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青柳事件 第5幕

・・・・・・痛くない?


・・・・・・槍が直撃したはずなのに全く痛みを感じないです。でも頭に靄がかかったようで意識がはっきりしない。


・・・・・・これが『死』なのでしょうか?


・・・・・・いや、D・PRGを使っていれば死ぬ事はないでしょう。たぶん気絶する前なのですね。初体験の領域です。


・・・・・・それにしても気絶ですか・・・・・・最近ついてないです。こんな時に昔のことが走馬灯のように頭に思い浮かんでくるなんて・・・・・・


 この不幸、いつから始まったのでしょう。

たぶん、事の発端はヒメルが家出した時からですね。

 元々青柳を追っていた皆さんが、ヒメルが消えてバランスが崩れた世界樹を直すために研究区画に呼び戻されて、代わりに私が出動することになって。

 2日かかってようやくヒメルを見つけたと思ったら今度は神林さんに邪魔されて。

 その後ヒメルが仁さんの家に匿われているのを監視しながら青柳の動向も探っていって、結果的に仁さん達が青柳の仲間でないと分かったからこれ以上私達に関わらせないようにする為に果たし状を出して、結果的に負けて、なし崩しで仁さんに協力する形で恭弥さんの救出作戦に加わって、青柳に負けて、今は意識が落ちたと。


 はぁ、どうせ寝るなら温かい布団で寝たいです。というかまともに布団で寝たのって1週間前とかのような・・・・・・ベットが恋しいです


しかも最近はカプセルホテルとネットカフェの行ったり来たりで、お風呂に入るのも不定期です。最後にお風呂は行ったのは何日前だったでしょうか・・・・・・うぅ、これでも15歳の女の子なのだから毎日お風呂に入りたいのに・・・・・・


それにご飯も・・・・・・手軽に栄養補給できるということで買ってみたあの棒状の固形食品。なんかモサモサするわ、食べるたびに口の中の水分が失われていくわ・・・・・・食堂のご飯があんなに美味しいなんて思いもしませんでした。というか西街地区の方々はよくあんなもので生きていけてますよね。動物園の動物のほうがもっと良いもの食べてるきがする


そういえば、最近戦闘が多いですね。紅髪さんには殴られるし、恭弥さんには泣かされるし、青柳には殺されかけてますね。てか、青柳に関してはコンクリの壁を抉るほどの槍を7発まともに受けたんですよ?普通死ぬでしょ。まあ、死なないのでしょうけど


あ~あぁ・・・・・・こんなことになるんだったら浴槽の淵までお湯の張った温かいお風呂に飛び込んで、おなかいっぱい美味しいご飯を食べて、お日様の匂いのするフカフカの布団で寝たかったなぁ・・・・・・それで、神林さんにも、会って、謝って・・・・・・


――――――――フワッ


 え・・・・・・なんですか?この、柔らかい感触


「メアさん!!メアさん!!」


朦朧とした頭でもはっきりとわかった。この声は、確か、十和田さん。

もう、目を開く気力も起きませんが見なくても分かります。今、私は十和田さんに抱きとめられてる

ああ・・・・・・温かい、です・・・・・・

意識が深いところへと落ちていった。





☆美夏、ヒメル




「――――拳嵐乱舞!!!」

「――――――!!!」


 体全体を武器とした鳳華流の技を怒涛の勢いでかけていく技。それに対しガンマは2振りの脇差わきざしで応戦してくる。

 正拳突きを避けられ、刀で切り上げてくる。空いた左手で刃の腹を押し当てて軌道を逸らし、流れるような動作で肘を打ったら刀で受け止めて・・・・・・

 常人の目では見えないほどの速度で拳と刀が交錯する。ただ、


「(きつく握って左肩に向かっての突き―――ならば右手ではらってそのまま肘撃)」

「――――っ!?」


 カウンターの右肘がガンマの胸に突き刺さった。肘の威力に顔をしかめて後ろによろめいたが、すぐさま体勢を立て直し大袈裟な上段切りを仕掛ける。

・・・・・・ったく、普通肘を食らったらしばらくは動けなくなるのに。呆れるくらい体が頑丈ね。

ただ、幸いにしてガンマは喧嘩に関しては素人。動きが面白いように読めるのが救いかしらね。

拮抗していた戦闘だったが徐々に私が押していく


「右掌打!」

「――――!」

「猿臂膝蹴り(えんぴひざげり)!!」

「―――っ!」

靠撃こうげき

「――――かはっ!!」


 水平にはらってきた刀を体を沈めて避け、突き上げるような掌底を放つ。浮き上がったガンマの身体に右肘の水平撃ちと左膝蹴りを叩きこむ。そして靠撃。ガンマが壁に叩きつけられた。

