EP.028
「…あの、大丈夫でしょうか?」
商会の娘が顧客に話しかけて、その相手が固まっている。しかも相手は貴族ときた。
従業員はまずいと感じたのだろうか、恐る恐る声をかけられた。
その言葉に、私は弾かれたかのように従業員の方へ振り返り
「だ、大丈夫です!あの、このお洋服、包んでいただいてもいいですか!?こちら購入します!えっと…請求はここ宛にお願いします!」
近くにあった服をろくに見もせず掴み取り、従業員をまくし立て咄嗟に兄の名前を告げた。
従業員も一瞬驚いたものの、スピードは保ったままに丁寧な作業で服を包んでくれたので、私達は包まれた服を受け取り、ほとんど逃げるようにして商会を後にしたのだった。
「…あの、レオンさ…ん」
「レオン」
「聞こえてるんですか…」
商会を後にした私達は、少し進んだ先にある小さな広場まできた。
道中一言も発さなかったレオン様に声をかけると返事が返ってきたが、それを皮切り、レオン様は苛立ちを隠さず急にイライラを吐き捨てた。
「…あいつなんなんだ。というか誰なんだ。"愛し合ってる"だと?ふざけたことを吹聴するのも大概にしろ」
──怒っている。それもかなり。
怒るということは、彼女の話は嘘なのだろうか。
ただ、マリアンヌから聞いた話だと、二人はそれなりに良い仲で、親しくしているとのことだったはずだ。
彼にバレないようにそんなことを考えていたつもりだった。ただ、口が勝手に動いていたのだろう。
「でも、婚約寸前ぐらい仲がいいって話では…」
「はぁ?誰と誰が」
ポロッとこぼれた言葉に、空気が凍る。
「えっ!?いえ別に、あのですね…」
「誰と、誰が」
低く詰めるような声に、観念して白状する。
「レオン…と、サラ様…」
言った瞬間に、少しだけ後悔した。
こうなったレオン様は長いのだ。
「はぁ?虫唾が走る、何だそのくだらない話。そんなの信じてるのか?」
ブツブツと周りに聞こえない程度に文句を続ける様は、完全に不機嫌である。
ただ、そんなことを言われても私はこの五年の出来事を何も知らないのだ。
(信じても仕方ないじゃない。というか、聞いたから答えただけなのに!)
心の中でそうは思ったものの、口には出さない。
レオン様がこの調子では買い物どころか、商会の調査も進まない。…一応ほぼ終わったようなものではあるが。
仕方なく切り替えるように、私は勢い良く手を叩いて提案した。
「あっ!あー!!そうだ。私、行きたいお店があったんです!時間もありますし行きましょう!ね!はい!さぁレオン様行きましょう!」
「はぁ?おい、まてロゼリアっ…ちょ、引っ張るな!」
抵抗するレオン様の手を無理やり引いて歩みを進めて入ったその先は、大きな古書店だった。




