青柳事件 第7幕
神林君のパンチが美夏の肩を捉えた。美夏は両手でいなし、腰を捻って受け流し、足を掛けて転ばせる。
ただ、神林君も転ばされた瞬間に回し蹴りを放ち、美夏のこめかみを蹴り抜く。
転倒した神林君と、吹き飛ばされた美夏はすぐに立ち上がり、再び殴りあう。
美夏の拳と神林君の拳がぶつかり合う。鈍い音を部屋中に響かせながら二人とも殴り続けている。
美夏・・・・・・どうして、神林君と喧嘩しなきゃいけないの・・・・・・
友達なのに。
大好きなくせに。
絶対に傷つけたくなんて無いのに。
それが分かっているのにどうして美夏は戦うの?
美夏だって分かってるよね?神林君の意識が――――
「彼は暴走しているからです」
「!!」
唐突に掛けられた声に、はっ、と驚く。すぐに声の主のほうに目を向ける。
そこにはスーツ姿にサングラス。そして、えんじ色の大きなリボンの少女が2人の戦いを見つめていた。
・・・・・・スーツ姿にサングラス。あの子、Venusだ。
似たような女の子は何人も見てきたから、すぐに分かった。
「あなたは、Venusなの?」
「はい。私はVenusの1人、αというものです。以後お見知りおきを」
「はあ。こちらこそ」
な、なんか今までのVenus達と雰囲気が違うな。見た目は瓜二つなのに、決定的に何かが違っているような。違和感というのかな
「たぶん、私が言葉を発しているからではないでしょうか」
「あ、ああ~・・・・・・って、勝手に心を読まないでよ」
「失礼しました」
「う、うん」
物腰が柔らかいというか、丁寧というか・・・・・・今までの女の子達と違って大人しいというか。
あ、そういえば
「あなたは戦わないの?」
「私は戦闘が苦手なんです。というかヒメルさんは敵の私にどうして話しかけているのですか?」
「いやいやいやっ!最初に話しかけてきたのはあなたのほうだよね!」
「え、そうでしたっけ?」
無表情だから何を考えているのか分からないけれど・・・・・・こうして話をする限りは普通の女の子みたい。さっきの女の子と違って殺意が無いし―――それじゃ
「さっき神林君が暴走しているって言ったよね?それってどういう意味なの」
「彼の暴走―――というよりも正確に言えば彼の中にある、アルターコアが暴走して主導権を奪っている状態、というのでしょうか」
「ア、アルターコアの暴走・・・・・・」
アルターコアって確か、C原子を作るものじゃなかったっけ。それが暴走するって・・・・・・まるで意思を持っているみたいな言い方だ。
「どうやら眠らせたのがまずかったみたいです・・・・・・まあ、時間が経てば元に戻るはずです」
「ちょ、ちょっと待って! アルターコアって臓器の一部だよね。それが変調を起こして体の制御を乗っ取るなんてありえないよ!」
言うなれば、肝臓が電気信号を送って腕を動かしているようなもの。普通だったらありえない
怪訝な顔をしている事が分かったのか、顎に手を添えて考える動作をする。「ふむ」と声を出して、
「・・・・・・どうやら言い方を間違えてしまったようですね。正確に言うと、アルターコアが何故か活性化しC原子の流れだけでなく、神経や血流にも影響を与えている状態ということです」
「・・・・・・」
「たぶん」
「え、勘なの!!?」
衝撃だね!なんでこのタイミングで適当な事を言う必要があるの!?
リボンが揺らして、αは鈴のように透き通った声で答える。
「と、まあ冗談はおいといて」
「あ、冗談なんだ・・・・・・ってことはあなたは何か知ってるの?」
「私が彼をおかしくしたわけではないので知りません。ですが、あなたなら・・・・・・私達と同じ、あなたなら感じられるはずです」
「え・・・・・・」
「異常に高い血圧、それに反比例するかのように縮小している末しょう神経、そして身体中に満遍なく張り巡らされている防御用のD・PRGを」
「!!」
「防御用身体強化プログラムを発動しながら動く・・・・・・いわば甲冑を着ながら飛び跳ねるようなもの。常人ならば身体が壊れてしまいます」
「そ、そうなの?」
「とぼけなくてもいいのですよ?私はヒメルさんのことを全て知っています」
見透かされたような瞳。じっと見られることに耐え切れず、目を背ける。そのまま、口を閉じたいのに、口は自然と動いてしまう
「・・・・・・あ、あなたは・・・・・・ほんと、なんなの?」
「そして、あなたなら分かるはずです。今、神林さんが意識を失っていることを!」
「!!!」
なんなの?本当に何のなの、この子。
どうしてヒメルが神林君のことに気付いたって事を知ってるの?
