青柳事件 第6幕
耳をつんざくような爆音に思わず目をきつく瞑った。ビルの一部が粉塵と化した為か、視界が灰色の煙に覆われる。
・・・・・・体に痛いところは無い。ちゅうことはワイはなんとか助かったんやな。せやけど、それは同時にメアが紫槍の直撃を受けたということや。
しかも槍1本1本がとんでもない威力というのは見て取れる。安全装置がかかっとるから死にはせんと思うけど、おそらくもう動けないやろうし
「・・・・・・くそっ!!」
あんのドアホ!!ワイと須藤が動けへん今、お前が倒れたら完璧にワイらに勝機は無くなるやろ!!お前が動ければ少なくとも逃げることはできたはずや!
もうちっと頭働かせろよな、これじゃ完全にチェックメイト、やんけ。
悪態をついても現状が変わるはずは無い。煙が晴れるまでに状況の改善をせえへんと間違いなくワイがやられる。
「(一番手っ取り早いのは、結界を解いて逃げること。せやけど、血を流しすぎた。もう、ワイもあまり動けへん・・・・・・)」
万事休すか、諦めかけたその時―――――
「こんばんは、仁くん☆」
それは、あまりにも予想外すぎる人物やった。
癖の強い翡翠色の髪はぴょんぴょんと跳ね、翡翠色の粒子を飛ばしているかのように錯覚する。パッチリと開かれた大きな目は髪色とは対照的にルビーのような赤色で、真っ直ぐにワイを見つめている。
美夏位に小柄な体格には不釣合いの軍服のような制服を身にまとい、サイズが合わないのか裾がだぼだぼで手が出ていない。そして、体の大きさに対し不釣合いに長い翡翠色のサイドポニーテールを揺らす少女。
「あれー?どしたの?ゴキブリ並みにしぶとい君らしからぬ、弱った顔だね」
「・・・・・・(ぱくぱく)」
「もしも~し。あれ?聞いてる?」
なんやサラッとバカにされた気がしたが、そんな些細な事は耳には届かなかった。そりゃそうや。だってあの女は警備隊隊長にして、学園都市の人間の中でも最強の部類に入る女、
「さ、佐渡みとり!?なんで隊長のお前が此処におるんや!!!」
「おお!!ビックリした! も~いきなり大声出すなよな」
「んなことはどうでもええねん。お前行方不明やったはずやろ!」
「行方不明・・・・・・あ~?そういえばそうだったっけ」
「ああ?とぼけんなや。十和田先輩が戻った時あんたがいなかったって」
「ゆきが・・・戻った・・・・・・?へ~そんなことがあったんだ~」
「そんなことって・・・・・・あんた当事者やろ」
「そうだけど~でも、ボクだし?」
「理由になってへん」
「そんなことよりも!!今大事なのは目の前のマッドを黙らせる事でしょ!!」
「・・・・・・話の流れとか一切無視してはるが、確かにそうや」
「見た感じ、キミはボロボロの雑巾で、あそこの次期生徒会長殿はノックダウンされてるし、あの蒼髪ちゃんはボクの補佐官のおっぱい枕で寝てるし。ていうことはさー?」
「な、何が言いたいん?」
「も~分かってるくせに~☆」
そう、この女のいうとおり、ワイとコイツは浅い関係やなくむしろディープな関係といえる仲。次にコイツが何を求めてくるかも大体予想はついておる
「・・・・・・つまり、頭を下げて助けを請えと?」
「そうそうっ!はり~あ~っぷ!!」
「・・・・・・どうしても?」
「どうしてもっ」
「ワイ、いま動けへんのやけど」
「は・や・く!!土・下・座!!さ・っ・さ・と・土・下・座!」
「・・・・・・」
三三七拍子のテンポで負傷者に土下座を要求してくるとは。しかも笑顔で。
チビっ子隊長に衝動的に殴りかかりたくなるが、どうも貧血のせい目眩がしてきた為、ため息を吐くだけで抑えた。
どうして警備隊隊長がこんなにネジ曲がった人格をしているのかは、この際置いといてこの現状を打破出来るヤツは隊長だけやし、下手に機嫌悪くして帰られても困る。しゃーないけどここは土下座するしか・・・・・・
