第3話 放課後の教室、風紀委員長と2人きりで——
そして迎えた放課後——
俺は月城さんに連れられある場所へ来ていた。そこは風紀委員会議室。
月城さんは躊躇なくその部屋の扉を開け放ち、視線で中を示すみたいにして俺を先に通す。
中は長い机がコの字に組まれていて、その内側と外側に椅子がいくつか無造作に置かれた質素な空間が広がっている。壁際には雑多に備品が積まれ、会議室というより倉庫に近い。
俺が先に入ると月城さんも後を追うように入ってきて、なぜか背後でカチャリと乾いた音が響く。明らかに鍵を締めた音のように聞こえたが……?
——えっ?鍵閉めた?マ?
なんて思うが、別に取って食われるわけではないはずだ。だって相手は超堅物な風紀委員長、風紀を乱す事をするはずがない。
「並樹くん、適当に座ってくれるかしら?」
「あっ……ああ、わかったよ」
言葉はいつも通り冷たいのに、どこか小さな違和感が引っかかる気がする。
それでも余計なことを言わない。いや、言えない。
俺は月城さんの指示に従いコの字のいちばん奥、窓際の席に腰を下ろすと、彼女も追うように俺の隣へ来て、真横の椅子に手をかける。
そんな彼女の無言の圧に、俺は思わず椅子の向きを彼女へ向けていた。
次いで、床を擦る音とギシッと軋む音が続き、気づけば真正面から向かい合う形になり、膝がぶつかりそうな距離まで詰められ心臓が一瞬跳ねる。
美しい黒髪が揺れ、ふわりと立ち上る清潔な石鹸のようないい香りが鼻をくすぐり、甲斐性もなくドキッとしてしまう。相手はたぶん、そういうのが一番キライな月城さんなのに。
「それじゃ、早速だけど私の質問に答えてもらってもいいかしら?」
「質問?ああ、いいけど……?」
「単刀直入に聞くわね?…………並樹くんは彼女っているの?」
「…………………………へっ……?………………彼女?」
「そうよ、彼女よ」
間抜けな声が漏れ思考が一拍遅れる。一体、月城さんは冷静な口調で何を言っているんだろう?
そんな思考が巡った時にはすでに手遅れで、予想外の質問につい口が滑ってしまっていた。
「えっと……それ、今日の風紀委員の仕事に関係あるの?」
「ええ、関係あるわ。だから嘘をつかないで答えてほしいの」
俺の切り返しをものともせず、真剣な声色で言葉を紡がれつい気圧されてしまう自分が情けない。
——関係あんの!?俺に彼女がいるかいないかで風紀委員の仕事に影響することってある!?
とは思うが、すんでのところで声を飲み込んだ。変に突っかかるより、少しだけ興味が勝ってしまったのだ。まして嘘をつく必要もない。
「彼女はいないけど……」
「そう、それならよかったわ」
——よかったぁ!?なに?どういう事!?
意★味★不★明。
頭の中が「?」で急速に満たされてゆく。
そんな俺をよそに、月城さんはその美しい瞳で俺をまっすぐ見据え、矢継ぎ早に次の質問を重ねてきた。
「じゃあ……並樹くんは、今、好きな人はいるのかしら?」
「すっ……好きな人!?」
「ええ、好きな人よ。大事なことなの」
「あっ……えっと……それは……あのっ……そのっ……」
この質問はマジで答えにくい。
好きな人はいるっちゃいるが、でも数週間前に玉砕した。だから【いた】が正しい。
気持ちが少し残っている部分はあるが吹っ切れてもいるし。(自称)
変に考えを巡らせて、いるって答えたら『誰』って聞かれないか?
そう聞かれたら最後……前風紀委員長の名前を出すしかない。そうしたら月城さんに色々気づかれて風紀委員になった理由が不純って怒られかねないよな?
というかこの流れ、もしや……世に言う告白の流れの可能性は?俺なんかに月城さんが?いやいや、ないない。そもそも俺は月城さんとはずっと一定の距離置いて、好感度なんて上げた覚えはないし……何考えてんだよ俺……キショ……。
考えが渦みたいに回った数秒後——俺の口から出たのはこれだった。
「すっ、好きな人は……今はいないけど……」
嘘ではない。これが精一杯の答えだ。
月城さんは一切目線を外さないまま一拍置き、またゆっくりと言葉を重ねてくる。
「そう、いないのね……じゃあ心置きなく並樹くんには伝えられるわ……」
「伝えられる……何を?」
「あのね、並樹くん。実はね……」
話し始めた月城さんは、ほんの少しだけ頬に熱を乗せたみたいに見えた。
傾き始めた西日の悪戯かもしれない。でも、さっきまでの硬さとは違う揺れが確かにそこにあった気がした。
——おいおいおい!?これもしかして!?えっ!?まさかマジのやつ!?まだ心の準備がっ……。
胸の奥がドクンと跳ね、喉が乾く。
俺だけが勝手に椅子の上で忙しくなっていく中、月城さんはゆっくりと息を整えて言葉を選ぶみたいに口を開き始めた。
俺はその一音も逃したくなくて視線を外せない。瞬きすら惜しいほどに——