剣道三倍段。一見すると刀が有利なように思えるが、それは両者の実力が同等だった場合のみ。今の私とガンマでは武術家としてのレベルがあまりにも違いすぎるわ。

不意打ちで怪我をしたとはいえ今の戦闘で私は無傷、ガンマは何発も技をかけられているのがいい例だ。

・・・・・・とはいえ私もいたぶるのが趣味って訳じゃないし、できる事なら諦めて降参して欲しいのよね。


「あなたは私を殺せない」

「――――!!」

「あなたも分かっているんでしょ?だったらこれ以上怪我したくないなら降参してくれないかしら」

「『私は・・・・・・まだ負けてな―――』」


 ガンマの目の前に高速移動し右腕を掴んで捻りあげる。すると硬質な音を立てて苦無が床に転がった。


「やっぱり。まだ仕込んでいたのね」

「『・・・・・・なぜだ!?なぜこれほどの実力がありながら私を倒さない!!』」

「あなたに聞きたい事があるの。気絶させたら聞きたいことも聞けなくなるし」

「・・・・・・美夏は気絶させるつもりなんだ・・・・・・ああ、訳すね」

「『拷問か?そんなことはしても口を割らんぞ!私はMだから!!』」

「そんなことカミングアウトされても・・・・・・ていうか拷問なんてするつもりないわよ。私はただ、どうして恭弥が連れて行かれたのか聞きたいだけ」

「『・・・・・・』」

「教えてくれないかしら」


 サングラス越しでどんな顔なのかいまいち分からないけど、少しは悩んでいるみたいだ。ってことは少なくとも人の話は聞いてくれるみたいね。

 しばしの逡巡。そして意を決したように話す


「『マスターは鬼の遺伝子を人間の身体に組み込む実験をする際の、被検体として彼をえらんだんだ』・・・・・・って実験?鬼?」

「なんだかキナ臭いわね」


 頭に2本の角を生やして、金棒を持って、肌の色が赤とか青とか緑とかだいぶ不健康な色をしてて、虎の毛皮を被った妖怪。そして「強さ」の象徴である鬼。

 その遺伝子を作るって一体・・・・・・


「そんな空想上の存在の遺伝子なんて作れるわけ?」

「『そこはマスターしか分からない事だ。ただ、私達はマスターの手足であり、マスターに仇なすものを排除する存在。それ以上でもそれ以下でもない』」

「そう・・・・・・それじゃ、あなたは私達を通すつもりはないと」

「『そうね』・・・・・・美夏」


 はぁ、やっぱり仁や恭弥みたいには行かないなぁ。たぶんあいつらだったら上手い事言いくるめちゃうんだろうけど、私には無理そうね。そこまで頭はよくないわ。

 だったら、後腐れなく全力で叩き潰そう。手を離して距離をとる。


「『私も1つ聞きたい事がある』」

「な、何?」

「『あの爆発の時、あなたはどうして生き延びられたんだ?普通の人間だったら死んでるはず』」

「あぁ、それね・・・・・・私に勝ったか、私に負けても意識があったら教えてあげるわ」

「『それはずるくないか?』」

「別に」


右手を天に、左手を地に向ける威圧殲滅の構え、天地上下の構えをとる。もう、これで決着をつけよう。私なりの意思表示だ。

 ガンマも雰囲気が変わったことを察したのか、立ち上がり構える。


「私は次に進まなければいけない。だから、この一撃で決めるわ」

「――――」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


 沈黙が流れる。お互い微動だにしない中で、私の考えは張り巡らされる。

確実にガンマを沈めるような一撃。その為の布石。

 考えうる限りの動きを予想して、その時を待つ


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 永遠とも思える静寂。しかしその緊張は唐突に破られた。


―――――ゴウッ


「へくちゅっ!」


 一迅の風。ヒメルのくしゃみ。

 それを合図に動く



「―――――纏絲正貫突き(てんしせいかんづき)!!!!!」

「(―――――はぁああああ!!!)」



 それは一瞬の攻防だった。

 紅く輝く腕と月光に照らされた銀色のやいばが重なる。

刃が拳に触れる、その刹那――――


「―――――!!」

「はぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!」


 腕全体を回転させて順手から逆手へと拳を捻りあげ、刃の側面に拳を入れる。そのまま一気に捻り上げた拳を解放して、筋肉のパンプと螺旋の力でまるで弾くかのようにして刀の軌道を逸らす、そして―――――


