外道勇者はかく在りき
中編の連作物です。
この話は外道な主人公が色々やらかしますので苦手な方はロールバックORクローズ推奨です。
それでもって方はどうぞお読みください。
なお、小説書くの数か月ぶりです。
俺は勇者だ。
こう言うと頭の心配をされるか距離を取られてしまうのだが、残念、これ本当の事なんだ。
ただし、外道って言葉が付くけどな。
なぜ俺が勇者をやっているかといえば、物語にありがちな勇者召喚で異世界に転移して来たからだ。
召喚したのは人族至上主義のファーラン王国で、召喚理由は魔王を倒して欲しい、というものだった。
物凄いテンプレである。
あと、勇者と言いつつ奴隷契約を強制させられていたり、魔王は存在せず実は異種族の王でした、と来れば反逆テンプレになる。
だがそういった事はなく、実際に魔物を操る魔王は存在し、人族を含めた全ての国家に対して宣戦布告の後戦争を仕掛けてきたそうだ。
ここで各国が一致団結していれば俺が召喚される事もなかったのだが、人族至上主義国家が存在するように異種族同士での連携が難しかったから連戦連敗だ。
どこにでもいる高校生だった俺からすればアホじゃね?と、言いたくなるのだがテンプレといえばテンプレだな、この展開。
国家間の連携が取れないってのは俺たちの世界でもよくある事だし当たり前かも。
だからこそ嘗ての二度の大戦は終結まで時間が掛かったし。
そういった経緯に陥った残った国々は神話に語られる勇者召喚に懸けてみた、という事だ。
そうやって登場したのが俺こと勇者アカギだ。
ちなみに勇者召喚したのはファーラン王国内にある女神教神殿で行われ、召喚者は女神に命を捧げてしまってもういない。
ゆえにこの世界の者では送還は不可能との事だ。
召喚の代表であるファーラン王曰く、魔王を倒せば女神がその功績を称え願いを叶えてくれるそうなので、それで帰れる、らしい。
マジふざけるな、と誰でも思う案件だ。
この世界の国々が総出で頑張っても倒せない魔王を頂点とした超大国を俺に倒せって、無理ゲーだろ、マジで。
でも、無理ゲーってほどでもないらしい。
この勇者召喚で現れた勇者ってのは、人々の希望を力に変える能力が与えられており、生き残った人々は俺に希望を託しているので凄まじい力が宿っているのだと。
じゃあ、試してみようと近くにいた騎士ぽい恰好の青年から剣を拝借して振ってみた。
見た目かなり重そうな騎士剣を片手で持て、しかも全力で振った剣から遅れてびゅっと音がして真空の刃が飛んで神殿の柱や壁を切り裂いた。
うん、マジすげえな勇者。
こうして俺は不満はあるも手に入れた万能感に酔いしれて、魔王討伐の勇者となったのだ。
じゃあ、なぜ俺が外道なのかといえば、調子に乗りすぎたから、が原因だろう。
本当に凄かったのだ、勇者パワーというものは。
今までガキの頃にヒーローごっこでしか棒を振った事がなく、戦闘経験なんてガキの喧嘩しかやった事のない俺が、いきなり実戦に出て勝利しちゃったのがいけなかったと思う。
生物殺害の恐怖や嫌悪は女神の加護で感じなかったのが初戦での勝利に大きく貢献した。
ブレイブハートと呼ばれる効果らしいのだが、高位の司祭が使う魔法の効果を常に受けているのが俺、勇者アカギだ。
だから何故か気も大きいので、庶民である俺が各国の王や貴族といった存在に対しても泰然としていられるのだ。
流石勇者さま、凄いぞ勇者さま、と民衆から貴族から王から言われたらどんどん調子に乗るというものだ。
最初の内は調子に乗るだけで外道ではなかったのだが、美少女や美女が寄って来始めたら外道臭がプンプン臭いだしたのだ。
強い男に惚れるのが女の性、というだけなら問題はなかっただろう。
でも、こんな超兵器である勇者アカギをただ戦いにだけ使うのなら権力者ではない。
幾つかの国を魔王軍から解放したあたりから各国の王や貴族が戦後に関する皮算用を始めたのが決定的だと思う。
最初は生き残った亡国の王族が接触してきて姫や貴族の娘、未亡人を俺に宛がった。
元の世界では童貞だった俺も、こちらの世界に召喚されて解放した村娘などから誘われ卒業していたし、女神の加護で気が大きくなっているからそりゃ与えられたら貪った。