ついに諦めてプライドを捨てようかと覚悟を決めた時、
「隊長、今は緊急事態です。ふざけないで下さい」
「ふざけてないよ。本気も本気、超ガチなんだから!」
「仁さんを土下座させるだけで本気出さないで下さい!!怪我人ですよ!」
先輩が隊長をたしなめている。
「でも、仁君だし~」
「でもも、だってもありません!警備隊の隊長がそんな子供っぽいことを言わないでください」
「だって~私子供だし~」
「・・・・・・ワイより歳くっとるのに?」
「ああ? ぶちのめされたいの?」
「そんな汚い言葉を使わないで下さい!!・・・・・・もう!そんなにイジワルをするなら・・・・・・明日のおやつ抜きですよ」
「っ!?お、おやつを人質にとるなんて卑怯だぞ!!」
「なんでや!?」
「マッサージもしてあげませんよ」
「にゃあっ!?そ、それがないとぐっすり寝れないのにぃ!!」
「では仁さんに謝って協力してあげてください」
「ぬ、ぬぬぬ、ぬうぅ~~~~~!!!」
プルプルと生まれたての子鹿のように足を震えさせながら、涙目で抗議の視線を部下に送る隊長って・・・・・・相変わらず見た目も頭脳も子供スペックやな。てかワイを無条件で助けるのがそないに嫌って、ワイ、嫌われすぎやろ
と、先輩方のやり取りに気を取られてて、忘れかけてた青柳が動き出していた。
「どこの誰かは分からないけど、邪魔するなら、ねんねしてもらうよ」
腕を向ける、それだけの動作で空中に10本の紫槍が投影された。が、先輩2人は・・・・・・
「ぐぐぐっ・・・・・・!」
「も~なんで普通に仁さんを助けてあげないのですか」
「それは・・・・・・え~と、あれ、昔に仁君からひどい辱めを受けて」
「目を逸らしながら自信なさげに言っても説得力がありません」
「ちょ、隊長に先輩!槍、槍が!!!」
「あぁ?槍?仁君の槍って・・・・・・ちょ!なに下ネタぶっこんでんの!?」
「はあ!?あんた頭沸いてんちゃうの?何で今の発言で下ネタだって勘違いできんねん!そうやなくて、あのマッドから10本の槍が!!」
「10本!?ま、まさか10人がかりで来るなんて・・・・・・やだ、ボク、初めてなのに」
「体くねらすな!!・・・・・・せやから!!今はそんなことより、後ろ見ろや!!」
「あ、あの、隊長。仁さんの話を―――」
「いや~~ん!!そんな・・・・・・そんなこと言われたら―――」
頬を赤らめて体くねらしとる場合やないのに!ワイの声は全く届かず、妖しく光る紫色の槍が暢気な隊長の元に殺到していく。そして――――
「しっかりお礼をしてあげなきゃねっ♪」
槍に指が触れる。10本の指1つ1つに1本ずつ槍の穂先に触れた。なのに・・・・・・爆発は起きなかった。
「っ!!?」
「―――――なっ!!?」
指が触れたところから槍に亀裂が走っていく。穂先から柄へと徐々に、徐々に亀裂は入り込み、そして刃と逆の先端部分まで亀裂が広がった時、ガラスが割れるような音と共に全ての槍が粉々に砕け散り、空気中へと霧散した。
想定外の事態に、呆然としている青柳に対し、隊長は憎たらしい笑顔で言い放った
「マッドさん、覚悟してね?」
☆美夏、ヒメル
「ど、どうして・・・・・・な、の」
ヒメルの茫然とした声がこだまする。無理も無い、状況は考えうる限り最悪なのだ。
満身創痍の私が放った渾身の蹴りを止めたのはあろうことか恭弥だった。そして、今恭弥はVenusの女の子を庇うように立っている。
・・・かばう・・・ように・・・・・・
「・・・・・・いいなぁ」
「え?」
「いや、なんでもない。なんでもない」
恭弥を庇う事はあっても庇われる事なんてないからなぁ。一度でいいから・・・・・・って!そうじゃなくて!!
