そして蒼い雪が降る
――――鬼の暴走
それが何を意味するのか、恭弥を抱きとめている彼女は語りだす。
「マスターの命で私は彼に鬼のD・PRGを注入しました。それはウイルスのように彼の身体を蝕んでいき、まず意識を奪いました」
「意識を・・・・・・そっか、神林君が美夏を攻撃していたのは鬼のせいだったんだね。鬼が体の主導権を奪ったから」
「はい。そして体の主導権を握りました。けど、彼は鬼に抵抗し続けていたので、完全には自我を失いませんでした」
つまり恭弥は鬼とずっと戦ってたってことか。
「ですが今そこの隊長さんに倒されて意識を失ったことにより、今まで抵抗していた『鬼』が意識をのっとってしまって」
「今に至る、というわけか」
こくん、と頷く。
「今から私が『鬼』の進行を止めます。だから、皆さんは逃げて―――――」
「GGGGGRRRUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
―――――獣の様な咆哮
――――全てをなぎ払うような衝撃が波状的に断続的に襲い掛かる
地面に亀裂が走り窓ガラスが全て割れ、体が吹き飛ばされる。吹き飛ばされ転がされ、壁際に叩きつけられながらも、針に刺された様な刺激が全身を駆け巡る。
そう、ついに恭弥が爆発した。
恭弥が吼え、衝撃波が広がり、そして壊していく
いや、正確には、押さえつけられていたものが放出されたという感じに近い。鬼の力の放出なのか?くそっ恭弥はどうなったんや!?ヒメルは、美夏は無事なんか!?恭弥の一番近くにいた先輩やアルファは!?
恭弥から発せられる衝撃は収まらず、指一本動かせない。
かろうじで、目を開けてみると、そこには
「GRUUUuuuu・・・・・・」
恭弥がいたはずの場所には、黒い人型があった。間違っても恭弥には見えない、全く違う生き物にしか見えへんかった。
全身は黒く変色し、ヒトというより『影』のような存在で、顔のパーツは一切なくツルツルのマスクを被ったような頭。それでも髪は残っており、激しく揺れる髪の中、かすかに円錐形の細長い物が見えた。ぱっと見て角のようや。
そして禍々しく発せられている赤黒い光。
「いっつ・・・・・・」
「た、隊長!無事やったんか」
「何とかね。あと、さくらも自分で勝手に助かってたみたいだから無事だよ。あーもー、吹き飛ばされたのはボクだけだよ」
「ヒメルや美夏たちは!?」
「アルファちゃん含めみんなは無事だよ!でも・・・・・・他のVenusの子は」
「ど、どないなったんや!!」
「あの黒い存在に食べられた、っていう表現が一番正しいかな」
「た、食べられ・・・・・・」
「ああ、そんなグロい感じじゃなくて、黒いのに触れた瞬間に取り込まれたって感じだよ。そんなムシャムシャボリボリ食ってたわけじゃないよ」
「あ、ああ・・・・・・ん?てか何で、隊長はそんなことまで知っとるんや?吹き飛ばされたはずやないん?」
「・・・・・・そうだね。確かに吹き飛ばされたね―――――何回も」
よく見ると、隊長の顔は血で染まっていた。それだけやない、腕からも血が流れ出て、血だまりを作っていた。
「た、隊長!!!」
「騒ぐなって、傷に響くよ」
「でも、傷が・・・・・・!!」
「大丈夫、かすり傷だよ。大袈裟に血が出てるけどそんなにひどい状態じゃないから」
うそや、声にいつもの余裕がないし、笑顔も消えとる。相当ヤバイ状態に違いない。
「アレ、何だか分かんないけど止めるよ。アレは野放しにしちゃいけない気がするんだ」
「無理や!!そないな体で戦えるわけあらへん!!」
「じゃあ、誰がやるってんだよ!!」
一瞬で距離を詰め、切り裂くように蹴り上げる。頭に直撃――――そして、目まぐるしく恭
「・・・・・・」
「ゆ、指一本、やと?」
「あ、あはは、割と本気だったんだけどな、ボク」
恭弥が隊長の足を掴む。そのまま腕を回したかと思うと、軽々と隊長をぶん回し始めた。ある程度勢いがついたところで、地面に叩きつけ、バウンドした体に蹴りを加えた。
まるでサッカーボールのような扱い。つい先ほどまで恭弥を圧倒していた隊長の姿はなく、まるで子供扱いされて蹂躙されていた。
「・・・・・・グッ!!」
この一瞬の出来事が信じられへんが受け入れなくちゃアカンのやろう。恭弥が―――あの黒い奴が隊長でも敵わないくらいの力を持っとるちゅうことは分かった。
「ワイも手を貸す!!元はといえばワイらの問題なんや、隊長達だけに任せるなんて出来るわけない!!」
「へぇ、仁くんも結構素直なとこあんじゃん・・・・・・けど、アイツの余波で体が動かせないクセに何言っちゃってんの。仁君達は青柳を追い詰める上で充分活躍してくれたんだから、ここからはお姉さん達に任せなさいって」
「か、体なら動かせる」
「え?」
「ぐ、ぐぐぅぅおおおおおおっ!!!!」
「仁くん!」
歯を食いしばり膝を強引に動かして立ち上がった。倒れているとき以上の衝撃が襲い掛かるが、耐え忍ぶ。そして、
「『結界』!!」
「仁くん!そのD・PRGは!」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・と、投影や無く、空間を切り裂くD・PRG。これで両手両足は動かない、や」
「・・・・・・GUUUuuuuuuOOOOOOOOOOO!!!!!」
――――――ビキビキビキビキッ!!!