かわいい村娘たちがクラスでかわいいと言われるレベルだとしたら、貴族の娘や未亡人は日本人アイドルや女優レベル、王族の姫は世界的女優レベル。
そりゃ溺れる溺れる、当たり前じゃないか、そんな美少女や美女を宛がわれたら。
戦いで高ぶった気持ちを発散するように喰いまくっていたが、そのうちもっと喰いたいと思うようになってきた。
それが外道勇者の始まりだ。
どれだけ外道だったかといえば、幾つかあるので例を挙げよう。
ある時、亡国の王族が俺に会いたいと言ってきた。
取り敢えず会ってみれば何時もの如く自国を解放して欲しいとのお願いだった。
ただし他国と違って美少女や美女の斡旋はなかったのだ。
その王族、王子らしいのだが妹である姫を溺愛しており、その姫が唯一の家族であり、貴族の未亡人や娘もいない、対象がその姫だけだったのだ。
だから俺は言ってやった。
「あなたは私に命を懸けて国を取り返せと言いますが、あなたは私に何を与えてくれるのですか? まさか勇者は無償で働く奴隷と思っていませんか?」と。
他国がやっている行為を知っていた王子は顔を歪ませながらも懇願した、俺に国を取り返して欲しい、と。
報酬は国を取り返してから払う、と。
取り敢えず王子には了承しておいたが、その後俺はその姫に会いに行き、喰った。
「あなたの兄は俺に命を懸けて国を取り返せと言うが渡せる報酬は何もない、と言いました。あなたも私に同じ事を言いますか?」と迫り、初めて強姦行為に及んだ。
序とばかりに姫の侍女も一緒に喰い、王子が払えないから姫から貰った、と姫にはこの事は黙っておくように言った。
もしばらせば無償で命を懸けさせるせこい国だと他国に言いふらすと脅しておいて。
なお、その国は解放したが戦いに同行した王子は魔物にやられて戦死し、姫は自殺した。
そして報酬は姫の侍女を貰い飽きるまで喰い尽くし、その国は他国、俺に姫を宛がった国に併合される事となった。
ある国を解放した時の話もしよう。
その国の解放戦は激戦で、俺もちょっとやばかった。
何せ連れてきた解放済みの国の貴族娘に乗って腰を振っている時に強襲を受けたからな。
この娘は俺が気に入っている美少女で、他に女がいない場合には必ず寝床に連れて行き、どこにでも連れて行った。
それこそ戦場だろうと戦勝祝いの宴の席だろうと。
気に入っている理由は元の世界のクラスメイト、告白したが振られた学校一かわいいと評判だった女子にそっくりだったからだ。
性格は貴族娘の方が良い、と言っても俺に都合が良いってだけだがそこも気に入っている理由だ。
だからその日も腰を振っていたのだが、解放した町の領主館で汗だくになっていた時に魔物が夜襲を掛けてきたのだ。
しかも領主館にまで魔物が押し寄せて来ていても気が付かないぐらいのめり込んでいたから最悪だ。
「ア、アカギ様。そ、外が騒がし、あんっ」と、貴族娘は気が付いていたようだが俺は気にせず腰を振る。
そんな俺の寝室に背中から飛び込んで来たのは貴族娘の国の王子、俺の護衛役をずっと続けて来ていた騎士の青年だ。
「アカギ! 魔物の夜襲だ、準備してくれ!」と叫ぶ王子の顔には血が流れており、どうやら襲撃の際に怪我をしたらしい。
なお、この王子は貴族娘の元婚約者なのだが俺が寝取ったという過去があり、それでも自国を解放した勇者に感謝して今まで一緒に戦ってきた。
俺は流石に腰を止めて王子を見ると、部屋の外では他の騎士が魔物、ハイオーガと呼ばれる高位の魔物と戦っている。
騎士はすぐに倒され今度は王子が剣を向けて戦い始め、俺は腰を振るのを再開する。
「ア、アカギ様、レオン様がっ、あん」と俺を止めようとする貴族娘。
「アンジェ、もうちょっとでイキそうなんだ。それまで、だ」とさらに腰を振る速度を速める俺。
「くぅ、アンジェ」と元婚約者のあられもない姿を見せられながらもハイオーガと死闘を行う王子。
そして俺はイキ尽き、王子はハイオーガを倒すが逝き尽いた。
元婚約者で愛した王子を目の前で亡くし、しかも俺によってあられもない姿を見せられた貴族娘は涙した。
その姿を見て俺はさらに興奮してその後も腰を振り続け、魔物の襲撃が終わったのは解放軍の半数が戦死した後だった。
俺は最後に襲撃者のリーダーである魔王軍の大幹部を殺しただけだ。
他にも外道話はあるのだが、もういいよな?
