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第四十八話 アーシャ、城に戻る

「では、その美の女神の泉の水と引き換えに、呪いを解いてくださるのですね! そしてそれまでの間は、呪いを抑えてくれるとは、何と寛大な魔女殿なのでしょう!」


お城に戻ってからは早かった。

ディアノン様の部屋に戻ると、スーズさんが待ち構えていて、事の経緯を聞きたがったため、おいらとディアノン様は、だいたいの事を説明した。

無論、魔女様の行った事が事実かどうかの確認のために、解呪師の人も急ぎで呼ばれたわけだが、彼等はディアノン様を見て、心底ほっとした声で、言った。


「確かに、海辺の魔女の呪いが、魔女の力で抑えられております。海辺の魔女はきちんとした魔女ですね。会った事はありませんが。古今東西、自分の呪いを自分で抑えてくれる魔女というのは、善良であるとされていますし」


「では、本当にもう、女性とぶつかっても、呪いが発動しないんだな?」


ディアノン様が念を押す。いくら海辺の魔女様が約束を重んじる人であっても、呪いがどんな形で作用するかは、とても難しい問題なのだ。

時々、魔女自身が予測しない抜け穴が発生する、というのも、おいらは西の王国で聞かされたことがある。

魔女が予測しなかった非常識な行動の結果、魔女でさえ手が出せない厄介な呪いに格が上がった呪いの話とかも、ないわけではないのだ。

その点で言うと、ディアノン様にかけられた、間接的異形形態化の呪いは、海辺の魔女様自身の力で、きっかり抑え込まれているらしい。

それを聞いて安心したんだろう。女性が嫌いというか、見ているだけで不愉快になってしまう人でも、誰彼構わず無差別に、怪物にしたいほど性格が悪いわけじゃないのだ。

ディアノン様は大きく息を吐きだしてから、大食いの腕輪の入っていた箱から鍵を取り出し、がちゃがちゃと鍵を外して、腕からそっと腕輪を外した。

それをスーズさんが素早く、箱の中に入れて、幾重にも厳重に鎖をかけて鍵をかけて封印する

あれ変だな。スーズさんは魔力の影響を受けやすい体質なのに、封印の力は影響しないのだろうか……それとも、封印の力は魔力とは別のものなんだろうか。

そう言えば、これを持ってきたのはスーズさんだったっぺな……何事も例外ってものがあるっぺか。

そんな事をちょっと思ったおいらだが、ディアノン様は、やっと外れた命まで吸い取ってしまう腕輪を外した事で、気が抜けたのか、長椅子に体を持たれかけさせた。


「お疲れの様子ですね。何か用意いたしますか」


「心がほぐれる物がいい」


「確かに、その方がよろしいでしょう」


これに賛成したのは、解呪師の人たちだった。

彼等は皆で頷いて、こう言ったのだ。


「大食いの腕輪で呪いを抑えていたと聞いております。大食いの腕輪を始めて見させていただきましたが、これはどうやら、普段の五倍の食事をとらなければ、いつもの体力を維持できず、どんどん力を奪われていく腕輪でもあるようです」


「すごい力の腕輪だからこそ、代償が大きいのでしょうね……」


「一遍本腰を入れて調べさせていただきたいですが、何しろ秘宝ですから、解呪師程度には、預けてもらえないものです。こうして拝見させていただくだけでも、よい経験になりますね」


「俺は勉強道具ではないぞ」


ちょっと笑うディアノン様も、呪いが抑えられている事からか、表情が穏やかだ。

かかっていた呪いが呪いだから、洒落にならないしな。


「では、我々はこれで失礼いたします」


呪いは間違いなく抑えられているから、解呪師酸たちの出番はない。もともと魔女の呪いは解けないと言っていた人たちだから、こうして解読してもらえるだけありがたい物だったのかもしれない。

彼等は礼儀正しく去っていき、それを確認してから、ディアノン様がスーズさんに問いかけた。


「母上は何を持ってして、俺が魔女殺しに行くと言ったのだ」


「王妃様からしてみると、呪いを解きに行く、という事が、魔女を殺して呪いを解く、という事につながって、他に考え付かなかったからでしょうね。この部屋にいらした時もそのようなことをおっしゃっていました」


「簡単に魔女が殺せるわけがないだろう。母上は本当に、そう言った物に関しては世間知らずだな」


「王妃様の立場だと、あまり魔女との交流もありませんし、王妃様は魔女がお嫌いのようですし、何とも言い難いですよ」


「だいたい、何度も非礼を詫びに行くと言っていたのだぞ、俺は……」


それはそうだ。ディアノン様は何度も、魔女様にお詫びをしに行く、謝りに行くと言っていたのだ。

それなのに、呪いを解くために行動する、という事が、魔女殺しにつながるなんて、変な王妃様だっぺなあ。


「王妃様は、ご自分が正義だと思っていらっしゃいますから、勧善懲悪がお好みなのでしょう」


「スーズ、お前も口が悪いな」


「仕方ありません、ディアノン様がおっしゃらないからですよ」


王妃様は自分が正義で、自分が正しいと思っているのなら、確かに、正しい自分に悪い事をする魔女は、完全な悪役で、呪っているから悪い奴で、殺して万事解決、が一番手っ取り早く思えたのだろう。

おいらからすれば、まず謝れ、と思うわけだし、それはここにいる三人にとって共通の意見でもありそうだった。


「そうです、陛下が休憩したら自分のもとに来るように、と先ほど伝言の者を遣わせましたよ」


「父上が? 早く言ってくれそういう事は」


ディアノン様はそういうと、貴族の坊ちゃん風の見た目からすぐに着替える。


「アーシャも今回の事では証言をしなければならないだろう、お前も支度しろ」


「はい」


おいらも着いていくように、と言われているため、おいらはタバードを身に着けて、勲章を首から下げて、海風でもしゃもしゃになった髪の毛をとかした。

海風が結構強かったから、おいらの髪の毛は、結構自由奔放にうねってしまったのだ。

それを何とか見られる物に整えると、ディアノン様も、普段と同じ王子様の衣装に身を包んで、支度は整った。


「スーズ、先触れを出してくれ」


「はい」



言われたスーズさんが、速やかに先触れとして部屋を出て行く。

そしておいらたちは、王様のいるであろう、謁見の間まで、行く事になった。

謁見の間は、大広間とはまた、趣の違う、厳めしい装飾の多い部屋だ。

おいらはディアノン様の後に続き、目立たない事を意識しつつ、彼の後ろに控える。

こうしてみると本当に、ディアノン様は王子様って感じだ。立ち振る舞いとか仕草とか、ちょっとした身じろぎの感じとかが、高貴である。

すげえなあ、ああいう風に動くようになるのに、どれだけ時間がかかるんだろう。

そんな事を思いつつ、王様を見ていると、王様は、ディアノン様によく似た顔で問いかけてきた。

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