戻ってきた日常・前編
オーラス!
さてと、と居住まいを正してアンネさんは向き合う。
「さて、恭弥君。本題にはいるのだけど・・・・・・いいかしら」
「・・・・・・はい」
アンネさんが口を開いた。
「西通りでの乱射事件を起こして、青柳時子に関する一連の事件の解決に取り組んだメアだけど、結果から言うと任務は失敗したの」
先ほどに比べ、いくらか真剣な口調だった。これはメアの『母親』としてでは無く、『研究区画の室長』として話しているのからか。
「私情に恭弥君を巻き込んだ上、大怪我をさせたこと。その後、仁くん達に勝手に決闘を申し込んで負けて、拉致・監禁された恭弥君を救出するために共闘したこと。青柳を逃がしたこと・・・・・・これは全てメアが悪いってことは分かる?」
「はい」
「で、でも!お姉ちゃんだけが悪いわけじゃない!元々ヒメルが嫌な事を言っちゃったからであって――――」
「それでも事実には違いありません」
「お姉ちゃん・・・・・・」
理由は下らないとはいえ・・・・・・いや、むしろ下らかったからこそ赤の他人を巻き込んだことに、罪悪感を覚えているのだろう。
俺としてはいまいち実感が湧かないからどう反応していいか分からないんだけどな。静観するしかない
「もう、そんな暗い顔しないで。お説教はここまでだから。別にこの事件で姫川が混乱したわけじゃないし、メアも反省してるし、私としてはお咎めなしにしようかな~って思ってたんだけどね。けど理事会のおっさん達は許してくれなかったのよ」
「じゃあメアは、どうなるんですか?」
「学園都市からの追放、この意見が多かったわね。しかも、所長にいたっては『メアを監禁しろ』なんていうのよ!ムカつかない!?」
「は、はぁ」
「でね!さすがにこんなに可愛い私の娘を監禁されて陵辱させるわけにはいかないじゃない?だから私が代わりに罰を受けますって言ったの。そしたらあのジジイ共、『あ、それ無理』って言うの!」
「当たり前です!っていうかさっきの会話からは陵辱なんて言ってなかったですよね!?」
「たぶん、ロリコンだからよね。そう思った瞬間、もうこいつらにメアは任せられない。どこかで妥協点を見つけて強引に意見を通さなければ。それで私は1つ提案したの。それは――――」
「そうだ!恭弥君の家に居候させよう!!」
・・・・・・
「は?」
突然の発言に疑問符が浮かぶ。
えーっと、まずはメアが悪い事して、研究区画の人がメアに罰を与えて。俺の聞き間違いじゃなかったら、その罰っていうのは俺の家に居候。ほうほう・・・・・・
「って、なんでだ!!!」
「ワォ、いきなりタメ口になった! てれれれてってててー好感度が2上がった!」
「ドラ○エ風!?好感度は上がってませんから! それに居候って何!聞いてないんですけど!!」
「そりゃ今言ったからね。でも、悪いね~勝手にこんな事決めちゃって~。ごっめ~ん!」
「絶対反省してないでしょう!」
「あの、神林さん。落ち着いて・・・・・・傷に悪いです」
「そりゃ、そうだけど。でもよ!!」
「それに、まだ話は終わってません。最後まで聞いてください」
「う・・・・・・」
「恭弥君、落ち着いた?」
「はぁ・・・・・・居候ってなんでまた。そりゃ監禁や追放に比べたらいいけど、それでも別に考えはあったんじゃないんですか」
「それじゃ理由を一つ一つ説明していくけど、まずは罰の内容―――――これは単純よ。要は研究区画からの追放ってこと」
「追放・・・・・・」
「そう、あのジジイ共を納得させるには、ある程度の重い処罰が必要だから、追放という方法を選んだわけ。それで何で恭弥君の家なのかっていうと、経過観察もしたいのよ」
「経過観察?何の?」
「もちろん『鬼』よ」
鬼・・・・・・青柳時子に埋め込まれた肉体改造系のD・PRG。意思を持っていて驚異的な肉体強化をする代償に、意識を乗っ取ってくる外法。確かに俺の身体に埋め込まれたけど、
「それはメアが壊したはずだよな。今は俺の身体にはないんじゃないのか?」
「いえ、それは違います。私が神林さんに施したのは鬼を沈静化させるD・PRGです・・・・・・正直、構造が複雑すぎて完全な解析が出来ませんでした」
「まあしょうがないわ。彼女は――――青柳はD・PRG界では天才と呼ばれる研究者の一人だし」
「・・・・・・アンネさんは俺の中にある鬼を調べようとしないんですか?」
「あ~無理無理。完全に脳と融合しちゃってるのよね~。しかも恭弥君が寝てるときは鬼も活動停止してるからウンともスンともいかないのよ。まあ、起きたままで恭弥君の脳髄を引き摺り出せば調べられけど、いいの?」
「謹んで遠慮します」
「まあ、そうよね~」
冗談じゃない。鬼を消す前にショック死するわ・・・・・・って、残念そうに言うなよ!