それよりも外道勇者アカギはどうなったかだが、結果だけ言えば魔王討伐は成功して魔物を辺境まで追いやった。
どうやって魔王を倒したかと言えば外道勇者の名に恥じない勇者ぶりで、だ。
解放した国に魔王軍を呼び寄せ、解放軍のほとんどと魔王軍が決戦を行うようにどんどん誘導していき、俺は決戦直前に姿を消した。
ちなみに一人を除いて解放軍全員には姿を消す事を事前に告げていない。
俺がいない解放軍はもちろん全滅し、解放済みだった国に魔物が殺到して再度国が蹂躙された。
勇者によって負け続けていた魔王軍はそのうっぷんを晴らすかのようにそれはもう蹂躙しまくった。
だから魔王がいる城の守りに残っている魔物は数が少なかった。
その守りが薄い魔王城に外道勇者アカギは数人の供を連れて強襲し、魔王の元まで辿り着いた。
供はすでに誰もいない、一人だけで魔王と対峙した俺。
「お前が勇者か」と魔王はその俺に話しかけた。
「そうだ、私が勇者だ。あなたが魔王か?」と返答し、俺は剣を鞘に納めた。
俺の行動に訝しむが魔王は話を続けた。
「まさか生き残っていたとはな。先頃の決戦で果てたと思っていたのだが」と魔王は俺がここにいる理由が知りたいが為、会話を続けるようだ。
その誘いは俺にとってもありがたい事。
なぜなら俺は時間を稼ぐ必要があったのだ。
だから解放軍全軍を囮にした今回の作戦を詳しく説明してやった、ただ一つの事だけを除いて。
「アカギ様! 見つけてまいりました!」と供の一人、行動を共にし続けた事で強くなった貴族娘が俺たちの元にやってきた。
「なっ、お前!」と貴族娘が連れてきた少女を見て目を見開き俺に咆哮する魔王。
その少女は魔王と同じ魔族の娘でとても美しい、いや、かわいいといった方がよい容姿の少女だ。
人間だと十歳前後といった見た目。
その魔族娘は魔法でも撃ち込まれたのか生きてはいるがぐったりとしており、貴族娘に無理やり連行されているにも関わらずほぼ抵抗していない。
捕まえた魔物、魔王軍の幹部などから拷問して聞いた勝利へのカギ。
魔物最強、いやこの世界最強の存在である魔王唯一の弱点である魔族の少女。
この魔族娘こそ、魔王の後継者、魔族の姫だ。
「他の者はどうしましたか、アンジェ?」と他の供が見当たらないので一応聞いてみた。
「ユーリをはじめ全員、全員死にました」と悲しそうな表情で貴族娘は他の供が全滅した事を報告する。
ユーリとは俺に魔法を教えたファーラン王国の魔導士で、俺の強制ハーレムの一人だ。
他の供も似たような少女たちだったのだが全て死んでしまったらしい。
「そうですか。もっと抱きたかったな」と俺は後悔を口にした。
だが今は後悔している場合じゃない。
何せ魔王が目の前にいて、倒すのだから。
「勇者なのに人質を取るとは」
「これは戦争ですよ?戦いを有利に進めようと努力するのは当然だと思います」
「くっ、だが我は魔王。ここで倒れる訳にはいかんのだ!」
「アンジェ、その娘に止めを刺してください」
「や、やめろおおおおおおおおおおお!」
後は娘へ駆け寄ろうと隙だらけになった魔王の首をちょんぱする事なんて簡単なお仕事だったよ。
こうして魔王を倒して世界を救った俺だが元の世界には帰らなかった。
なぜなら俺はこの世界が気に入っていたからだ。
俺が外道だと自認しているのはこの行為の数々と、心では汚い口調の若者言葉なのに口を開けば丁寧な口調なところだ。
昔から口から出る言葉は心にもないものが多く、年上などには丁寧な言葉使いを心掛けてきた。
この世界に召喚されて命を懸ける事を強要された恨み、年不相応の贅沢と女を与えられて溺れただけが外道の始まりじゃない。
もともと俺には外道の素養があったのだ。
その外道行為が許されてしまう勇者という立場はとても都合が良く、俺はこの世界に残る事にしたのだ。
