20.ひとりぼっちの朝
レイさんと二人で部屋へと戻る。
もう夜なのに、廊下までこんなに明るいなんてすごいなぁと思いながら、おじいちゃんたちの顔を思い出した。
「私、言いすぎちゃったかな」
「いや? 間違っていないから刺さったんだろ」
「言葉って難しいね?」
本当の気持ちを言わないと伝わらないのに、本当のことは人を傷つけるのだもの。
「大丈夫。きっと、今だから伝わったんだよ」
「……もう少し早めがよかったわ」
もっと早くにおじいちゃんを頼ったらよかった? でも、さすがにもっと小さい頃だと、市場のおじちゃんも髪を買ってはくれなかったかもしれない。
……なにより、レイさんに会えなかった。
「レイさん、ありがとう」
「どうしたんだ、突然」
「たぶん、明日はお母さんたちが来て騒がしくなりそうだから、今のうちに伝えたかったの」
ただそれだけだったのに、どうしてかな? まるで、お別れの挨拶をしているみたい。
「母親を叱ってもらったら、家族と一緒に戻るんだろう?」
──そうか。本当にお別れのときが近づいているんだ。
さっき、おじいちゃんたちには当たり前に思っていたのに、レイさんとお別れすることは考えてもいなかった。
「レイさんはどうするの?」
どうしてか、『帰る』という言葉を言いたくなくて、質問で返してしまった。
「そうだな。やることを全部終わらせたら考えるよ」
「……うちに来る?」
ぽろりと言葉がこぼれ出た。そんな自分に驚いてしまう。
レイさんは、ぱちくりと瞬きをすると、ハハッ! と楽しそうに笑った。
「それじゃなくても人数が多くて大変なのに、さらに増やそうとするなよ」
レイさんが私の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
男の子みたいに短い髪がパサパサと音を立てるのを聞いて、なぜか目頭が熱くなる。
「……だって、もう会えなくなっちゃう」
レイさんが最初に見た私は、切りたてのぱさついた髪に、ダボついたズボンを履いた少年みたいな姿だった。
それが今では、こうしてお姫様みたいにきれいなお洋服を着ている。
これは案外、記憶に残るのかも? それでも、寂しさは変わらないけれど。
グレースたちに早く会いたい。だけど、レイさんとのお別れはなんだか悲しいのだ。
「どうした? 寂しくなったのか」
「……うん。そうみたい」
いつだって兄弟たちが一緒だった。一人の時間なんてなかった。だからこんなにも寂しいのだろうか。
「レイさんも寂しい?」
「……そうだな」
なんとなく、どちらからともなく手を繋いだ。
レイさんの少しカサついた手は暖かくて、なぜか鼻の奥がつんとした。
◇
ぱちりと目を開ける。知らない天井を見て驚いた。ここはおじいちゃんの家だ。
「ぐっすり寝ちゃったわ」
なんとなく眠れないと思ったのは嘘だったみたい。お布団に入ってすぐに寝てしまった。
ペタペタと裸足で歩く。
ゆっくりとカーテンを引くと、朝焼けが広がっていた。
「……おはよう」
しんと静まり返った部屋で、一人きり。
それでも、誰かに挨拶がしたかった。
「よし、今日も一日がんばろう」
着替えなきゃとあたりを見渡し──服がないことに気がついた。
あれ? 昨日、着ていた服は?
市場のおじちゃんにもらった服は、どこに片付けられてしまったのか見当たらない。
自分の姿を見る。
なめらかでひらひらとした寝間着は、とっても気持ちのいい眠りへと導いてくれたけど。
「……いっか。このままで」
ないものはない。マチルダさんを探したほうが早そうだし、寝間着にブーツという組み合わせも面白いよね。
「じゃあ、いってきます!」
誰もいない部屋に挨拶をして、廊下へと駆け出した。




