ⅩⅢ
「何のマネだ?」
エータは、己が思うままに発言した。
両の手の疑問が解消されても、その片方が新たな疑問を生む。
向けられた鉄の塊の意味が、エータにはわからない。
「命令されました。お嬢様を殺せ、と。」
「……なるほどな。クソ親が考えそうなことだ。だが、オレはエータだぜ?オレを撃つのか?」
納得した素振りをしてみせても、わからない。
「その体はお嬢様の体でもあります。」
妹のことを好いている男が、この体に銃を向けることが、兄にはわからない。
「お前…シークのことが好きなんだろ?好きな女を手にかけるつもりか?」
「ふ…。」
エータの考えがまとまる前に、セッテは銃口を上に向けた。
「そんなわけないでしょう。」
セッテが捉えたモノ。
それは、この部屋の灯り。
部屋を照らす、小さな小さなシャンデリア。
「すみません。貴方に状況を飲み込んで頂くために、先程のようなマネをしました。どうか許して下さい。」
セッテは、淡々としていた。
一度覚悟をしたからには、それを成し遂げる。
その思いから、彼は落ち着いていた。
『わからない』は理解に繋がる。
「銃声と、このシャンデリアが割れる音が合図となっています。部下たちが屋敷の電気を全て落とします。その混乱に乗じて…逃げ出しましょう。」
だが、また、わからない。
エータにはわからない。
何故、セッテがそのような決断をしたのか。
今まで見てるだけしかできなかった男が、何故決断できたのか。
わからない。
「セッ、テ……?だがそんなことをしたらお前が、」
「わたくしは、もう、」
その『わからない』も、
「何もできないのはイヤなんです…!」
理解へと、繋がる。
セッテの言葉には、彼の思惟が全て含まれていた。
十年の歳月を経て、彼は決断した。
外道な主の命令が、彼に決断をさせた。
シークへの想いが、彼に決断をさせた。
今までの彼は単純だったかもしれない。
逃げるという行為自体も、単純な考えかもしれない。
だが、決めた以上、男として、やり遂げる。
そのセッテの思いを、エータは理解した。
そしてセッテは、引き金を、引いた。
響き渡る音が一つ、二つ。
銃声が鳴り、シャンデリアを砕く。
それとほぼ同時に、屋敷から光は消えた。
男は、想い人の体をした男の手を引く。
「心配しないで下さい。軍人は暗闇に慣れていますから。」
部屋を抜け出し、長い長い廊下を渡る。
ざわついた声が、二人の耳に入る。
だが、そんなモノは気にしない。
走って、走って、走って。
逃げることだけに集中して、彼らは走る。
「何だ、何が起こった!?セッテは成功したのか!?」
慌てる主の声が大広間にこだまする。
二人は主に別れも告げず、ただ、走る。
「アナタ、あの子がいないわ!それにセッテも……セッテの部下達は何をしているの!?」
食堂で主の妻が叫ぶ。
二人は主の妻との別れも惜しまず、ただ、走る。
走って、食堂を抜けて。
走って、階段を下りて。
走って、エントランスを抜けて。
二人は、屋敷の外に出た。




