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3-3 報告演説 Side-ナナシ

 日も落ち、屋外照明に光を灯し始める頃に俺達はフェイリックス市街の中央広場に降りたった。

 そこで待ち構えていた聖教の信徒の一人に誘導され案内された先には既にムスター大司教とエルミラの姿があった。その前方、いや、この一帯を群衆が取り囲み集まっている。

 恐らくはこの事態の顛末を説明演説する為の場だろう。用意周到、というよりはここまでが一連の流れとして決まっていたのかもしれない。

 「フェイリックスの皆様、先ずは緊急の出立で不安を抱かせてしまったことをお詫び申し上げます」

 ムスターの声が拡散して大きく広くまで届く。手には細い筒のような形状をした十センチ程の魔装具が握られていた。声量を増幅する装置といったところか。そんな物まであるんだな。

 騒めいていた民衆の耳にムスターの声が入り次第に静けさを取り戻す。一頻り辺りを見渡し頷くと咳払いをひとつしてムスターは言葉を続けた。

 「この度、ここフェイリックスの近郊に位置するパルウァエの森林で瘴気の発生を確認いたしました」

 そしてまた一同に響めきが広がる。

 瘴気による災害は発生してしまうと逃げる以外に回避する術はない。鎮静化するのが難しく時間も要する為、家で寝て待っているだけでは何れそのまま眠りが目覚める事なく現世と離別することになってしまう。それが自分たちの生活圏の目と鼻の先で起きたとなれば憂慮を抱くのは必定だ。

 「だがご安心ください!」

 大きく張ったムスターの一声で民衆の動揺を断ち切り、収まっていく。

 「今回の件は発見も早期であったこともあり被害の報告もなく、既に巫女様のお力で浄化に成功しております。避難勧告も発布せず、これまで通りに生活を続けて問題ないと判断しております。この場を設けて皆様にお聞きいただいているのはそのご報告の為でございます」

 ムスターの弁舌に不穏な空気から一転、周囲からは歓声が上がる。老若男女がムスターとエルミラを讃えるコールと拍手の喝采がそこかしこから聞こえる。

 平和と安寧に勝る幸福はない。自身や大切な者が脅かされることなく営みを継続できるのであればそれに越したことはない。ムスターは報告とは言ってはいたが、これはこの国の統治者としての演説であり、聖教の信用と人気を更に獲得する意図が強いと感じる。抜け目がない男である。

 ……で、ひとつ疑問なのだが。

 俺はどうしてこの場に並んでいるのだろうか。

 拡声の魔装具を持つ逆の手を振りながら笑顔で対応するムスター。その左隣にベールで顔を隠しながら静かに立つエルミラ。更にその隣に俺。絶対に必要ないし、民衆も「誰あいつ」と思っているに違いない。俺ならそう思う。

 「貴方、まるで他人事ね」

 不動のままエルミラが見透かしたように言う。この状況に戸惑っていた事が表面に出ていたのかもしれない。

 「だってそうだろう。聖教の演説に部外者の俺が肩を並べる理由がない」

 「あら、それなら大丈夫よ。これから部外者ではなくなるわ」

 何か不穏当な気配がする。そんな予感の矢先、ムスターが降っていた手をぴたりと制止させ、それを見て周囲も歓声を徐に止める。

 「皆様のご厚情賜りました。して、此度の瘴気被害を最小限で収める事が出来たのは、巫女様の隣におられます冒険者のナナシ殿のお力添えによるものでございます」

 ……はい?

 突発的。前振りなしで観衆の視線が俺に向けられる。ムスターはお構いなしに講演を続けた。

 「ナナシ殿は偶然に件の森林に立ち寄り、そこで瘴気の発生する根源を発見し対処に成功。新たな流入を封じたことにより巫女様の浄化も恙なく執り行えました。どうか、この立役者様にも称賛をお与えください!」

 一際大きな歓声と万雷の拍手。まるで祭りのような喧騒。

 そして、追撃とばかりにエルミラが俺の腕に抱き着いてきた。

 「おお!」とか「きゃー!」とか「てめえ!」とか様々な感情が入り混じった音声が飛び交う。

 「ほらね。これで貴方はこちら側」

 口元だけしかエルミラの表情を窺うことが出来ないが、きっとこの状況を楽しんでいるに違いない。

 「えー、ご静粛に。ご静粛に!では、私からの話を終わらせていただきます。お付き合い頂き有難うございました」

 収拾がつかなくなった現場を早々に締め、ムスターに俺とエルミラは強引に大聖堂に続く関係者通用口へと背中を押されながら中央広場を後にした。

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