第五十四部 昭和の少女漫画とお化け屋敷
昭和の小学生時代、少女漫画に夢中だった日々。個性豊かな同級生たちと過ごした忘れられない思い出と、文化祭のお化け屋敷で巻き起こした小さな事件を振り返ります。
第一章 講堂の舞台裏と昭和の個性派たち
漫画との出会いは、講堂の舞台裏だった。
昔の「講堂」とは、今でいう体育館のような場所だ。
小学生の頃、講堂の掃除当番だった私は、その薄暗い舞台裏で「りぼん」と書かれた一冊の雑誌を見つけた。
「何だろう?」
そう思って、何気なくページをめくってみた。それが、私と少女漫画の運命的な出会いだった。
すっかりハマってしまった私は、それからというもの、漫画雑誌の発売日が楽しみで仕方がなくなった。
母親が買い物カゴを持って家から出かけようとすると、私は急いでその後を追う。そして、母親が気づかないうちに、そっと買い物カゴの隙間へ忍ばせるのだ。
「りぼん」
「別冊マーガレット」
「別冊少女フレンド」
発売日を迎えるたび、次々とカゴに入れていった。今思えば、母親もよく何も言わずに買ってくれたものだ。
雑誌には毎月豪華な懸賞がついていて、それも大きな楽しみだった。幼馴染と一緒にハガキを買い、毎月せっせと応募する。
「今度こそ当たるかも!」
そう思いながら何枚もハガキを書いたが、なぜか全員プレゼントは届くものの、肝心の懸賞には一度も当選したことがなかった。
あれだけ応募したのに、不思議なものである。
そんな少女漫画に夢中だった私の周りには、漫画の登場人物にも負けないくらい、個性豊かな同級生たちがいた。
クラスにいた「一言も喋らない女の子」はその代表だ。
朝、元気に挨拶をしても返事すらない。授業中の発表はもちろん、どんな場面でも、一度としてその子の声を聞いたことがなかった。
「あの子、家でも全然喋らんとやろか?」
みんなで首を傾げ、ある日、私たちは探偵気取りでその子の下校を尾行することにした。
少し距離を置きながら後をついていくと、女の子はまっすぐ自宅へ帰り、玄関のドアを開けて中に入っていった。
次の瞬間―
「ただいまーーっ!」
家の中から、ものすごく明るく元気な声が聞こえてきた。
私たちは外で顔を見合わせ、大きく目を見開いた。
「喋った!」
学校でのあの沈黙は、一体何だったのか。あの日の驚きは、何十年経った今でも鮮明に覚えている。
また、授業中にはこんなこともあった。
ある日の授業中、先生がいきなり声を荒らげた。
「○○さん! 何をやっているの!」
みんなが一斉にその子を見ると口には、はみ出すほど真っ赤な口紅……ではなく、クレヨンがベッタリと塗られていた。先生の呆れた声と、教室中に広がるクスクスという笑い声。
なぜ授業中にそんなことをしたのか、思い出すだけで今でも吹き出しそうになる。
そして、放課後に転校生の家へ遊びに行った時のこと。
着いたのは、同じ形、同じ色の家がずらーっと並ぶ社宅だった。
「えっ⁈どこ?」
「家がわからん……」
遊びに来たはずが、二人で家を探してウロウロ迷子になる始末。ようやく見つけた時には、二人で腹を抱えて笑い合った。
今思えば大したことではない。けれど、そこには確かに、あの昭和の空気と温かな時間が流れていた。
第二章 文化祭のお化け屋敷で一番怖かったもの
小学生の頃、姉の高校の文化祭に、幼馴染と一緒に遊びに行った。
校内をあちこち見て回っているうちに、教室を丸ごと使ったお化け屋敷を見つけた。
「どうする?」
「入ってみよっか」
怖いもの見たさで足を踏み入れた教室内は、黒い暗幕で囲われ、笹で細い通路が作られていた。
薄暗い通路をドキドキしながら進むと、突然、顔に冷たいものがペタリと当たった。
「キャッ!」
恐る恐る触ってみると、それはぶら下げられたコンニャクだった。
「なんだ、コンニャクか……」とホッとしたのも束の間、あちこちに手作りのお化けが隠れていて、私たちが通るたびに「わーーっ!」と飛び出してくる。
そして、いよいよ出口間近に差し掛かったその時――。
突然、暗闇からお化けに腕をガシッと掴まれた。
「ギャーーーッ‼︎」
恐怖のあまり反射的に足が出てしまった。思いっきり、蹴飛ばしてしまったのだ。
「いてーーーっ‼︎」
お化けがリアルな悲鳴をあげた。
私が恐怖のあまり本気で蹴り飛ばしたのは、お化け役の高校生のお兄さんだった。
「ごめんなさい」
平謝りしながら、私たちはそそくさとお化け屋敷を脱出した。
今思えば、あのお兄さんも、まさか小学生の女の子に本気で迎撃されるとは思っていなかっただろう。
あの時は生きた心地がしなかったけれど、今となっては、私のほうが一番怖い客だったかもしれない。
お化け屋敷という場所は、作り物のお化けよりも、生身の人間のほうがよっぽど恐ろしいものなのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今思えば大したことのない出来事も、あの頃の空気感とともに大切な宝物です。クスッと笑っていただけたら幸いです。