こほん、メアが咳をして、
「話を戻します。沈静化した鬼ですが現状、いつ暴走するかも分からない状況なので常時監視する必要があります」
「ああ・・・・・・ってことは何だ。メアの処分と俺の経過観察を一緒にやろうってことか。それで意見が通るって研究区画とはアバウトなんだな」
「アバウトというより興味が無いのだと思います。研究者は富や名声以上に実験や開発を重視しますからね。私の処分も理事会への体裁を整えなければならない上、神林さんの世話も診る必要になった。そうだ、メアに押し付けておこう。となったのだと思いますね」
「何か、淡白っていうか効率的というか」
「あ、ちなみにヒメルも付いて来ることなのですが・・・・・・」
面倒ごとを起こした原因だからついでに追い払おうってか。自分達の研究の邪魔をされては堪らないから、なのか?だとすると―――
「お姉ちゃんといっしょがいいから!」
あ、そうなのか。別に厄介払いされたわけではないんだな。というか、姉妹喧嘩してたんじゃなかったのか
「大体わたしは超反対だったのよ?だけど、これじゃなきゃ2人は学外追放っていうし・・・・・・私一人の力じゃ限界があるっていうしね?それに私ってそこそこ良い立場にいるからさ。一緒に行くってわけにも行かないし・・・・・・」
「いや、そんなことはいいんだけど。でもいきなり2人増えるっていっても準備ができてないし、そもそも俺だって入院中なわけで」
「あ、その点は大丈夫だよ。昨日のうちに引越し済ませたから」
「え、何それ。聞いてないんだけど」
「寝ていましたからね・・・・・・それにしても何かあったのですか?ドアが壊れていましたが」
「そうだったよね~、引越しが楽だったよね」
え、ああ。そういえば2週間くらい前に美夏が壊したんだったな。ていうか家に戻ってないからドアが壊れたまま、ってことか・・・・・・あ、なんか胃が痛くなってきた
くそ、美夏め!今度会ったら修理代を請求してやる
「ま、安心してよ。恭弥君家のドアは直しといたからさ・・・・・・はぁ・・・それにしてもさ」
「な、なんですか」
「恭弥君ってえっちな本とかゲームとか全然持ってないんだね。つまんなーいなぁ」
「え、えっちって!?」
「母さん!」
そうか、美夏があのとき全部売ったからか・・・・・・まあ、ドアの件は今回は勘弁してやるかな
アンネさんが立ち上がった
「さてと、私はこの辺でお暇させてもらうわ」
「え、もう行っちゃうの?今日はオフなんだしもっとゆっくりしていけば良いのに」
「そういうわけにも行かないのよね~・・・・・・主に引越しと転入手続きの件で」
「転入?」
「神林さんには言っていませんでしたね。来週から私とヒメルは神林達の同級生になります」
「へぇ、来週からか」
監視するってことは学校に通うっていうのは当然だろう。しかも同じクラスって―――――ん?
「同じ、クラス?」
「はい。恭弥さん達は身体強化のクラスに配属されるというので、私も同じクラスにいれてもら「そうじゃなくて!!」」
「なあ、メアって今いくつなんだ?」
「・・・・・・神林君、ストレートに女の子に年齢を聞くのはどうかと思うんだけど」
「16です。おそらく神林さんと同い歳だと思います」
「え、そうなのか!?」
いやー、てっきり14くらいかと。美夏もそこそこ小さいほうだけど、メアって美夏と同じかそれより小さいからな~。それに、ささやかながらも膨らんでいる美夏に対して、メアは完全に絶壁――――
「いま、失礼な事を考えてませんでしたか?」
「い、いや?」
「・・・・・・まあ、後は3人で仲良くやっててね――――あ、そうそう」
「なんですか?」
「2人に手だしたら・・・・・・ね?」
「ね、ってなんですか!!っていうか手の動きが怖いです!」
とてもいい笑顔で、もぎ取るような手の動きをしていた。何をもぐのか・・・・・・いや、聞くのはやめておこう
Bye、と言ってアンネさんは病室を出て行った
☆
―――――パタパタパタッ・・・・・・ドン!!
