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美人だけど最恐堅物な風紀委員長が、俺の前でだけエッチなデレデレ極甘女子を演じ始めて今日も感情がない件  作者: ファッション捜査課のスカリー


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第38話 カミングアウト 前編——

学校から帰ってからずっと、俺はスマホとにらめっこしていた。

画面に出しっぱなしなのは、凛とのメッセージ画面。

そこに点滅し続ける入力カーソルと、途中で止まったままの文章。

まるで「ほら、続きは?」って煽ってくるみたいに、黒い棒が瞬いている——


ほのか先輩のおかげで、俺は凛のことが好きだってようやく自分の中で確定した。

確定したはいい。問題はその先だ。

どう伝える?どの距離から声をかける?


今までの関係なら「お疲れ」とか「明日の挨拶運動、何時?」とか、そういう雑な入口があった。けど、俺はあの夜、凛から逃げた。

逃げたくせに今さら「好きです」なんてあまりにも厚かましい。

かといって、何も言わずに時間だけが過ぎるのはもっと最悪だ。


考えれば考えるほど、指が止まる。止まった指のせいで外が白けていく。

俺は今日も朝の挨拶運動をすっぽかし、遅刻ギリギリで校門をくぐって、その間もずっとスマホを握ってた。

教室の椅子に座っても机の下で画面を開いて、カーソルの点滅と悪戦苦闘。


授業中。休み時間。昼休み。何時間も戦って、やっとひねり出した文字が【凛、元気?】


……三文字。正気か俺は。


その文字列に頭を抱えながら午後を迎えた俺は、案の定、睡魔に殴られた。

目を閉じた記憶がないのに、次に見えたのは教室の天井。ついで降り注ぐクラスの笑い声。

最悪だ。今日は厄日らしい。


そして、気づけば帰りのホームルームが終わっているという始末。

もう俺が終わっている。


このままじゃ一生進まない。そんな焦りだけが残ってスマホのバッテリー残量を見たら3%。


——厄日だ。厄日にもほどがある。


でも、時間が空けば空くほど良くない方向に行く。それだけは、ほのか先輩の言葉が嫌でも理解させてくる。


もうここまできたら当たって砕けろ精神が大事かもしれない。

なんせ相手は最恐の風紀委員長なのだ。


誰が告白なんてするんだ、とか言ってた自分が腹立たしい。

結局その最初の人間が俺になるとは。くそっ……。


ヤケクソみたいな勢いで俺は指を走らせた。

文字を打って、消して、また打って——最後は変に飾るのをやめた。


【飛鳥:凛、今日凛のマンションの隣の公園で待ってる。話したいことがある。だから来てくれると嬉しい】


送信。

ボタンをタップした瞬間、ため息が勝手に落ちた。


「ふぅぅぅぅ……だめだ、もうやるしかない。せめて、検証を始める前の関係値に戻れば万々歳だな……いや、普通に告白失敗したらやっぱギクシャクしないか?そこは凛だし大丈夫か……?」


独り言のくせにやけにうるさい。脳内会議が止まらない。大丈夫の根拠は何だ。凛だし、って何だその雑な信頼。


と、その時。


脳内の騒音を突き破って、俺は重大な事実に気づいた。

——返信、確認してないじゃん。


慌てて画面に食いつき、指を伸ばしてロックを解除して、通知を——


「あっ…………スぅ〜…………」


画面は既に真っ暗。

俺のスマホはそこで静かに息を引き取った。

呼び出したはいいものの、凛が来てくれるかどうかは未定。

未定のまま確定しているのはひとつだけ。

言った以上、行かないわけにはいかないということ。


俺は机を蹴りそうになる衝動を飲み込んで教室を飛び出した。

教室に凛の姿はなかった、なら、帰っているはずだ。

それなら待たせるわけにはいかない。待っていなくても、待っている可能性があるなら、俺は走るしかない。


やり場のない自分への怒りを抱えたまま、俺は階段を駆け下り、西日差す校舎をとびだした。

来てくれなかったら、俺はどうすればいい……。


そんな答えの出ない問いを抱えたまま、俺は矢のように凛が来ているかもしれない公園へ走り出した——



————————



猛ダッシュの甲斐もあって、思ったよりずっと早く俺は公園に着いてしまった——


胸の奥が熱い。肺が追いつかなくて、呼吸を整えようとしても吸うたびに胸が跳ねて、吐くたびに心臓がうるさい。


公園の入口をくぐると、いつもなら気にも留めない遊具の影や、砂の匂い、遠くの車の音が今日は妙に鮮明で、足音だけがやけに大きく響く気がして、俺は無意識に歩幅を落とした。


