この日の為に
「――であり、その定義は――」
キィーンコォーンカァーンコォーン
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
「では、今日の授業はこれまで。 明日はみんな知っての通り、適性検査の日だから、遅れずに明日来るように」
先生はそう言い、教室から出て行った。
「写狩写狩起きてってばっ! 授業が終わったんだから早く行こうよ~!」
「んあっ⁈ おいこら、そんな強く揺らすな真帆呂」
「一限からずっと寝っぱなしの写狩にはこれぐらいしないと全ッ然起きないんだから仕方がないじゃない」
「いつも起こしてくれてありがとうございます」
「いいえ~。 どういたしまして」
俺は万矢 写狩。
中学3年生である。
こちらにいる銀髪の女の子は、俺の幼馴染で銀時 真帆呂である。
「さて、よく寝たし、帰りにエッグで何か食べて帰るんべ」
「いいねぇ~。 今日は写狩の奢りだよね?」
「なんで?」
「誰がいつも起こしてあげてると思ってるのかな?」
「いつもお世話になっております」
「いいえ~。 それじゃ早くいこいこ」
元気な真帆呂に腕を引っ張らでながら移動する。
エッグに着くと、俺達と同世代の子たちが楽しく会話をしながら、ジャンクフードを食べていた。
「さ~て! 今日は何を頼もうかなぁ? 写狩は何がいい?」
「俺は真帆呂と同じのでいいよ。 先に席を取っとくわ」
「了解! それじゃねぇ……」
真帆呂はメニューを見ている。
俺は周囲を見渡し、空いている席へと移動する。
「ここでいいか」
空いている席に座り、外を見る。
「夕日が綺麗だ」
俺は沈み行く太陽を見つめ、ボーっとする。
『昨夜、突如ゲートが出現し、モンスターが溢れ出てきましたが、S級ハンターが駆けつけ、迅速な対応のおかげもあり、住民に被害は無く――』
「うわー、かっけぇよな~秋然爾 赤空」
「ほんっとだよな~。 あれでまだ15歳って言うんだから大したもんだよ」
「早くに才能が覚醒して、特例として12歳でS級ハンターになったんだよな! しかも最初から伍支氣ときたもんだ!」
「早くに覚醒したとしても、力がなきゃな。 けど、秋然爾は早くに覚醒して、さらには力もあったんだから、すごいとしか言いようがないわ!
「覚醒するのは決まって15歳ぐらい。 俺も中学3年の時に適性検査で見てもらったけど、大した力は無かったわ」
「ま、力が無かったとしても、それで食いっぱぐれる事もないしな」
「そうそう! 戦いに才がある者は戦い、無い者は、才ある者達を支える仕事をこなせばいいんだ」
「そうだよな……今の時代、才能があってもなくても、ちゃんと仕事があるし、野球でもサッカーでも、その他のスポーツでも、才があるとプロにはなれないルールがある。 ちゃんと区別化してくれているから、才能が無くとも夢は持てる」
「逆に力が無い方が良くないか?」
「それは言えてるかも! わざわざ命を脅かすような事もないしな」
「力がある方々にはぜひ頑張ってもらいましょー!」
「だなだな! あはは!」
聞こえてくる声に対し、とくに何か思う事もない。
テレビに視線を向けると、汗だけではなく、血を流している俺と歳が変わらない男を見て、こいつはこれが本当にやりたかった事なのか?
っと、考えてしまった俺がいた。
「おっ待たせ~! はい、これ写狩のね」
「お、サンキュー。 お金は足りたか?」
「うん。 ちゃんとピッタリ! さすがだよね~」
「そうでもないさ」
「はいはい。 そうでしたね。 ササ、温かい内に食べちゃお食べちゃお」
真帆呂は美味しそうにハンバーガーとポテトを口に入れる。
「ほら。 これ飲みな」
「んー、んーっ! ぷはぁー……危なかったぁ」
「一気に頬張るからいけないんだよ」
「だってお腹が空いてたんだもん……けど、写狩はいつもあたしが危ない所を助けてくれるから、すっごい助かる! しっかも、何も言わなくても!!」
「はいはい。 お腹が空いてるのであれば、俺のポテトもあげるよ」
「えっ⁈ いいの⁈」
「いいよ」
「わーい!」
俺は無邪気に頬張る真帆呂を見て笑みを浮かべる。
あと少しで、この生活が送れなくなってしまうのかと思うと、少し憂鬱になる。
♦♦♦
「それじゃ、また明日ね写狩」
「あぁ、また明日な」
「しゃ、写狩」
「あん?」
急に不安そうな声で俺を呼び留める真帆呂。
「明日、どんな結果が出ても、私達変わらないよね?」
目に涙を浮かべ、真帆呂が俺を見つめる。
何がとは言い辛い……俺は数秒黙り、夜空を見る。
「変わらんだろ? 俺達の関係は」
「だよね? だよねっ! へへ、また明日ね写狩」
「あぁ、また明日」
俺の返答に対し、元気が湧いたのか、意気揚々と家に入っていった真帆呂。
だが、俺は、真帆呂とは違い、感情を押し殺し、自身の家に入っていった。
「ただいま……父さん、母さん」
写真に写っている両親に一声かける。
俺の両親は、ある日を境にいなくなった。
捜索願いをじいちゃんとばあちゃんが出してくれたが見つからなかった。
結局、見つかる事なく10年の月日が経過した。
「父さん、母さん……明日が……待ちに待った適性検査の日だ」
我慢してきた日々がやっと明日で終わる。
様々な感情が溢れ出すのを止めらない。
視線を鏡に映すと、俺の眼は淡い緑色に光っていた。
「ふぅぅぅぅぅ……落ち着け……やっとここまできたんだ……ここで感情に任せたら全てがおじゃんだ……」
俺は着替え、壁の前に立つ。
壁に手を添える。
「悪戯部屋」
俺がそう呟くと、壁が開き、通路が現れる。
そして、徐々に明かりが点灯し、さまざまなトレーニング器具が現れる。
しかもただのトレーニング器具ではない。
戦闘・魔法に特化したトレーニング器具である。
え?