「恭弥!助けにきたわよ。はやく帰りましょ!!」
「・・・・・・」
「ねぇ恭弥、聴こえてる?助けに、来たわよ」
「・・・・・・」
「恭、弥?」
「み、美夏、何か神林君、おかしいね」
「えぇ・・・・・・」
焦点の合わない目が私を見つめてくる。冷たい、とても冷たい瞳だ。まるでロボット。姿形は恭弥でも中身が全く別のものに思えてくる
恐る恐るとした口調の中に警戒を含めて言い方で聞く
「あんた、本当に恭弥なの?」
「・・・・・・み・・・・・・か」
「っ!!」
「美・・・夏・・・・・・!!」
「恭弥!?」
苦しんでいるようなくぐもった声。直立不動で無表情なのにその声は苦しそうで・・・・・・考えるよりも先に体が恭弥を求めて走り出していた。
恭弥の肩を荒っぽく揺らす。
「恭弥!大丈夫なの?!」
「美夏・・・だ、め・・・・・・だ」
「恭弥!恭弥!!」
「美夏・・・・・・は・・・・・・れろ」
「恭弥、何?どうし――――」
「離れろ!!!!」
突然の大声。それと同時に恭弥が逆さまになっていた。いや、恭弥だけじゃない。床も天井もVenusの女の子もヒメルの上下反転していた。
私が逆さまになっていたと理解するのに、そう時間はかからなかった
「なっ!」
空中で半回転して足から着地する。な、何が起こって何をされたのよ。一体―――――
―――――ズキッ
「っくぅ!?」
左腕に鋭い痛みが走った。あわてて見ると、特に外傷が増えていたわけではなかったけど、握った跡が―――――恐らく、投げられたんだろう。強引に左手を掴まれて投げ飛ばされた、そう推察した時、果たして私を投げたのは一体誰なのか。
いや本当は分かっている。だけど、分かっているけど認めたくない。だって投げたという事は私に対して敵意があるということ。そして前後の状況から考えて投げた人間はきっと
「恭、弥?どうして」
「・・・・・・」
「恭弥」
「・・・・・・!!!」
「っ!!」
恭弥が跳躍して腕を振りかぶる―――天井に頭が付きそうなくらいの大きな跳躍だが動きが大袈裟すぎる。後ろに跳んで避ける
「(これは身体強化?恭弥にしては強すぎる気がするわ)」
つい先週の恭弥とは別人みたい。まったく、訳が分からないけど・・・・・・この状況、おかしすぎるわ。どうにかして恭弥をとめなくちゃ。
そう思った次の瞬間
「えっ――――」
目と鼻の先に拳が肉薄していた。首を倒して避けるが、あまりにも速い突きに頬が掠り切れる―――休む間も与えず、突きを放った腕を貫手の形にして薙ぎ払ってきた。
その動きに合わせて右腕を使って軌道を逸す―――そうして晒された脇腹に蹴りをくわえる。
「(か、硬い!)」
まるで服を着た鉄の塊を蹴ったみたい。
一瞬の拮抗、足に力を加えて強引に吹き飛ばすと恭弥はバランスを崩し、瓦礫の山に半身から倒れこんだ
「な、なんなのよこの硬さ。下手すれば私の足のほうが折れていたかもしれない・・・・・・」
足が痛む私に対して、恭弥はなんとも涼しい顔だ。全く効いていないようにすら見える。こっちはさっきの戦闘でぶっ倒れそうだってのに。
「だったら・・・・・・!!」
攻めるしかない。単純な速度では(何故か)恭弥が上だけど、戦闘では私も恭弥以上に経験地が高いことが幸いね。
振り下ろされた拳を掻い潜り、膝蹴りを寸でのところで避け背中に回りこむ。そして恭弥を羽交い絞めして、足に力を込めて―――――
「『投げ技』はどうよ!?」
そのままブリッジ姿勢を作り、体を反らす半ばで恭弥の体を放り投げた。
「じゃ、ジャーマン・スープレックス!!」
「まさか生ジャーマンが見れるなんて・・・・・・すごいっ美夏」
空中で身動きはとろうとするが体勢は変えられないまま、後頭部からリノリウムの床に落ちていった。
常人なら首の骨が折れてもおかしくないはず・・・・・・暴れてるってなら少々荒っぽいけど気絶させて、首にひもを括りつけて引っ張っていくしかないわね。
身体強化をして万全の体勢をつくる。しかし
「・・・・・・」
「無傷――――というわけでは無いでしょうけど、あまり効いてるようには見えないわね」
とにかく、恭弥を黙らせるにはただ殴るだけじゃあダメね。もっと別の攻撃手段が必要だ。もしくは―――思考を遮るように恭弥が飛び掛ってくる。
まるで野生の猛獣を髣髴させるその姿は型とも技ともいえない剥き出しの力の塊。そう、Venus達に近い攻撃だ。
大きく振りかぶられた右の拳を軽くいなす。続いて左の突きが放たれ、最小限の動きで避ける―――あまりにも速すぎるこの拳はおそらく恭弥に迷いが無いから。迷わないから真っ直ぐに拳が飛んでくる。迷わないから容赦が無い。そして手加減や手抜きは一切無い。
――――だけど私はただ、攻撃をいなし続けるだけだ。
――――だって、今の恭弥・・・・・・意識が感じられないんだもの。
この奇怪な状況でも解決の糸口を探さないと。悪戯に恭弥を傷つけたく無いもの
実は私、小説の他にも作曲(正確には編曲)をしていまして。今書いてる曲がいよいよ佳境に入ってきて、そっちに本腰を入れなくてはならなくなったので、来週はお休みさせていただきます。
なんか、最近休みが多くて申し訳ないです。




