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十九日目・後編
「今日はここまでにしよう。」
「また短いな。」
「結果は出せるのか。」
ヴェリアは嘲るように言う。
「それは上が決める。」
「そうだな。」
男は立ち上がり、書類をまとめる。
椅子の擦れる音。
だが、ここからが違った。
男はヴェリアの前に立つ。
「これを。」
彼の手には栞。
小さな花。控えめな栞。
ヴェリアは目を開く。
「何故。」
「同じ物が家にある。もう二つ。」
「買ったのか?」
ヴェリアの口角が確かに上がる
「何故?」
「可愛らしい趣味だろう?」
男も笑い、振り返る。
そうして男は歩を進める。
一定のリズムで。
ゆっくりと。
鉄扉の前で立ち止まり
振り返る。
「言い返さんのか。」
「随分とお淑やかだな。」
「なっ…」
鎖がジャラリと音を立てた。
鉄扉が重たい音を立て、閉まる。
階段を足音が上る。
そして消える。
ヴェリアは頭を振り、目を瞑る。
そして思考する。
硬い右手。
栞。
戦災孤児。
挑発。
いや、あれは…
鉄格子の根元に目をやる。
花。
ヴェリアはもう一度頭を振る。
鎖が動きに合わせて小さく鳴る。
息をひとつ大きく吐き
目を瞑る
お淑やかだな。
「……クソッ」
ノイズが多すぎる。
ヴェリアは思考を手放した。
鎖の残響だけが響き続けていた。