「ぐ、ぉぉおおおおおあああああああ!!!!!!」
「仁くん!!?」
「っがああっ!!こ、こいつ、強引に結界を引き裂こうとしよっとる!!」
黒いアイツの四肢に展開された結界が軋んだ。くっそ!?なんちゅう馬鹿力や!空間自体を切り出しとるのに、そんなものお構い無しに引っ張るって。このままじゃアイツの腕自体引き千切られ―――――いや、まさかアイツ!!!!
気付いた瞬間、隊長がワイの結界に触れていた。
隊長が触れる、それはつまりD・PRGの発動を打ち消すものだから結界は跡形も無く粉々に砕け散った。
「はっ、はっ・・・・・・はっ・・・・・・」
「・・・・・・」
「た、隊長・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・恩に着る。少しでも遅れとったら、恭弥の両腕が引き千切られとったわ」
「うん、そうだね。アレが何なのかは分からないけど恭弥くんの体っぽいからね。元に戻った時腕無しだといけないもんな」
「アイツ、ホンマに恭弥なん?」
「違います。恐らく、あれが鬼です」
ワイの問に答えたのは隊長やなく、メアだった。目立った外傷はあらへんがワイ同様、立つのも辛そうやった。
「鬼、か・・・・・・のう、結局のところ鬼って何なんや。D・PRGの名前ってわけでもあらへんし、人工的なウィルスともなんや違う。それに恭弥の体をのっとるなど、常識で考えたらありえへん」
「そうですね」
「現に今ああやって恭弥がおかしなったのも鬼のせいなんやろ?」
「そうです・・・・・・鬼とは日本の民話や郷土信仰に登場する妖怪です。悪いもの、力のあるもの、恐ろしいものを象徴する存在として、現在では認知されていると思います」
「なんや突然。それは、確かに鬼やけど恭弥とは違うやろ」
「青柳が作ろうとしたのは、こういった鬼という『存在』なのではないでしょうか」
「そんざい?」
「GUUUUUUOOOOOOOO!!!」
その時、咆哮のような声を上げて恭弥が飛び掛ってきた。まだ、満足に体が動かせない状況で、これは、マズい。避けられな―――――
「GAA!!?」
「んな!?」
「・・・・・・青柳は完璧な存在、『力』と『畏怖』の象徴を作ったのでしょう」
蒼い一筋の光が鬼を撃ち抜いた。ダメージよりも驚きが勝ったらしく、動きが止まる。
蒼い拳銃を構えた少女は、こんな状況でもいつもの様に、冷静な無表情で淡々と機械的に言葉を発した。
「申し訳ありません、恭弥さん。私達のせいでこんなことになってしまって・・・・・・」
「め、メア?」
メアはゆっくりと歩き出す・・・・・・いや、よくよく考えたらおかしいやろ。今も嵐のように衝撃波が吹き荒れとるはずや。それなのに散歩をするかのように、自然な動き。それどころか髪一本揺れていないやんか。
まるでメアの周りだけ空間が切り取られたような、そんな奇妙な感じや。
「い、一体、何を」
「・・・・・・申し訳ありません。禁則事項です。ただ、これから恭弥さんを元に戻します」
「せやけど今の恭弥は隊長でも歯が立たん化け物や。メア一人じゃ―――」
その時、蒼く、澄み切った空のような蒼い光がメアから発せられた。唐突に発光しだした光は波状的に拡がっていき、瞬く間に部屋一面を蒼く染めあげる。
メアが立ち止まる。
白衣をたなびかせ、振り向きざまに蒼い髪から金色の粒子が舞い散る。その姿はさながら天使のようで、神々しく、触れるどころか話すことすら躊躇われた。
何も言えずまごついているワイに天使は言う
「仁さん、私は研究区画の職員です。今回の事件は研究区画の不手際が原因で起きたもの。私が自体を収束させる責任があります」
メアは右手を突き上げて、掌を天に向ける。それと同時に円や変な曲線が組み合わさった幾何学模様な陣が天井に映し出される。
「幸いにも先ほどユグドラシルの使用許可が出ました。すぐに恭弥さんを沈黙させます」
Gustav・・・・・・Dora・・・・・・
「な、何て?今、何て言ったんや?」
「確か、グスタフって。あと、ドーラとも言ってたよね。それって、列車砲の名前じゃなかったっけ」
「れ、列車砲・・・・・・」