どうして全部知ってるなんていえるの?
どうして、私があなたたちと同じって言うの?
どうして・・・・・・分からない・・・・・・分からないよ。
「分からないなら教えてあげます」
「・・・・・・」
「あなたは、私達Venusの母体となった存在で、人工的に作られた生命。C原子でコーティングされた身体と常人の20倍以上鋭敏な感覚神経を持つ存在にして、“世界樹”の制御を任された唯一無二の『生きるD・PRG』―――――」
――――――――・・・・・・――――――
心臓を抉られたかのような衝撃が襲い掛かる。滝のように汗が流れ、心臓は胸を突き破るんじゃないかと思う位に、強い拍動を刻んでいる。
呼吸をするのも苦しい。今すぐ気絶してしまいたい。でも、いまその言葉が出たとなったらヒメルは聞かなくちゃいけない。
本能的に察したのか、はたまた無意識での行動なのか。ヒメルはポツリと呟いた。
「世界樹・・・・・・光・・・・・・」
「思い出せましたか」
「・・・・・・忘れて無いよ。あなたに言われるまでも無い」
「そうですか」
「ヒメルも分かったよ。あなたの―――いや、Venusの正体が」
「はい」
「・・・・・・あなたたち、まさか神林君も同じ状態にしたの?」
「いえ。彼は100%人間ですよ。少々、弄っただけで」
「そう・・・・・・」
美夏と神林君は戦い続けていた。
意識の無い――――それゆえに、加減が出来ない神林君は容赦なく美夏に殴りかかる。右腕を振りかぶり美夏の顔面を撃ちぬく。それをギリギリのところでかわし、腕に絡みついた美夏は強引に背負い投げる。
頭から床に落ちた神林君だったけど、やはり涼しい顔で立ち上がる。
余裕の表情―――というか、無表情の神林君と、肩で息をする美夏。明らかに神林君の優勢だった。
恭弥の猛攻は一度止まり、さながら忍者のように、手を天井に足は壁につけて天井の隅に張り付いた。そのまま私をじっと見据えてくる。
お互いを見続ける、静寂の時間が室内を包み込む。
この停滞の時間で私はこの大切な男の子をどうやって助けようかと考え続ける。
「(私の攻撃は通用しないし、速過ぎて捕まえられない)」
でも、攻撃を止めたってことは続けることができない理由があったってこと。それはたぶん、疲れか体のダメージのはず。
息が切れてないところを見ると後者のほうかしら。それならスープレックスはそれなりに効いたってことだから投げ技や極め技とかは効くかもしれないけど・・・・・・。
とはいえ、恭弥に近づくにも
「1発1発が必殺の拳、なのよね・・・・・・」
恐らく1発でも当たったら動けなくなるだろう。だからといって逃げてばっかじゃ恭弥を止められないし、下手したらヒメルが巻き込まれるかもしれない。全く、一瞬も油断ならない状況だ。
と、ここで――――恭弥が動いた。
充分な溜めをつくって、天井を足で蹴り出す。空中で体勢を変え、片足を前方に突き出して矢のごとく突貫してきた。
「(単純な空中からの右足蹴り)」
直線的な攻撃。いなすか、避けるか・・・・・・溜めがあったから威力は高いはずだけど、かわした後は隙だらけね。ならば極め技をかけ―――――
――――――ゾクッ
悪寒が走る。本能的に飛び跳ねる。
「っ!!?」
ドゴオオオォォォォォ!!!
