君は誰?
アーロンは薄暗い食堂の隅で一人座り、他の生徒たちの騒がしい声から離れていた。
彼はまるで、自分だけの世界を作り上げ、その硬い沈黙の中で昼食を味わっているかのようだった。朝買ったクロワッサンは、今では半分だけ残っている。
彼はゆっくりとその味を口に運び、静かに噛みしめていた。まるで周囲の世界の喧騒など、彼の心を守る壁を突き破れないかのように。
突然、慌ただしい足音が近くの静寂を破り、それに続いて息を切らした荒い呼吸が聞こえた。
「また会ったね。」
ショリアが突然彼の隣に現れ、食事の載ったトレーを小さな音を立てながら置き、そのまま腰を下ろした。
アーロンは半分だけ振り向き、無表情な目を向ける。
「何だよ?どうして俺をつけ回すんだ。」
ショリアは眉を上げ、不満そうでありながらどこかおどけた表情を浮かべた。
「えぇー、自意識過剰すぎ。ここに座ったのは他の席が全部埋まってたからだよ、オーケー?」
アーロンは周囲をちらりと見回した。確かに、ほとんどの席は生徒たちで埋め尽くされている。
彼はそれ以上何も言わず、再び手に持ったクロワッサンにかじりついた。しかし、ショリアの声が再び空気を裂く。今度はもっと明るい声色で。
「わぁ!あなたもクロワッサン好きなの?」
「ん。」
アーロンは振り向きもせず、短く答えた。
「すごい偶然、私も好きなんだ。」
ショリアは目を輝かせながら言った。
「一口もらってもいい?」
アーロンは一瞬固まり、その少女の顔を見つめた。
そして何も言わないまま、パンを半分に割り、その片方をショリアへ差し出した。
「ありがとう。」
ショリアは心からの笑顔を浮かべた。
彼女はすぐにそのパンにかぶりつき、幸せそうに目を輝かせる。
「わぁ……おいしい……。これ食べるの、すごく久しぶり。」
アーロンは怪訝そうに眉をひそめた。
「何?」
ショリアははっとし、自分の失言に気づく。
「え、あっ、ううん……何でもない。」
(危なかった……バレるところだった。)
彼女は不安げに心の中で呟いた。
アーロンはなおも威圧感のある沈黙のまま彼女を見つめる。
「そんなにうまいか?」
「う、うん、もちろん。」
ショリアは慌てて答え、動揺を隠そうとした。
アーロンは手の中に残ったクロワッサンを見つめ、意識を遠くへ漂わせる。
「そういえば……お前の食べ方、知ってる奴にそっくりだ。」
ショリアは再び肩を震わせた。
「え?誰のこと?」
アーロンはゆっくり首を振り、その幻影を振り払うようにした。
「いや、何でもない。」
ショリアはしばらく黙り込み、それから薄く微笑みながら食事を続けた。
しかしアーロンは、その視線を外せなかった。
その顔。
笑い方。
食べ物を口に運ぶ時の俯き方まで……。
鋭い何かが彼の胸を突き刺した。
アーロンの目が大きく見開かれる。
呼吸が喉で詰まったようだった。
「……グロリア?」
彼の囁きはほとんど聞こえないほどか細く、壊れそうな風のようだった。
ショリアは首を傾げる。
「え?」
アーロンは慌てて顔を背け、胸の中を激しく揺らした。
「な、何でもない。」
(今のは何だ?グロリア……?ショリアの顔に?どういう意味だ?でも……よく考えれば、確かにすごく似てる。まさか……いや。あり得ない。不可能だ。落ち着けアーロン。)
ショリアは、突然落ち着きを失い青ざめたアーロンの表情をじっと見つめた。
「大丈夫?」
彼女は慎重に尋ねた。
返事をする代わりに、アーロンは突然立ち上がった。
椅子が乱暴に引きずられ、耳障りな音が響く。
「先に行く。」
ショリアはただ呆然と、その広い背中が慌ただしく遠ざかっていくのを見つめるしかなかった。
「……どうしたんだろう?」
***
昼の空は次第に陰り始め、薄い雲の層がだらりと垂れ込める中、太陽はゆっくりと西の地平へ沈みかけていた。
