鉱山跡地
鬱蒼と茂る木々の合間を駆け抜ける。
倒木を乗り越え、傾斜を飛び降り、川原の砂利を跳ね上げて、俺は走った。
大体の方角、距離は、三百年前から伝承された自分自身からの手紙で把握している。
一刻も早く優里を助け出さねば……。
毎日のロードワークを欠かさず続けてきたことが、役に立っている。
平坦な舗装された道路だけではなく、今走っているような山道や砂浜、川原の砂利道、時には転ぶだけで大けがをしそうな磯の岩場すら、全力で走らされた。
現代の平和な日本で、こんな過酷なロードワークが何の役に立つのかと、父と激論を交わしたこともあった。
しかし、今なら分かる。
まさに、今のような状況のために、俺は日々、鍛えていたのだ。
優里のような美少女が、誘拐されて、なにもされないわけがない。
今頃、酷い目にあっているに違いない。
ズクン、と胸の奥が痛む。
なぜ、彼女にプレゼントしようと思っていたルージュを忘れて来てしまったのか。
いや、それよりもなぜ、わざわざ彼女を一人残し、現代へ取りに戻ってしまったのか。
今考えても仕方無いそんなことを、ずっと俺は後悔していた。
三十分ほど走っただろうか。
そこは、ゲートから数キロ離れた山中、鉱山の跡地だった。
昔は金と水晶が採れたらしいが、今は閉山し、藩によって立ち入り禁止区域に指定されている。
とはいっても、見張りがいるわけではないし、また、こんなところを訪れる利点もないので、誰も立ち寄らないだろう。
しかし、それが盗賊達の隠れ家として最適な空間を作り出していたのだ。
入り口付近を見ると、まだ新しい足跡がいくつか残っている。
間違いなく、この奥に武装した盗賊達と、連れ去られた優里がいる。
一見すると、入り口は強固に封鎖されているように見えるが、不自然に草を覆い被せてある箇所がある。
それをどけると、人一人が四つん這いになって入れるだけの隙間が存在した。
罠かもしれない、すぐ先に見張りが立っているかもしれない。
それでも、ここで躊躇するわけには行かない。
俺は意を決して、盗賊達の本拠地へと単身乗り込んでいったのだった――。