耳をつんざく爆音と同時に、部屋全体を突き上げるような強烈な縦揺れが襲い掛かってきた。音と衝撃で体が吹き飛ばされ、床を転がり回る。
「なな、なんなの~~~?」
「っ!!」
ヒメルがうずくまりながら悲鳴を上げている。Venusの子も声は出てないけど同じように地面にしゃがんでいた。
「ヒメル大丈夫?」
「な、なんとか~~・・・・・・というか、美夏こそ大丈夫なの!?だって、あれ直撃だったよね!?」
「いえ、竜胆さんは避けていましたよ」
「え・・・・・・?」
「よく見えたわね」
「結構ギリギリでしたよね。しかも、左腕を庇いながら避けたので足が掠ったみたいですし」
「・・・・・・さすがVenusね」
「いえ、それほどで「み、美夏!!」」
αの言葉を遮ったヒメルの声はひどく焦っていた。震える指がさす方向――――――爆心地に視線を向けると驚愕させられた。
「な、ななっ・・・・・・!」
大きく凹んだリノリウムの床があった。
・・・・・・蹴りで床が陥没するってどんな威力よ。ギリギリで避けられたからいいけど、もしあたってたら・・・・・・身体強化していたとしても、ヤバかったかもしれない。
恭弥がいつもより強力な身体強化をしている事は分かっていたけど、まさかここまでなんて予想外よ。
けどいつまでも驚いてばかりじゃいられない。恭弥は次の行動へ動き出した。
一瞬で距離を詰めて来た。それと同時に後方に跳躍して距離をとる。が、手負いの私では逃げ切ることもできず、すぐに並ばれる。それも避けて、すぐ追いつかれて・・・・・・
そして縦横無尽に部屋を駆け回りながら、お互いを攻撃する戦いにシフトする。
殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴り続ける。右腕に左肩に腿に左頬に眉間に腹にと、雨のように降ってくる恭弥の拳。
それを避けて、いなして、逸らして、受けて、相殺して、払って、時に反撃しながら防戦をし続ける私。さすがにこういう戦闘は慣れてないのかワンパターンで予備動作が読みやすく避けやすい。だから時として腕に突きを入れる。
――――――身体にダメージが与えられないなら腕や足、つまりは武器を叩けば止まるんじゃないかって考えたけど、いまいちみたいね。効いてるようには見えない。まあ、予想は出来ていたけど。
「(なんとか投げ技をかけたいわね。だけど・・・・・・)」
一瞬も隙が生まれない。
たった一瞬、それこそまばたきするくらいの間でいい。
――――――恭弥と距離をとり、大きく跳んで壁に張り付く。恭弥も無表情に威圧しながら距離を詰めて来て、すぐに離れた。
後ろをチラッと見ると、恭弥が追いつくと同時に壁が爆発していた。純粋なパンチだけで壁が壊れるかと恐怖するが、止まるわけにはいかない。
そしてこの瞬間、ようやく・・・・・・ようやく恭弥がどうなってしまったか、そして私が何をするべきか理解できた
――――――無慈悲で絶対的で圧倒的な力の塊。それこそ暴力が体現したような、妖怪じみた存在・・・・・・まさに『鬼』だ。
暴走しているんだ。あのまま恭弥を野放しにしたら、もしかしたら・・・・・・止められるのは私しかいない。
いつか恭弥と仁が死ぬ気で私と戦って、私をぶん殴って、私を止めてくれたあの時のように、今度は私が止めるんだ・・・・・・!!
ちらっとヒメルを見る。
「・・・・・・美夏」
ぎゅっと胸の前で手を組み、不安げに見ていた・・・・・・大丈夫、大丈夫だからとアイコンタクトを送る。そして、覚悟を決める。
「恭弥を止める・・・・・・確実に、必ず!!」
もう逃げない、もう躊躇わない。全力全開で恭弥を倒す!
――――――突っ込んでくる恭弥にタイミングを合わせて横蹴りを叩き込む。さすがに飛ばすことはできなかったけど軌道を逸らし、恭弥は壁に激突する。
好機!
「体内武術制限、2段階目解除・・・・・・そして、デュアル!」
リミッターを解除する。2段階目まで解除するのはいつ振りだろうか・・・・・・
そしてデュアルを発動。
紅い光が強く、より強く輝きを増していき、渦巻いて竜巻のような紅い奔流を生み出す。デュアルとは身体強化の1つで、単純にいつもの2倍強化をするということだが、
「――――――っつう!!」
胸を貫くような、全身が紐で縛られたような痛み。反動もいつもの倍になってくる。正直、さっきの戦闘で体は限界を迎えていた。これ以上は戦えない、だけど、動かなきゃ、止められない。
制限時間は5分。5分で恭弥を行動不能にまで追い込む――――――ここで初めて私は攻めにまわった。
迫り来る恭弥の拳がちらっと視界にはいる。高速で迫る拳に対して、私は右手を突き出し、
――――――バシッ!!!!!
