『公害』とはなんなのじゃ?
作中で地名や物の名前が色々出てきますが、全て実話を参考に作ったフィクションです。
作中で出てくるアリスの公害についての解説シーンは、総務省のサイトとウィキペディアを参考にしました。色々読んでみたんですが言葉にまとめることが難しかったので、説明が間違ってるかもしれません。その時は指摘をお願いします。
以下、参照サイトページ
https://www.soumu.go.jp/kouchoi/knowledge/how/e-dispute.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%AE%B3
スペシャルサンクス
鬼柳ハカ 様
かりんとう 様
-196 様
れべ(@rebetyan0101) 様
窓から差し込むサラサラとした日差しで目が覚める。
「…全然眠れんかった…」
昨日の反動か、眠りにつくのは早かったが起きても疲れは取れず、瞼も重い。最悪な目覚めだ…と不機嫌に髪に手櫛をかけていると、視界にアリスが映りこんだ
「…おはようございます…」
「んぉ?なんじゃ思ったより早い起床じゃな」
「…はい…」
喉は乾いてカラカラ、機嫌も悪い為か発した声は自分でもちょっと引くほど最悪で、不良みたいだった。それが可笑しかったのかアリスはプハッと笑ってこちらに服を投げる。
「はよう起きるのじゃ。そんで顔を洗ってこい」
「…はい…」
適当に返事を返して重たい腰を上げる。
一回寝れば気も落ち着くだろうなんて思っていたがそんなことはなく、いつまでも昨日のことが気にかかって仕方なかった。
まず、公害とはなんだろうか。公害…と言われてもピンとこない。
(なんか…聞いたことある気がするのに思い出せん…)
これも消えた記憶の弊害なのだろうか……まずは、公害と言う言葉に着目してみよう。
公害、確か意味合いは「皆の利益を害する」みたいな意味合いだったような気がする。聞き馴染のないし、使う機会も中々無さそうな言葉である。栄誉桜が水色になった原因が、神痛病の原因が公害であるとするなら、何か利益を害した結果がこれと言うわけか?
改めてそう考えると理解するのは難しいが、恐らくは…何者かの手によって、栄誉桜も、神痛病も産まれたというわけだ。
(…何かの手によって病が産まれることなんて…あるんか…?)
洗面所でバシャりと水を浴びて、ぼぉっと公害の事を考えてみる。まだ若干寝ぼけた頭で考えても複雑な気持ちしか浮かばず、体もあまり動かない。
「おーい、ご飯の時間じゃぞー?まだ終わらんのか?」
洗面所の入り口の方からアリスが呼んでいる。早くいかないとな…と思い「はーい…」と生意気な返事を返して声のする方へ向かうと、ご飯のいい匂いがしてきた。
「おはよう源太さん。よう眠れたかい?」
「えぇ…いつもありがとうございます」
「えぇんですよぉ、こっちも久々のお客さんで嬉しいですわ」
この民宿の女将さんは良い人だ。昨日は起きる時間が遅く、食事の時には会えなかったが今日は会うことが出来た。
食卓に出される料理は令和で食べていたものよりこう…ホッとするような、令和で言えばおばあちゃんの味、というやつだろう、そんな感じがしてとてもおいしい。美味しい料理と言う物は何処に行っても人を癒してくれるもので、何処かで聞いた話によれば、料理が美味いほうが軍の士気が上がるとかなんとからしい。
(…んや…なんで急に軍の話なんて思い出すんや…公害のことは思い出せんのに…)
何故どうでもいいことは思い出せて、大切なことは思い出せないのか…全く不便なものである。
「…ごちそうさまでした」
「…お口に会いませんでした?」
折角出してもらった美味しい料理だったが、なんとなく今日はあまり食べれず、少しだけ残してしまった。礼儀が悪いがどうしても思考がぐるぐると回り、食べられるような心境では無かったのだ。
「いや、全然…お腹すいてなかったんです」
申し訳なさに「お昼に残りをいただきます」とだけ伝えると、女将は心配そうにしながらも「わかりました」と了承してくれた。
自分が元々いた時代では、食料はとても大事なもので、残すなんてことはあり得なかった。どんな食材でも貴重で、ありがたいものだったのに…自分も気が緩んでいるなと落ち込んでいると、アリスが心配そうにこちらを覗いてきた。
何か言いたげなアリスの為にそっと席を立って女将に頭を下げる
「…ホントにごめんなさい」
「良いんです良いんです。今日も…村でなんかするんでしょう?頑張ってくださいね」
「…ありがとうございます」
そのまま廊下へ向かうと、タイミングを見計らってアリスは話始めた。
「どうもまだお疲れのようじゃな。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。…確かに疲れとりますけど…けど、昨日の事秋野先生に伝えに行かんとなんで」
「そうかそうか…」
寝泊りさせてもらっている部屋に戻ってくると、いつの間にか出発準備がされていた。アリスがやったのだろう、こういうところは感謝しないとな…と思う。