「うん、第二次世界大戦でドイツが造った世界最大級のカノン砲よ。運用コストに見合う戦果が得られなかったようだけど、威力でいえばトップクラスね」
「し、市長!」
「あ、桜。生きてたんだ」
「失礼な奴ね~。そういうみとりは今にも死にそうじゃない」
「こ、こんなのかすり傷だって! みとりの方こそゲッソリやつれてるし!」
「私の方こそ問題無いわよ。それより、今はあの子のほうでしょ」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・de・・・・・・・・・・rep・・・otop・・・・・・」
「うっ!?」「おお?」「んっ」
メアが何かを呟いた、その瞬間、視界が蒼い光で埋め尽くされる。メアの手から
放たれた光はやがて形を作っていき、そして、幾何学模様の陣から一門の大砲を造り出した。
「Bilden Sie Pistole aus・・・・・・Gustav」
で、デカイ・・・・・・デカ過ぎる!何なんやあの砲身、人が入り込めそうやんか。それに砲身のデカさは即ち砲弾のデカさを言う。つまり、破壊力をあらわすっちゅうことや。あんな物の砲撃の威力なんて一体・・・・・・そ、想像できん
「使い勝手の悪さであまり活躍しなかった武器ですが、威力は世界最大級です。おそらく着弾点から100メートル四方が焦土と化すはずです」
淡々と、何の感情も感じられることなく、事務的にぶっ飛んだ事を話す。というか、それ、ワイらも危ないんじゃ・・・・・・
そう思ったとき、再びメアが投影。
恭弥を囲むように蒼い箱が、同じようなものが砲門に作られた。
「これ2つの箱は、力を伝え威力を中に封じ込めます。つまり砲撃はあなたを囲む箱の中でのみ炸裂し、貴方のみを壊します」
「!!?」
「は、はぁっ!?何やその無茶苦茶なプログラム!」
恭弥も危機を感じたのか、箱を殴り、蹴り、頭突き、体当たりをするが、まるでビクともしない。あの化け物じみた力でもビクともしないって、なんちゅう箱や。つい数時間前とは別人のようや
そして、
「―――――EXPLOSION―――――」
グスタフが蒼く、強く煌きだす。砲撃を報せるような充填音が唸るように轟く。
光はより強く、音はどんどん大きく、急速にチャージされていく。
恭弥が吼える。ビクともしない箱から早く早くと、脱出しようとするが逃げられない。そして
―――――FIRE――――――
カッと視界が蒼色に埋め尽くされる。その瞬間、音も光も無い、無の時間が起こった。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
あの強烈な光のせいで視界が白んでいる。ぼやけた視界も何回か瞬きすると徐々に元に戻っていって、目を凝らすと、投影した箱は跡形も無く消えてグスタフの砲身だけが残っていた。それと同時に嵐のような衝撃波も静まっていた。
無表情で息1つ乱れていないメア。ゴシゴシと目を擦る隊長。渋い顔でメアを見る市長。
全員が注目する中、メアが歩きだした。足取りは重く、ゆっくりだが確かに一歩一歩踏みしめて、恭弥の元に辿り着いた。 恭弥は手足には黒さが残っているものの、ほとんど元の姿に戻っていた。
メアが膝をつき、恭弥の頭を胸に抱え、顔を寄せる。手を添えて、そして・・・・・・
「――――ん・・・・・・っ」
あっ・・・・・・
この場にいる全員がメアの一連の行動に、言葉を奪われた。
恭弥の唇とメアの唇が重なり、ぽうっと仄かな蒼い光が2人を包んだ。
・・・・・・D・PRGが終わり砲身が霧状に分解されていき、雪のように降り注ぐ。月光が差し込みメアの蒼髪を輝かせる。その姿はまるで天使のようで・・・・・・柄にも無く2人に見入ってしまった。
「きれい・・・・・・」
ヒメルが呟く。
微動だにしない2人はまるで絵画のようで、白衣を着た蒼髪の少女と学ラン姿の親友は、深く、長く、口づけし続けた。
世界中の光の戦闘パートはこれで終了です。長い間殴りあってきましたが、ようやく・・・・・・ようやく、終了です!
次回はエピローグを書いていき、ちょこっと伏線を回収してこのお話は終わらそうと思います。あと、3話ほどを予定しているので、気長にお待ちください。