「・・・・・・恭弥、こっからは本気ね」
轟っ!! と紅い奔流が止めどなく溢れ出る。大気が震え、まるで悲鳴をあげているかのようだ。恭弥の顔は相変わらず無表情だけど、すこし目が見開く。
そして、
「――――――閃っ!」
無数の紅い閃光が恭弥を飲み込んだ。デュアル発動の時は拳の打撃方向にゲームのエフェクトのように紅い閃光が出るのが特徴で、個人的にかなりかっこいいと思う。
テンション高く、瞬きをする間に7発撃ち放った。カッと部屋が紅く照らされ、紅い残滓を振りまいて恭弥は床を転がりまわった。立ち上がった恭弥の口の端からは血が滲んでいた。
「き、効いてる!」
「ま、まさか!! 強化された体を傷つけるなんて・・・・・・」
口の端をぬぐって恭弥は突貫してきた。必殺の拳が迫ってくるが、もう焦ったりはしない。確かに、速さだけでいったら私以上かもしれないけど、こうも直線的では反撃して欲しいって言ってるものだからだ
「ちゃんと元に戻ったら、戦い方とかも教えたげるね」
前蹴りが恭弥の顎を捉え、撃ち抜く。と同時に紅い閃光が頭を包み込む。
今度は軌道を逸らしはせず完璧に恭弥を止めた。そして上体を浮き上がらせ無防備になったボディに蹴りを加えて吹き飛ばす。吹き飛ばされたままで、さらに攻撃を加える。
「うらぁぁぁああああああ!!!!」
拳の嵐が恭弥を包み込み、紅色の閃光が恭弥の身体を撃ちぬいていく。
顔面、膝、肩、腹、背中、腕・・・・・・体中のいたるところに紅い拳が突き刺さる、防御の手が出ていようと、それを無視して拳は突き刺さる。
もう何発撃ち込んだだろうか。ここまでやられれば常人だったら気絶、もしくは今頃救急車の中だろうけど――――――っ!?
違和感を感じ、いったん拳を止める
「・・・・・・っく!!――――――し、しぶといわねぇ」
ぜぇぜぇと肩で息をしている恭弥がとった行動は、素人のものとは思えなかった。お腹を見ると、拳の跡がくっきりと残っている。
「ま、まさかこのタイミングで、カウンターを狙うとは・・・・・・!」
「・・・・・・」
痛みよりも驚きのほうが勝っていた。一瞬、ほんの一瞬の隙を突いて攻撃をした恭弥にはただただ感心するばかりだ。
この様子を見る限り、少なくとも私の拳は恭弥に届いているし、恭弥もダメージを与えられている。この状態だったら私が有利なはずだ。
だったら焦らずに、確実に恭弥を沈めないといけないわね・・・・・・時間もそんなには無い。未完成だけど・・・・・・あれをやるっきゃない
これで最後だ。
覚悟を決め恭弥に突貫を仕掛ける。
――――――もっと速く!
――――――もっと硬く!
――――――もっと紅く!!
「はぁぁあああああああっ!!!!!!!」
「っっっ!!!!!」
恭弥の拳が肩を射抜く。痛みを無視し、恭弥の顔面を拳で歪める。殴り、殴られ、殴り殴り、殴り続ける。もう、お互いにダメージを無視している。
・・・・・・身体の限界はとうに超えてるんだ。いつ倒れたっておかしくは無い。だけど、だけど!!ここで倒れるわけにはいかない!!
本当に気力だけで戦っている状態だ。
「み、美夏!!」
「・・・・・・まさに捨て身の戦いですね」
お互いのダメージを無視して、倒す事をただ渇望する。
左腕の感覚が徐々に消えてくる。
恭弥の拳が顔面に突き刺さって、鉄の味が口いっぱいに広がる。
足は折れてしまいそう
だけど、止めない。諦めない。だってこれはあの時の・・・・・・昔、恭弥が私を助けてくれた時の、お返しなんだ。ただの高校生なのに命を懸けて私を助けてくれた、その恩返し。だから、今度は私が恭弥を助けるんだ・・・・・・!!
右掌底が決まり恭弥の身体は浮かび上がる。
――――と、ここで恭弥が勢いを利用して天井へ着地。壁を蹴り突撃をしかける。右腕を引き絞り、打ち放つ。
「・・・・・・!!」
「(右正拳突き・・・・・・焦ったわね、恭弥!)」
恭弥の動きに合わせるように後退し、腕を絡めとる。勢いは殺さないまま背負うような形に持っていき、そして、
「ぅらあっ!!」
「っ!!!」
思い切り叩きつける。轟音と共にクモの巣状の亀裂が床にはしる。
ここで、初めて恭弥の表情が変化した。苦悶の表情、効いている・・・・・・!!!