「…ありがとうございます」
「お安い御用じゃ。…ところで昨日言っていた『公害』じゃが…」
「……」
アリスは何処からともなく辞書のようなものを取り出し、パラパラとページをめくる。
「公害とは、事業など人の手で周辺の環境が汚染され、自然や人々に被害が出ることなのじゃ。未来では、人の手による災害として認識されておる」
「…災害…地震や火山噴火と同じってことですか」
「厳密にいえば、防げることであるから違う気もするがのぉ…」
ほれ、とアリスは読んでいた辞書のようなものを見せてくる。どうやらこれは令和の辞書のようで、別に神様が持っている凄いアイテム…と言うわけでもなさそうだった。辞書の「公害」の項目にはスラスラと文字が並んでいて、読めば何となく、公害というものが分かる気がした。
「…大気…水質…土壌…騒音…振動…地盤…悪臭…」
「村長の言葉が正しいのであれば、これのいずれかが四日村にはあるのかもしれないのぉ…」
大気…そういえば銀牙山のてっぺんにある工場からは煙がモクモクしていた。水質と言えば、やはり天ノ川か?土壌…ここ四日村は田畑の多い農村だ、もしかしたら関係があるのかもしれない。考えれば考えるほど怪しい部分は見つかってきた。
「…よし、秋野先生んとこ早くいきましょう」
「あぁ、そうじゃの!」
どうやって秋野先生の説明しようか…と考えながらも足早に道を行く。今日はいつもより早い為、道には学校へ向かう重い足取りの学生たちがいた。
「…おや?あれは桃太ではないか?」
「え?…あぁ…ホントだ」
トボトボと歩く学生たちの中に桃太と桃実の姿があった。声をかけようかと息を飲み込んだ瞬間に、何処か違和感があることに気が付いた。
(…桃実?)
歩いている桃実の様子がおかしいことが、なんとなく足取りから察しられた。足は変に伸びて、指先は変にぐねうねと動いている。何度も何度も薄っぺらい学生カバンを落としては桃太が拾い上げていて、何かがおかしいことは見れば見るほどわかってきた。
「どうしたんじゃろ…」
「…まさか…あれはっ」
源太はその動きに見覚えがあった。昨日、散々見た動き方だった。
「…痛いっ」
ばたりと勢いよく桃実は地面へ倒れた。周囲の子供たちは目を見開いて、段々と顔が青くなってゆく。
「っ痛い!!痛い痛い!!!…あぁ…いやぁぁっ…!」
「姉ちゃん…姉ちゃん!!?」
「桃実…!」
子供たちがパニックになって騒ぎ始める中、源太やアリス達も走り始める。桃実は体を折り曲げてバタバタと暴れ、その度に何かに訴えるように痛い痛いと叫んだ。痛みから逃れようと必死になって何処かへ行こうとするが、足や腕は思うようには動かず、逆に地面へ強く叩きつけられて痛みが増すだけだった。
「っ大人呼ぼう!お医者さん呼ぼう!」
「ママ!パパ!助けて!お姉さんがぁ!」
「…っ桃太、すぐ誰が呼ぶんじゃ、誰でもいいから!」
とにかく今は助けを求めるしかない。ゆういつ子供たちの中で名前が分かる桃太へ必死にそう訴えた。すると桃太は狼狽えながらも必死にその言葉を飲み込んで、顔を青くしたまま走り出す。
「誰かぁ!!誰か助けて!!」
子供たちの訴えに気づいたのか大人たちはぞろぞろと集まってきて、次第に医者を呼んだり、介助に来てくれた。その中には桃実の親や親戚たちもいたのか、すぐ桃実の様子を見て泣き叫んでいた。
「大丈夫じゃ、落ち着いて…落ち着いて…」
落ち着けなんて言っても意味はない。動きたくて動いているわけじゃないのだ、どう声をかけていいかも段々分からず、こちらも焦る気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫ですか!!」
「っ姉ちゃん!看護師さん!看護師さんいたよ!」
ばたばたと砂埃を立てながら走ってきたのは、秋野医の診療所の看護師さんと、その人を呼んできてくれたであろう桃太だった。
「…神痛病…すぐに診療所に運びます」
「あぁ、診療所ですね、手伝います」
看護師がそういうと周囲の屈強な大人たちは桃実を抱え、すぐに診療所のほうへかけて行った。本当に嵐のような瞬間だったろう、桃実が居なくなると急に周囲はシンと静まり返り、苦い空気が流れていた。
「……まさか…桃実が神痛病になるとは…」
「…思いもしんかったです」
ふぅと息をついてから最初に感じたのは、恐怖だった。
これまで見てきた神痛病患者は、名前も知らない人ばかりで、痛々しく、確かに助けたいという気があっても、何処か他人事のように思えていた。
だが今、桃実という、見たことも名前もわかる人間が、目の前で神痛病に侵されたのだ。一気に現実の中に引き落とされたような、恐怖がすぐ隣に張り付いているような感覚に陥り、呼吸するのも精一杯な気がしてしまう。
びっしょりと服に汗が滲む。ドクドクと心臓は打ち、収まらない。
(…落ち着け…落ち着け…)
落ち着こうと思考をめぐらせればめぐらすほど流れてくるのは、桃太と桃実の微笑ましいやりとりのワンシーンだ。あんな、悪いことも何もしていないのに、何故、桃実は神痛病なんかになってしまったのだろう。
(…桃実は……助かるのか…?)