学校の鐘はすでに鳴り終わり、生徒たちは次々と校門を出て、笑い声とおしゃべりで道を満たしていく。
そんな喧騒の中、アーロンは一人で歩いていた。
足取りはしっかりと速く、表情は石像のように無機質だった。
その時――
「ねぇ!待ってよ!」
その明るい声が、冷え始めた空気を裂くように響いた。
アーロンは長いため息を吐き、渋々足を止めた。
「何だ?学校で散々つきまとって、まだ足りないのか。」
彼は振り向きもせず言う。
「つきまとってないよ。」
ショリアは笑みを浮かべながら答えた。息は少し上がっている。
「たまたま帰り道が同じ方向なだけ。だから……一緒に帰ろ。」
アーロンは一瞬探るような視線を向け、それから無関心そうに肩をすくめた。
「勝手にしろ。」
彼は再び歩き出した。
ショリアはその隣を、ずっと明るい空気を纏いながらついていく。
道中、会話のほとんどはショリアが作り出していた。二人の間のぎこちなさを壊そうとするように。
「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったね。あなたの名前は?」
「アーロン。」
ショリアは小さく頷く。
(本当はもう知ってるけど……)
心の中でそう思いながらも、彼女は無邪気な笑顔を崩さなかった。まるで今初めて知った情報みたいに。
「かっこいい名前だね。」
彼女は素直に言った。
「じゃあ、よろしくね。私の名前は――」
「ショリア。もう知ってる。」
ショリアは一瞬黙り込み、足をもつれさせそうになる。
「お、おー……ならよかった。」
少し気まずくなりながらも、彼女は変わらず明るい表情でアーロンの隣を歩き続けた。まるで彼の冷たい態度など、一度も拒絶として感じていないかのように。
数分後、二人はより静かな住宅街へ辿り着いた。木製のフェンスが並ぶ家々が整然と立ち並んでいる。
ショリアは白く塗られた木の門の前へ小さく跳ねる。
「じゃーん!ここが私の大好きなお家です!」
彼女は元気いっぱいに言った。
アーロンはちらりと視線を向けたが、その瞬間目を見開いた。
「そこ、お前の家なのか?」
「うん。」
「いつからここに住んでる?そこって……ギゼルおばあさんの家だろ。」
ショリアは意味深に微笑みながら門を開けた。
「そう。ギゼルおばあちゃんは私のおばあちゃん。数日前からここに引っ越してきたんだ。ただ、あんまり外に出てなかったから、あなたは見かけなかっただけ。」
アーロンは数秒間彼女を見つめ、その事実を飲み込もうとするようにしてから、小さく頷いた。
「そうか。じゃあ……俺は行く。」
返事を待たず、アーロンはすぐ隣の家へ向かい、門を開け、中へ入っていった。振り返ることはない。
ショリアはその背中が扉の向こうへ消えるまで見送り、それから小さく笑った。
「その癖……変わってない。」
***
空はオレンジ色に燃え始めていた。
夕陽がリビングの窓の隙間から差し込み、木の床に柔らかな影を踊らせる。
その穏やかな空気の中で、ショリアはソファにもたれ、退屈そうに足を揺らしていた。
彼女は長いため息を吐き、凝り固まった身体を伸ばす。
「……退屈。」
空を見上げながら呟いた。
「こんな夕方……何をしたらいいんだろ。」
柔らかな足音が近づいてくる。
やがて、小さなトレーを持ったギゼルおばあさんが姿を見せた。
「リアちゃん?何か食べるかい?」
その声には温かな優しさが滲んでいた。
ショリアは振り向き、薄く微笑む。
「まだいいよ、おばあちゃん。お腹空いてない。」
ギゼルおばあさんは静かに頷き、窓際の木椅子へ腰を下ろした。
「なら……そんな風にぼーっとして悩むより、自分がここで何をすべきか考えた方がいいんじゃないかい。あなたには使命があるんだろう?」