「勝負を焦ったみたいね、恭弥」
「・・・・・・」
よろよろと立ち上がる恭弥の目の前に立ち、両の手の平を恭弥の胸にそっと添える。
何かされることを察した恭弥は、後ろに跳ぼうとする、
「ちょっと痛いかもしれないけどゴメンね」
「・・・・・・!――――!?」
足が動かなかった。恭弥の顔が驚愕の色を示す・・・・・・片足を踏みつけているからだ。これくらいの拘束は一瞬で解かれるだろうけど、この一瞬でも隙があればよかった。
腰を落とし、全身に力を込める。恭弥が足を引き、逃げようとするが、それより早く私の技が撃たれた。
「・・・・・・!!」
「(鳳華流の奥義の1つ・・・・・・未完成だけどやるしかない)」
「鳳華流・・・・・・浸透剄天衝!!」
とても、とても静かな技だった。
休憩室が静寂に包まれる。動くものもいなければ、声を出す人もいない場では恭弥の息遣いさえも聴こえてきそうだ。
―――――浸透剄天衝は対象に外的ダメージを与えない代わりに、体の中に直接ダメージを与えて内臓を破壊する技・・・・・・私は未熟だから、揺らすことしか出来ないけど、それでも戦うどころか立つ事も難しいはず。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・」
「恭、弥・・・・・・っはぁ・・・・・・」
よろめきながら後ろに歩みを進める恭弥。2歩3歩と揺蕩い(たゆたい)、ついに膝を立てた。ゴホッと血を吐き出した。
身体強化を解除して、紅い光は溶けるように消えた。
これまでの疲労がどっと襲い掛かり、私も倒れそうになるが、なんとか立ち続けた。
「や、やった、の?」
「う、うん!そうだよ、美夏の勝ちだよ!」
「・・・・・・」
「そ、そっかぁ。これで、恭弥も連れて帰れる、のね」
勝った――――――そう確信した瞬間、この油断が致命傷だった。
「が、がぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」
怒号と共に視界から消える恭弥。
恭弥に押し倒される。
床に仰向けになる私と至近距離にいる恭弥。
胸に添えられた左手の平。
そして――――――
「あ・・・・・・」
体の内部に伝わる衝撃。赤熱した棒が捻じ込まれ、強引に内臓を混ぜ返し、かき回し、振り回し、陵辱されていく感覚。
私は、この技を知っている
「あ・・・・・・ああああ・・・・・・」
体の外からではなく、内側から徐々に何かが迫ってくる。そして
「がああああああああああああああああああああああああ!!!!」
痛みが体の中で爆散した。爪の先から髪の先までダメージが駆け巡る。私の腕を、足を、心臓を、口内を、目を、指を、破壊が駆け巡る。
神経にもダメージが入ったのか、手足が痙攣してピクピクと震えている。自由に動かす事ができない。
そして、何故か浮遊感に襲われる。
「ぁ・・・・・・ぅぁ・・・・・・ぁぁっ」
ああ、さっきから床を攻撃しまくってたから、ついに床が抜けたのね・・・・・・さっきの技で抜けたんだっていうなら、あの浸透剄は完全じゃなかったみたいね。威力が床に逃げてるってことだし。
体は重力に従い、鉛直下向きに真っ直ぐ落ちていく。そしてこのまま固い床に叩きつけられるのだろう。
どこか遠くのほうで私を呼ぶ声が聞こえる。だけどその声も頭が認識しない。
・・・・・・ああ、だんだん視界が真っ白になってきた
・・・・・・やばいわね、何も考えられない。完全な思考停止だ。
ゴメン、仁。恭弥、助けられなかった。
ゴメン、ヒメル。私負けちゃった。どうにか、お願いだから逃げ切ってね。
あと、ゴメン、恭弥。私、また助けられなかった。
「ぅぅ、ぁ」
涙が顔から離れ、上昇していって空中に消えていく。
意識が、遠のいていった。
お久しぶりです。曲の方も無事に仕上がり(というか一段落つき)ました。
そして世界樹の光もそろそろ終局です。このペースで行くと来月中には完結しそうです。
最後までお付き合いしていただけたらと思います。




