキルを習熟していれば、その限りではない。
前提となる下級スキルを使いこなしていなくとも、習得ができる可能性もあるのだ。この辺りは、少々複雑だったりする。
故に一般的な冒険者はダメもとで習得を試みた結果、運良く習得できたりすることもあるらしい。
失敗してもスキルオーブが消えることは無いので、試す冒険者は多かったりする。
なお当然だが、習得に成功するとスキルオーブは消えてなくなってしまう。
とりあえずこの三つは現状習得する気は無いので、ストレージへとしまっておいた。いつか使う日が、来るかもしれない。
そして最後に入っていたのは、一本の槍である。鉄製のようであり、全体的に赤色をしていた。
なんとなく、ハイサハギンが所持していた槍に酷似しているような気がする。
そう思いつつ、鑑定を発動した。
名称:サハギン族の鉄槍
説明
・適性があればスキル【スピア】【連撃】【スローイングスピア】が使用可能になる。
・この槍は水中で使用する際に、水の抵抗を軽減する。
・この槍は投擲した際に、持ち主の手元へと呼び戻すことができる。
・この槍は時間経過と共に修復されていく。
ふむ。中々良い武器のようだ。水中戦はほとんどしないとは思うが、投擲後に戻ってくるのが面白い。
全体の長さは2mほどで、穂の部分には、ダガーのような刀身が付いている。反対側の下部分は、石突となっていた。
また柄の部分も含めて全て鉄製のようであり、仮に一般人が使うには少々重いかもしれない。
そして色合いは石突から穂に至るまで、赤一色である。ハイサハギンカラーだった。
見た目も悪くないし、槍属性適性を持つ中堅冒険者までなら、喉から手が出るくらいにはほしい槍かもしれない。
試しに壁に投擲してみると、容易に壁へと突き刺さる。
ちなみにダンジョンにもよるが、壁はある程度の深さまでは、破壊することが可能だ。また時間が経過すると、壁は再生したりもする。
そして次に手を伸ばして呼び戻すように念じて見ると、槍がその場から消えて手元に戻ってきた。
「おおっ、これは凄いな」
「戻ってきた~!」
「にゃぁん」
これはまさしく、ダンジョンボスだったハイサハギンが使用していた、投擲回収と同じものである。
見れば今の投擲による刃こぼれや歪み、先端の凹みなども無いので、丈夫さもあった。
また魔神剣や聖剣も同じことができるが、まさかこのレベルのダンジョンから手に入った物で可能なのは、意外と凄いことかもしれない。
それと一応このセマカのダンジョンは、Cランクのダンジョンとなっている。ダンジョンの格としては、中級という感じだ。
なおダンジョンの等級については、一般的には以下のようになっている。
Fランク、Eランク=下級
Dランク、Cランク=中級
Bランク、Aランク=上級
Sランク以上=超級
ランクは様々な条件によって変動するらしいが、おおむねダンジョンボスのランクと同じ場合が多い。
なのでCランクのハイサハギンがダンジョンボスのこのダンジョンは、Cランクダンジョンという訳である。
ちなみに城のダンジョンは、間違いなく超級ダンジョンだろう。女王自身のランクというよりも、それ以外の部分で引き上げられている。
まあ、現状ゲヘナデモクレスが待機している時点で、超級の中でもかなり危険なダンジョンになっていることだろう。
また超級より上は無いらしいので、超級の中でもピンキリが激しそうである。
少々話が脱線したが、つまりこのサハギン族の鉄槍は、ダンジョンのランクを考えれば優秀な方ということだ。
使いやすそうだし、俺も機会があれば使ってみようと思う。
とりあえず持っていても邪魔なので、ストレージに今は入れておく。
これで宝箱の中身は、以上だ。
明らかに槍が入る大きさではないが、そこはいつものことなので気にしない。
さて、これでセマカのダンジョンも、無事に踏破した。やることも済んだし、ダンジョンから出るとしよう。
「という訳で、ダンジョン観光も終わりだ。撤収するぞ」
「にゃぁん!」
「え~。もうおしまい~?」
レフとリーフェはまだ遊び足りない感じだが、やることはもう無いので、ダンジョンから出ることにした。
またここでリーフェの役割は終わったので、カードへと戻す。
「まだ戻りたくないのに~!」
少しかわいそうだが、それを許すと全てのネームドが常に出っぱなしになりかねない。
レフやゲヘナデモクレスはもう諦めているが、配下は可能な限りカードへと戻しておくことにしている。
それにカードの中というのは、とても居心地が良いらしい。リーフェも文句を言っていたが、実際はすんなりと戻っていった。
「さて、行くか」
「にゃんにゃ」
そうしてレフと共に俺は魔法陣を使い、ダンジョンを出る。
魔法陣によって移動した先は、どこかの部屋の中だった。
「まあ、聞いてはいたが、やはりこういう場所に出るのか」
「にゃぁん」
以前ハパンナダンジョンをクリアした時を、彷彿とさせる。あの時も魔法陣による転移先が、こうした部屋だった記憶があった。
おそらく町の近くにあるダンジョンは、こうしたことが普通なのかもしれない。今後似たようなことが、多い予感がした。
それとブッチ代官から教えてもらっていたが、どうやらこの部屋は、ハンスが実質支配していた建物の中らしい。
親衛隊以外がダンジョンをクリアすると、色々と面倒なことになっていたようだ。
またこの建物は、親衛隊が休憩や作戦会議などを行ったりしていたらしい。
なので親衛隊以外が現れた時を想定したか、部屋の中は殺風景で窓などは無かった。
ドアも鉄製であり、頑丈で当然のように施錠されている。
こういう時にクモドクロがいないのが、残念でならない。
まあそもそもクモドクロはヴラシュと融合しているし、女王に譲渡済みだ。なので既に俺の手を離れている。
加えて神授スキルである盗賊の極意を所持しているアンクについても、現在ここにはいない。残留組として置いてきている。
これは斥候系の配下を、いずれ何体か所有していた方がいいだろう。今回のように、アンクがいない場合もある。
だがまあ、他に方法が無いわけではない。
俺はストレージから、とある魔道具を取り出した。
それは一見するとただの鉄の鍵のように見えるが、その効果はとても有用だ。
名称:魔法の鍵(中級)
説明
使用することで、中級開錠の効果を発動する。
この通り、中級開錠の効果を持った魔道具である。以前城のダンジョンに侵入者が来た際に、手に入れた物だった。
それも俺が眠る前、まだ城のダンジョンに来て間もない頃だったので、少し懐かしい。これまでは、ストレージ内で眠っていたのだ。
とりあえずドアノブ付近に近づけて、使用することを意識してみる。すると魔法の鍵が一瞬淡く光り、鉄のドアから開錠を示す音が聞こえた。
よし、問題なく開錠できたみたいだな。初めて使ったが、とても優秀な魔道具だ。
なお無理そうなら力づくで開けてたので、仮に開かなくとも、全く問題はなかったりする。
そうして魔法の鍵を再びストレージにしまうと、俺は鉄のドアを開けるのだった。