一応女神と会う事はできた。
女神は美しく、今まで出会った中で一番美しい女に要求した。
「あなたを所望します。私の妻の一人になって欲しい」と。
その要求は叶えられなかったので保留という事にしておいた。
もし心から叶えてもらいたい願いが出たら叶えて欲しい、と。
女神はその提案を了承し消えた。
そして俺はファーラン王国へと凱旋し、真の意味で救国、いや救世の勇者となった。
各国から感謝され、俺が気に入った美女や美少女を報酬として貰い、魔王城を俺の宮殿とした。
名目は魔王の残党を監視する為に駐留し、その世話係として女性たちが派遣される、と。
本当に駐留軍は存在するが魔王城とは離れた場所におり、魔王城は俺のハーレムだ。
もちろん侍女などの城を維持したり食事の用意をする召使いも全て女性だ。
ほとんど喰った事のある村娘で気に入っている美少女ばかりだ。
ああ、そうそう。
魔王の娘も俺が喰い、今では俺のハーレムの一人だ。
初めて魔族娘を喰ったのは魔王討伐の直後で、魔王の首の前で犯してやった。
あの魔王、首だけになっても数分生きてやがったから止めを刺す意味でもやったのだが、若すぎる娘はかなり良かったのでそのまま俺のお気に入りとした。
各国の王族、特に人族至上主義のファーラン王国は魔族娘を公開処刑するよう要求してきたが、あの国は俺に報酬が払えなかったので代わりとした。
あの国の姫はダメだ。
なぜダメかと言えば凄く太っていて食指が沸かない、豚人と評されるオークを誰が性的に喰いたいと思うのだ。
そしてその姫が俺の元にやってきた。
その日が俺の外道勇者としての最後の日になった、記念すべき日だ。
俺が魔王を倒して魔王城、今は勇者城と呼ばれる城でハーレムを築いて一年が経とうとしていた。
俺のハーレムの過半数が妊娠し、俺の子がお腹に宿っている。
すでに長男、俺の後継者は生まれており、俺が一番気に入っている貴族娘ことアンジェとの子だ。
貴族娘は先日二人目の子を宿した事が判明し、今日は魔族娘を徹底的に喰うつもりでいたのだが、召使いの元村娘の一人が来客の報告に現れた。
あれから一年経ったがまだまだ俺への反骨心を失わない魔族娘をいつかデレさせてやろうと気に入っている。
昨日も昼から部屋に押入り、無理やり喰ったがまた喰いたくなっていたのだ。
そんな時に現れたのがファーラン王国の姫だ。
「お久しぶりですね、アカギさん」
「ええ、お久しぶりですね、リリアンヌ様」
この姫は容姿こそ食指が沸かないのだが、この世界の王侯貴族の中で唯一俺に対して横柄でも媚び諂うでもなく、マイナスの感情も向けてこない存在だ。
正妃ともいうべき一番のお気に入りである貴族娘ですら、俺に恐怖の感情を若干抱いているというのにだ。
その稀有な存在である姫がなぜここにやってきたのかが分からない。
それが何故か心を騒めかせた。
「初めてお会いしてから三年は経ちましたがアカギさんは変わりませんね」
いえ、変わっただろ俺。
何せ今や外道だぞ、外道。
確かに姫に対する態度や口調は変わってないけど。
「そうでしょうか? これでも少しは逞しくなったと思うのですが」
「うふふ、外見は変わりました。しかも良いようにです。とても魅力的ですよ」
「あ、ありがとうございます」
なんで俺は感謝の言葉なんか言ってるんだ、しかもどもりながら。
調子が狂う、という言葉が今の俺にぴったりだと思う。
「それでリリアンヌ様の訪問理由をお聞かせいただきますか?」
「父より書状を預かってまいりました」
ペースを取り戻すために公的な対応を求め、来た理由を聞くとファーラン王の使いだという。
それぐらい外交官とかに任せれば良い気がするのだが、女好きだから姫を寄越したのか?
