七日目・前編
牢の扉が開く音で、ヴェリアは目を開けた。
足音が近づく。
昨日と同じ、重すぎず軽すぎない歩き方。
男は椅子を置き、腰を下ろした。
書類は持っていない。
ヴェリアはその手元を一瞬だけ見る。
そしてすぐに視線を戻した。
(今日も同じか)
男は机の上に腕を置いた。
「昨日の続きをしよう。」
ヴェリアは小さく肩を動かした。
「戦争の話か。」
「そうだ。」
短い返答だった。
男は少しだけ視線を下げる。
「君は戦争を、ただの出来事だと言ったな。」
「あぁ、言った。」
「では聞こう」
男は顔を上げた。
「勝敗を決めるものは何だと思う。」
ヴェリアはすぐには答えなかった。
鎖がわずかに鳴る。
足の位置を変える。
「規模。」
あっさりと言う。
「兵力、物資、時間。」
指を三本立てる。
「大抵はそれで決まる。」
男は頷かなかった。
ただ聞いている。
ヴェリアは続けた。
「理想だの精神だのは、後から付く飾りだ。
だが…現実は補給だ。」
男の口元がわずかに動く。
「軍学校の講義のようだな。」
「間違ってるか?」
「いや」
男は静かに言う。
「正しい。」
それから少し間を置いた。
「だが、それだけでは勝てない戦もある。」
ヴェリアの眉がわずかに動く。
「例えば?」
男は指を組む。
右手の動きは相変わらず硬い。
「小規模な反乱軍が帝国軍を苦しめる場合。」
ヴェリアの口元がわずかに上がった。
「ずいぶん身近な例だな。」
男は気にしない。
「なぜ起きる?」
ヴェリアは少しだけ考える。
いや、考えるふりをした。
「地形」
「民衆」
「情報」
短く並べる。
それから男を見る。
「あと、指揮官。」
男の目がわずかに細くなる。
「ほう」
「弱い軍でも、指揮官がまともなら戦える。」
ヴェリアは肩を壁に預ける。
「しかし、その逆もある。」
「大軍でも、上が馬鹿なら崩れる。」