「はぁはぁ・・・っ・・・はぁはぁ」
「美夏!?」
「美夏!どうしたの、そんなに慌て――――」
「恭弥!!!」
ふわり、と紅い髪が舞った。勢いよく飛び込んできた美夏を受け止めると、ぎゅっと腕を回してきた。すっぽりと腕の中に収まり、顔を胸に押し付けて震える声で言う。
「よかった・・・・・・本当に、本当によかった・・・・・・!」
「お、おい。大袈裟だって、お前」
「だ、って!もう、会えないかと思った!!」
――――ギリギリギリギリ
「おうぇ・・・・・・わ、わかった。分かったからそろそろ離れてくれ」
「ん~~~ん~~~っ!!」
―――――ギュ~~~~
「痛いっつーのぉお!」
グリグリと頭を押し付けてくる。これは離れないって言う意思表示、なのか?うーむ、心配させたことは申し訳ないけど、それ以上に締め付けがハンパない。マジで痛い。
「やばい・・・・・・マジ、中身吐き出すかも」
「神林さん、冗談でもそういうことは止めて下さい。吐き出したものをもう一度戻しますよ?」
「鬼畜だな、おい!なあ、助けてくれよ」
「うんっ!!!!」
「美夏じゃねえええ――――おうぇうええええあああっ!!!」
「もう・・・・・・離さないから・・・・・・!」
「美夏、いい台詞を言ってるけど完璧に殺しにかかってるよねぇ。あ、神林君の顔色が」
「私、もう負けない・・・・・・恭弥は絶対に守るから・・・・・・」
「だったら今すぐ、離れてください!!マジ、お願いします!」
あ、もう、ヤバイ。食道まで胃液が上がってきてる。これ、ほんとにリバースするかも・・・・・・くっそー!何してんだよ。美夏がいるならアイツもいるはずだろ、オイッ!!
「仁!!!!」
「はいよ~。お、ナイスなタイミングや。ここは一枚・・・・・・」
「やっぱ居やがったな。」
「おっすー、恭弥。調子はどうや?」
「吐きそう」
「しゃーないのぅ・・・・・・両脇突き!!」
「ぅきゃうっ!!?」
仁の両腕が脇腹に突き刺さり、そして・・・・・・仁が吹き飛んだ。まあ、当然だ。
というか美夏が強くなってねえか?
脇を突かれた瞬間、仁の襟を掴み、体を捻って放り投げた。飛ばされた仁は綺麗な弧を描き吸い込まれるように窓の外へ。この一連の流れをさっきの台詞中に完了させたっていうから驚きだ。
「も、もう!仁のアホ!」
「ああ、仁さんが窓の外に・・・・・・というか大丈夫なんですか?」
ん~、ベットからの景色を見るからにそこまで高そうではないし、生きてはいるだろう。たぶん。
「ヒメル、様子見てこようか?」
「いいわよ。どうせすぐに戻ってくるだろうし。このまま寝ててもあいつの出番が消えるだけで誰も困らないし」
「いや体の心配は!?」
「え、あ~、そっか。まあ、平気じゃないかな?」
「本当に大丈夫なの!?も、もう~・・・・・・ヒメル、ちょっと見に行くよ」
ぱたぱたとスリッパを鳴らして、せわしなく病室を出て行った。さて、残されたのは俺とメアと美夏だけど
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
えっと~何を話せばいいんだ・・・・・・
沈黙が痛い。そりゃそうだよな。だって立場的に言うと
メア→加害者
俺→被害者&美夏への加害者
美夏→純粋な被害者。
仁だったらまだしも、人並みに気遣いができるならこの場合明るくお喋りなんてできないだろう。しかし、この沈黙も長くは続かなかった。
「恭弥、もう大丈夫なの」
「え、ああ。大丈夫って何が?」
「体のこと・・・・・・その、暴走したりしないの」
「ああ大丈夫みたいだ。メアのおかげで治まったみたいだ」
「メアの、おかげね」
「ん?何かおかしなことを言ったか」
「別に・・・・・・ねえ、恭弥。あんた、好きな人っている?」
「あ!?な、なんだよ藪から棒に。そんな人いるわけないだろ」
「ふーん、そう・・・・・・あれ、こいつってメアのこと好きなんじゃ・・・・・・」
何やら、美夏が独り言を言っているけど、はっきりと聞こえない。何を言っているんだ?
「別に。それより、メアはどうやって恭弥を治したの?」
「恭弥さんですか?」
強引に話題を変えやがった。それよりも何か、いつもの美夏にしては淡白だな。というか、どちらかというと不機嫌、なのか?
不機嫌だったらあまり突っ込まない方がいいか。メアも淡々と話し始める
「簡単ですよ。粘膜接触により体液からウィルスプログラムを送りこんだだけです」
「粘膜接触・・・・・・体液?」
「具体的に言うなら――――唾液を介してD・PRGを注入しました」
「だ、唾液!?」
「唾液ってことは、口から・・・・・・ま、まさか恭弥!!あんった、またキスしたの!?」
「え、えええええええ!!!!何それ!!初耳なんだけど」
「今はじめて言いました。というか、また?またってなんですか?恭弥さんは以前もキスをしたことがあったのですか」
「俺も初耳なんだけど!あのー、美夏。その話って一体?」
「恭弥~~~~~!!!」
「うわわあっ!!首は!!首はやめ――――!!!」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
やっと、やっと日常が戻ってきた。そう思える今日だった。
後編へつづく!