ショリアは一瞬固まり、それからゆっくり頷いた。表情が真剣なものへ変わる。
「そうだね……。ありがとう、おばあちゃん。」
彼女は心からそう言った。
「それに……急だったのに、ここに住まわせてくれてありがとう。」
ギゼルおばあさんは微笑んだ。顔に刻まれた皺が、深い安らぎを映している。
「もちろんだとも。だって……こういうことに関わるのは初めてじゃないからね。」
ショリアは首を傾げ、好奇心に包まれる。
「そういえば、おばあちゃん……どうしてアテナ様と知り合いなの?だって……天界の女神なのに。」
しばらくの間、ギゼルおばあさんの視線は窓の外へ漂った。夕風に揺れる白いカーテンを見つめながら、彼女の笑みは少し薄れる。
「その話は……長いんだよ、リアちゃん。」
彼女は静かに答えた。
「とても長い。いつかあなた自身が知る日も来るだろうね。」
ショリアは眉をひそめたが、それ以上追及することはしなかった。
「それなら……庭園でも散歩してきたらどうだい?」
ギゼルおばあさんは提案した。
「今日の夕方の空気は気持ちいいよ。少しは頭もすっきりするかもしれない。」
ショリアは同意するように微笑んだ。
「たぶん……それ、いい考えかも。」
彼女は立ち上がり、髪を整え、薄手のジャケットを掴む。そして外へ向かいながら、色を変え始めた地平線へ目を細めた。
***
涼しい夕方の空気が優しく肌に触れ、過去の記憶の欠片を呼び戻していく。
木々が生い茂る庭園の中、花々は夕暮れの静けさの中でそっと頭を垂れているようだった。
ショリアは石畳の小道を歩きながら、自然の香りに微笑む。
「わぁ……空気がすごく気持ちいい。」
彼女は小さく呟いた。
「この庭園に来るの、久しぶり。そして蝶も……昔と同じくらいたくさんいる。」
しかし、その足は突然止まった。
視線の先に、とても見覚えのある姿を見つけたからだ。
庭園のベンチに、アーロンがうなだれて座っていた。
彼の手には小さな写真が握られている。
その距離からでも、ショリアには写真の中の人物がはっきり見えた。
(あれ……私?)
ショリアの目が大きく見開かれる。
(アーロン、まだあの写真を持ってたの……?)
彼女はとてもゆっくり近づき、音もなくアーロンの真後ろへ立った。
アーロンの声はかすれていて、まるで風に向けた囁きのようだった。
「どうしてあんなに早くいなくなったんだ、グロリア……?ほんの数日友達だっただけなのに……もうお前は俺の人生の一部みたいだった。俺は……まだお前にここにいてほしかった。俺のそばに……。」
アーロンは長く息を吐き、はっきりとした痛みを押し殺す。
「もし時間を戻せたなら……きっとあんなことにはならなかった。ごめん。ごめんな、グロリア……。」
ショリアの涙は止めることもできずに零れ落ちた。
その言葉は、何よりも鋭く彼女の心臓を貫いた。
彼女は口を押さえ、嗚咽を抑えようとする。
(あなた……まだ私を想ってくれてたの?ごめんね……ずっと一人にして。私もすごく会いたかった、アーロン。あなたなら……私を忘れられると思ってた。でも……違った。)
ショリアは素早く涙を拭い、深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとした。そしてアーロンの肩を軽く叩く。
「ねぇ?何見てるの?そんな真剣に。」
アーロンは大きく肩を震わせ、慌てて写真を隠しながら振り返った。
「あぁ……お前か。誰かと思った。これは……大したものじゃない。」
ショリアは作り笑いを浮かべながら彼を見つめる。
「本当に?信じられない。そんな風に写真を見つめてるなんて……その人、あなたにとってすごく大切なんだね。」
アーロンは黙り込み、それから悲しげな顔で小さく頷いた。
「あぁ……まあ、そんなところだ。」