だが姫を差し出すという話は断ったはずだ、一年前に。
だから俺に対して媚び諂う為に姫を寄越す意味が分からない。
その答えは姫に追従してきた文官が持つ書状を見れば分かるのだろう。
俺は召使いを経由してその書状を無造作に開いた。
そこには俺の最後を告げるものが書いてあった。
女神の加護、勇者の力を封印する魔法陣が。
「なっ、なぜ今になって!?」
光の鎖が俺を縛り、内に眠る力が封じられて行くのを感じる。
もし、こういう事をしてくるなら魔王討伐直後で、もう諦めただろうと油断していた俺はあっさりと罠に掛った。
そして、いつの間にか目の前まで来ていた文官、俺が寝取った魔王討伐の直前に死んだ魔導士ユーリの元恋人だった魔導士、その青年が魔法を放つ。
「一年という時間は怪物も流石に油断させたか。お前はお払い箱だよ、勇者アカギ」
こうして外道勇者アカギは死んだのだ。
勇者は世界を救う事を望まれたが、調子に乗りやりすぎて外道になった俺は死を望まれた、そういう事だ。
人々の願いが力となる勇者は望まれなくなれば力を失う。
俺がやってきた数々の外道ぷりが世界中の人々に知れ渡り、しかも現在は強制的に各国の王侯貴族の娘を集めてハーレム三昧というおまけ付き。
そんな勇者を見限るのは当然だったのだろう、書状に書かれた術式はそれを知らせる伝達の魔法陣だったのだ。
だから俺は勇者としての力を失い、下級魔導士だった青年の魔法で死の淵まで追い込まれた。
こうなってしまってはどうやっても助からない。
だから俺に対して涙を流しながら回復の魔法を掛けてくる貴族娘の努力は実らない。
俺に抱き着いて女神に懇願する姫の言葉も意味をなさない。
他の者、魔族娘をはじめとしたハーレムの女たちも、召使いの元村娘たちも俺の傍には来ない。
ああ、俺の事を本当に考えてくれていたのはこの二人だけだったのか。
いや、もし生きていたなら見殺しにした王子も、もしかしたかも知れない。
俺はこの世界に召喚、拉致されて隠れていた外道が噴出したからこうなった、当然の帰結だ。
だから殺される事に恨みはない。
ただ思うのは、もっと違う生き方をすればよかった、と。
貴族娘、アンジェの事は本当の意味で愛して求婚すればよかった。
考えれば考えるほど俺はアンジェが好きで、彼女に救われてきた。
もし彼女が居なければ俺はもっと早く殺されていただろう、欲望を抑えきれない獣として。
彼女との行為が気持ち良かった、だけではなく、会話などのやり取りがとても心地良かったのだ。
それに俺へと向けてくれる笑顔には、嘘はなかったと思う。
そんなアンジェの元婚約者だった王子、レオンからアンジェを無理やり奪うなどと卑劣な事をしなければよかったのだ。
奪った俺に思う事があったはずなのに、王子としての立場だけじゃなく無理やり召喚されて命を懸けさせられた俺に同情し、ずいぶん力になってくれた。
剣など扱った事がない俺に剣術を教えてくれ、危ないところを何度も救ってもらった。
この世界で出会った男性で唯一普通に話してくれる存在だった彼は、友人になれたはずだったからだ。
そして俺を召喚するのを主導したファーラン王国の姫であるリリアンヌの事も、もっとちゃんと向き合えばよかった。
リリアンヌは確かに太っていたかもしれないが、心根で言えば誰よりも美しく、最高の女性だった。
彼女の侍女から聞いた話では、リリアンヌの母であるファーラン王妃はまだリリアンヌが十歳の時に病気で亡くなったそうだ。
その時の悲しみから拒食症になってしまい、王の決定にて魔術で魔力をロスなく栄養に変換するようにされ、今ではあの容姿になってしまった、と。
「ああ、女神。願いが決まった」
「アカギ様!」
「アンジェと子供たちの幸福を。そしてリリアンヌ様の魔法を解除、してくださ」
「アカギさん!」
保留にしていた魔王討伐の報酬を女神へ願い、俺は死んだ。
最後は外道ではなく、すっきりとした気持ちで逝けたのだった。
「はい、願いは受け付けました。次は間違わないように頑張ってね。間違わなければ求婚も受けるかもしれないわよ」
「え?」
「おお、そなたが勇者か。名は何と言う?」
「え?」
目の前には精悍な顔だちの中年、王の威厳を醸し出した男性がいた。
と、言うかファーラン王だ。
「そなたは女神へと願った奇跡により召喚されし勇者だ」
あれぇ?
なぜ俺はファーラン王にまた勇者召喚されているんでしょう。
と思ったのだが、何故かすっきりした気分の俺の思考はとても回転が良く、女神の言葉を思い出していた。
願いは受け付けました。次は間違わないように頑張ってね、と。
魔王討伐の報酬でリスタートしちゃったのだ、俺。
こうして勇者召喚によって日本から異世界転移した俺は外道勇者になり、死に戻ってやり直す事になりました。
今度は外道勇者ではなく、賢者と呼ばれるように頑張ろうと思います。
お付き合いありがとうございました、連続で次の話も投稿しますよー。