なんでそんな物が普通の家に置いてあるのかだって?
俺にも分からん。
なぜ俺の家にこの様な場所があるのか……分からん。
ならなぜ、この場所を見つけられたのかだって?
俺が既に覚醒しているからに決まっているじゃん。
そう……俺は既に覚醒していたのだ。
いつからだって?
両親がいなくなって数日後に覚醒したんだよ。
覚醒した事により、この部屋を見つける事ができたのだ。
「さて、今日の日課をこなすとしよう」
俺は黙々とトレーニングをこなしていく。
そして、おおよそ3時間みっちりとトレーニングをこなし、椅子に座る。
「さて、今日はどんな感じかね~?」
トレーニングルームに設置してあるテレビを点け、今日一日の情勢を把握する。
そして――
「『展開していく世界』・『利益を見通す看破眼』」
俺は画面に映っている轟天証券に目をやる。
「ふむ……これは買いかもしれないな……」
そして、その会社の株を買い占める。
何で向う見ずに買い占めたんだって?
誰が向う見ずに買うかよ。
さっきも言ったけど、俺は既に覚醒している。
その際、俺にはある力が備わった。
俺には展開していく先の未来が見える。
いや、正確には今から伸びる株の動きが分かるのだ。
この力を理解するのにそう時間はかからなかった。
そして、この力のおかげでこの場所を見つけられたのだ。
『展開していく世界』は、当時、覚醒した俺にはとても途轍もない情報量が一斉に押し寄せ、そのおかげで相当な負荷が脳を圧迫し、危うく俺は死にかけた。
そこで、俺はこの力を5つの分野に分け、この力を使いこなす事に成功した。
その1つが、先程見せた力、自分に利益をもたらす『利益を見通す看破視』である。
この力を使えばどの株を買えば自分に利益が入るのかが分かるからだ。
この力により、俺は何もしなくとも金が手に入れる事ができ、今こうして働かずとも生活している。
それと、隠された物や、テストの問題等も見える。
これも己自身の利益になるからだ。
そのおかげで、勉強に費やす時間をトレーニングに費やせる。
「やる事はやった……後は明日を待つのみ」
現状、高校に通いながらもハンターとしての活動ができるが、15歳の適性検査を行わなければ、ゲートに入る事ができない。
その日が明日行われる適性検査により、自身のランクが判明する。
S~Fまでランクがあり、E・Fのランクが判明した場合、ゲート内での戦闘は不向きと烙印を押されてしまうが、ゲート内には入れるには入れる。
だが、暗黙の了解により、周囲からはハンターとして認めてはもらえない。
そのため、単独での戦いが多いと共に、荷物持ちが関の山である。
さらには誓約書まで書かされる。
ゲート内で死亡が確認された場合、責任は負えないと。
これはある意味温情でもある。
そこまでされたら普通の者はゲートにはいかないからだ。
まぁ、自殺志願者を減らすための口実だ。
そこで、俺が狙うのはC~Dを狙う。
なぜ、大きなランクを目指さず、その辺りを狙うのかだって?
ランクが大きいからと言って、良い事ばかりではないからだ。
大きなランクには大きな責任と重圧、政治的な力、様々なしがらみが纏わりつく。
「そんなの俺には必要ない」
エッグにて、テレビで流れていた秋然爾 赤空。
あいつの様にはなりたくない。
あいつは日本のために戦っている……だが、聞こえはいいが、それは即ち、何でも解決してくれる体のいい『なんでも屋』みたいなもんだ。
「日本を救ってくれる奴は別に俺じゃなくてもいい」
俺は、別にヒーローになりたいわけではない。
やりたい奴がやればいい。
俺は、俺が守りたいと思える人達だけを救えればいい。
俺は両親が写る写真に目を向ける。
俺の目的は――
「父さんと母さんを絶対に見つける」
目を留めていただき、ありがとうございました。
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「順応のAdaptor」・「Fly Daddy Again」という作品も掲載しております。
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