神痛病は、治し方が解明されていない。もしかして、桃実はもう、一生あのままなのか?元に、戻らないのか?
「…桃実…」
助けては、やれないのか?
「………う…うわぁぁぁぁぁぁん‼」
「…桃太……」
ハッとして顔を上げると、桃太が服をぎゅっと掴んで、ボロボロと涙を流していた。顔が涙でぐしゃぐしゃで、鼻水も垂れて、見ているこっちまで泣き出しそうになってしまう。ぐっと唇を噛んで、今は見届けるしか…出来なかった。
「…子供たち、学校行や、こっちで学校に連絡したるから」
数分経ってから見かねた大人が子供たちにそういうと、まだ顔がぐしゃぐしゃなままだったが桃太や他の子供たちが学校へと向かっていった。
「…源太」
「…神様ってもんは、理不尽です」
すくっと立ち上がってアリスから背を向ける。だがすぐにそれを後悔した。自分と共に行動しているアリスは、神なのだ。なんとなく一緒にいるとそんなことは忘れてしまうようで、うっかりそんな失言をしてしまった。あぁ、アリスが悲しむ…
「…すみません」
「…いいのじゃ…私だって、神であるのに何もせず…」
ざわざわと風が二人の間を抜けてゆく。二人はまるでそこに壁があるかのように、絶妙な距離を取っていた。
「…神にじゃって、人の運命変える力などない」
「…そうなんですか」
「そうじゃよ。…まぁ、運命など、人々が生きてゆく中で何度も変わるもんじゃと思うがのぉ」
「…怒っとりますか…?」
ゆっくり、ゆっくりと後ろを振り返る。酷い顔をしてるんじゃないかとひやひやしたが、想像とは違い、アリスはおかしそうに笑っていた。
「なぁに、私も神じゃ、そんな程度で怒りはせん」
「…ありがとございます」
アリスの調子に安心し、少し落ち着いたところでアリスは僕の手を引いた。その手は神様っぽくなくて、普通の女の子みたいだった。
「…ホントに神様なんですか」
「神じゃぞ!正真正銘な!」
「…そうですか」
気持ちも落ち着いてふふっと笑えるようになると、アリスも安心したようににかッと笑う。そのままふわふわと地面から浮いて、あの診療所がある方まで飛んで行く。
「ほれ、秋野先生に公害のこと早う伝えに行くぞ!時間は有限じゃからな!」
「…はい、急ぎましょう」
四日村…源太達がポータルを使い訪れた田舎の農村。山に囲まれ、草木が生い茂っているが、大きな川が流れ水源は豊かである。
八日街…四日村の隣町。記憶フィルムの映像から察するに、四日村と比べ都会である。隣町といっても四日村からはそこそこ距離があるらしい。
栄誉桜…四日村の開けた地に聳え立っている、水色の巨大な桜の木。四日村の名物で、この世に1本しかない。
銀牙山…四日村の中でも特に高い山で、てっぺんには見方によって煙突の本数が変わる不思議な工場が経っている。桃太曰く、誰かの所有地らしい。
天ノ川…銀牙山のてっぺんから四日村の最端に至るまでの距離を流れている川。四日村にとって大切な水源であり、住民たちにとっても親しみ深い川でもある。
神痛病…原因不明詳細不明のナゾの病。患者は皆、強い痛みを訴えている。秋野医曰く、神痛病は神経に異常が起きる四日村でのみ発病が発見されている病らしい。症状は手足が勝手に動いたり、神経痛がしたり、ひどい麻痺など。治療法は存在せず、悪化すると脳が停止し死亡する。
桃太…記憶フィルムに移っていたいじめ被害者の少年。元気が良く明るい性格で、最初こそ疑っていたが源太にも優しい。地元である四日村のことが大好き。
桃実…桃太の姉。中学生で正義感が強い。外から来た人間に対してかなり警戒している。神痛病を患ってしまった。
秋野実…神痛病治療を目指している医師。四日村内の診療所で先生をやっているほか、八日街で神痛病の研究も行っている。年齢は若いものの、見た目のせいで老けて見られる。誠実な人間であり、いつも優しい顔をしている。