「螺旋!!!」


 確かな手ごたえ。

吸い込まれるように胸に突き刺さった拳は、ガンマを吹き飛ばすことはなく、数歩よろめかせるだけにとどまった。威力を体の中に伝え、衝撃を抑えたからだ。

されど威力だけでいったら鳳華流の中でもトップクラスの技。いくら頑丈なVenusでもさすがに倒れるだろう。


「・・・・・・(くっ)」

「・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・」


 2歩、3歩とよろめきながら後ろに下がり、脇差しを落とした。そして、ついに


「・・・・・・(負ける、わけ、に・・・は)」

「・・・・・・」


 膝を折り、次いで腕をつき、ついに地面に倒れた。気絶したみたいだ。

 ヒメルが鼻を啜りながらこちらを振り向く


「う、うぅ~寒い~。って、うわぁっ!!死んでる!!」

「死んでないわよ。まだ」

「まだ!?じゃあこれから殺すつもりなの!?」

「殺さないって・・・・・・」

「そ、そうだよね~・・・・・・って美夏?なんかすごい疲れてるみたいだけど――――美夏!?」


 ガクッと足の力が抜けて片膝をつけて、呼吸が荒くなる。それと同時に体中が激しい痛みと疲労に襲われる。じわり、と右腕から熱い液体が流れる感覚がする。

血相を変えてヒメルが駆け寄ってくる


「み、美夏!どうしたの!?まさか怪我でもしたんじゃ!」

「・・・・・・大丈夫、よ・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ちょっと、疲れた、だけ」

「そ、そう?―――――って、その腕!!」

「あ~、ばれたか」

「血まみれだよ!?やっぱ怪我してたんじゃない!」

「か、かすり傷よ。怪我の内にも入らないわ」

「そんなの嘘だよ!!」


 まあ、普通そういうわよね。肘から先が血まみれなのにかすり傷だって言っても説得力がないわよね。避けたと思ったんだけど少し斬られたみたいね。


「なんと言うか、これは私のプログラムの反動ってやつだからさ。本当に心配しなくてもいいのよ」

「そ、そう・・・・・・?」

「そうよ・・・・・・それに―――」


 こんなところで休んではいられない。こうしている間にも恭弥が危険な目に遭ってるかも知れないんだ。こんなところで立ち止まってはいられないわよ

 汗が傷に染みて刺されるような痛みが襲い掛かる。だけど立ち止まるわけには行かないんだ。痛みを堪えながら、自分を奮い立たせる。


「さ、恭弥はこの上の階なんでしょ。早く行こう」

「う、うん。じゃあ行くけど、その前にセンサーで位置を確認するね」


 ヒメルが目を閉じて、胸の前で両手を握りしめて祈るような形で集中し始める。そのままブツブツと呟き始めた

 ・・・・・・今更だけどヒメルのセンサーってどういう仕組みなのかしら。D・PRGってワケではなさそうだけど、D・PRG以外にこんな芸当が出来るとは思わないし・・・・・・まあ、今は考えなくてもいいか


「・・・反応・・・・・・6階・・・移動・・・・・・ゆっくりした速度・・・・・・」

「ヒメル?」

「・・・・・・場所は・・・・・・このルート・・・・・・だったら・・・」

「ヒメル、恭弥は? この上にいるんじゃ「あっ!!」――――何!?」

「美夏、この部屋に2つの反応が近づいてきてる」

「えっ!!」


 近づいてきてる? そうか、6階に繋がる階段はこの部屋しかない。降りてくるならここを通る必要があるってわけか。

そして状況で近づいてくる人、まず間違いなく


「恭弥とVenus・・・・・・!!」

「うん。1つは神林君のものでもう1つはさっきのあの子達と似たような反応だったよ」


 まずいわね。さっきの戦いでダメージをもらい過ぎたからちょっと休みたかったんだけど、そうはいってられないみたいね

 前方にある金属製のドアからコツコツと硬質な音が近づいてくるのがわかる。


「Venusのヒールの音かしらね。ヒメル、下がってて」

「うん・・・・・・ねえ、美夏」

「何?」

「気をつけてね」

「・・・・・・うん」


 そう言うとヒメルはパタパタとさっきと同じように部屋の外に出て行った。そして、入れ替わるように、ドアノブが動き出して、


「(体力は残り僅か。ならばチャンスは出てきた瞬間に全力の蹴りで吹っ飛ばす奇襲だけ)」


 ドアが開いた。同時に地面を蹴りだし宙を舞う。一直線にドアに飛び込む。そして、目にも止まらぬ速さで足を蹴りだし、



 ――――――ガッ!!



「え・・・・・・」

「・・・・・・」


 片腕で止められた。その事は、まあ良いだろう。Venusのスペックを持ってすれば一撃で昏倒させることを狙った蹴りも止められて仕方がないとは思う。


「なんで・・・・・なんで、よ・・・・・・」

「・・・・・・」

「きゃっ!!」


 腕を振り払われて宙に放り出される。体が思うように動かず、受身も取れず床に叩きつけられた。

 ダメージは全くないけど、それ以上に私は混乱を極めていた。なぜならば蹴りを止めたのはVenusではなかったから。

 彼女を庇うように私の蹴りを止めたのは見覚えのある男の子だった。

夜のように黒い髪。学校の制服を着て、中肉中背で細身だけどある程度筋肉質で、そこらの不良だったら軽くあしらえるくらい戦闘慣れしていて、私のヒーローだった。光を反射しないような黒く深い瞳に違和感を覚えたが、あいつは私達が探し求めていた唯一無二の親友にして私が大好きな少年。


「なんで・・・・・・なんで庇ったの」

「・・・・・・」

「答えてよ・・・・・・恭弥!!!」


 神林恭弥だった。




2週間ぶりです。先週のテストは無事に終わったので次回は来週の2月9日です。物語は終盤になり、そろそろ話のストックが切れてきた・・・・・・

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