凛と一緒に何度か訪れたこの公園。凛と触れ合った思い出が残るその公園。

そんな記憶の欠片を拾うように俺は辺りを見渡した。


木陰の下、影と夕日の境目に人影が浮かんでいる。

整った制服を纏ったスラリとした華奢な体つき。

そこに似合わないほどの大きな胸が、隠すことをやめたみたいに静かに主張している。

ハーフアップにした長い黒髪が風に揺れ、夕日に照らされその髪に誇らしげに煌めく蒼い海——その髪に縁取られた整った顔立ちに、気の強そうな眼差し。


間違いなく凛だ。


彼女を視界に捉えた瞬間、思わずため息が漏れた。

来てくれたんだ。そう思うより先に美しさに見とれていた俺がいた。

自分でも情けないくらいに目が離れない。


あまりに近すぎて気づかなかった。俺はこんなに綺麗な人に、今から……。


すくむ足を必死に動かして、俺は一歩ずつ凛に近づいていく。

夕日が長い影を伸ばして、俺の影が彼女の影に少しずつ近づくと、その墨色の眼差しが俺の方へ向けられた。


と、思ったのもつかの間……視線はスッと逸らされた。まるで見てはいけないものを見てしまったみたいに。多分、気まずいのだろう。


でも、それはお互い様だ。俺だってまともに見返せる自信がない。

なのに俺が呼び出した。俺が始めたことなんだから、俺が終わらせるべきだ。覚悟を決めるしかない。


足を止めたくなる衝動を噛み殺してさらに凛へ近づいてゆく。

木陰の中の空気がひんやりして夕日の匂いが混ざった空間で、凛は微動だにせず、風だけが彼女の髪を揺らしている。


ここまで来たら、逃げられない。

俺は腹の奥に力を入れて、ひねり出すように言葉を吐いた。


「凛……急に呼び出してごめん……来てくれてありがと……」


たぶん、もっといい言い方はあった。もっと格好つけた言葉も、どこかの恋愛ドラマなら山ほど用意されてる。けど、俺の口から出たのはこれだけだった。

そもそも、こういう場面に適切な言葉なんて、恋愛初心者の俺にわかるはずがない。


沈黙。


その気の利かない一言に、凛は気まずそうにこちらへ視線を向け——すぐに大粒の涙を瞳に浮かべ始めた。


目の前で起こっているこの状況に、理解が追いつかず、声が出ない。

凛は泣いている。それも、ただ泣いているなんてものじゃない。

堪えきれなかったものが一気に溢れ出したみたいに、頬を伝って、顎から落ちて、夕日に照らされて光っている。


俺はその場に縫い付けられたみたいに立ち尽くした。

呼吸の仕方さえ一瞬わからなくなって。


「うっ……ひぐっ……あっ……あっ……くん……」


——え?


「……あっぐん……っ、あ゛っぐ〜〜ん!!ざみじがっだよぉ!!」


涙と一緒に、言葉が転がり落ちてくる。


——ええっ……?今、あっくん、って……。


検証の時みたいに甘ったるい呼び名を使うのはあっちの凛だったはずだ。いま目の前にいるのは、催眠なんて関係ない学校の凛のはずなのに。

俺の思考が追いつくより早く、凛は両手で顔を覆って、ぐしゃぐしゃに泣きはじめてしまう。


「ごべんね、ごべんね……あっぐん……私が変なことしちゃったから……変な感じになっちゃって……本当なら、私から連絡して謝るべきだったのに……なのに、あっくんに連絡させちゃって……私、最低だよね……?」

「ちょ、ちょっと凛……っ!?」


予想外しかないこの状況。

俺は情けないくらい焦っていて、頭から言いたいことが綺麗にスッポ抜けていた。


「その、まず落ち着こ?うん。深呼吸。すって〜……はいて〜……ほら、これハンカチ……」


とりあえずポケットに入れっぱなしだったハンカチを差し出すと、凛はそれを受け取って、乱暴なくらいに目元を押さえた。


「……ありがと……」


声が震えている。俺も喉の奥が熱い。

泣かれるのに弱いとか、そういう単純な話じゃない。全てで何が起こっているかわからない。

俺は戸惑いながらも、ぺしょぺしょの凛をとりあえず見守る事にした。


「……凛、ちょっとは落ち着いた?大丈夫そ?話せる……?」

「うん……だいじょぶそ……」


言い方まで変に可愛い。

くそ。ってか何なのこの状況。


「そっか……よかった……」


一拍、ふたりの間に沈黙が落ちる。

夕日の匂いと、風の冷たさだけがやけにくっきりしている。


「「それでっ」」


声が重なり、お互い目驚いて目を合わせる。


「「あのっ……」」


またしても同時に言いかけて、同時に止まる。

俺は自分を制止する為に慌てて手のひらを上げた。


「……まず凛から話を聞いてもいい?どしたの?」


凛はハンカチを握りしめたまま、肩を小さく震わせて唇を噛む。

その仕草が、妙に子どもっぽく見えて胸が痛くなる。こんな凛、見たことがない。


「あっくん……本当に、本当にごめんね……」

「凛、いいって。そんなに謝んなくて……あの日のことは俺も悪かったというか……」


「違うのっ!!」


強く、でも弱い声。

凛は泣き顔のまま首を振ってみせる。


「もちろん……私があの日、変なことしちゃったことも謝りたいけど。でも、でも、それだけじゃないの……」

「それだけじゃない?というと……?」


凛は一度、息を飲んでからまっすぐ俺を見た。

涙で濡れた瞳が、夕日に照らされてキラキラと煌めいていて、その美しさに息を呑む。


「私……ずっと、あっくんに嘘ついてたの……」

「嘘?」

「うん……嘘……」


凛の声が少しづつ落ち着いてゆき、ほんの少しの冷静さを宿す。

風が鳴り、葉が擦れる音がやけに遠い。

凛はゆっくり顔を上げると、まっすぐ俺を見て話し始める。まるで覚悟をしたような声色で。


「あのね……あの催眠動画……あれ、効果なんてないの……私知ってたんだ……」——



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