EP.018
──それから一週間が経った。
私は、まるで、失われた五年間を取り戻すかのように、穏やかに、ゆっくりと、自分の時間を過ごしていた。
朝、目を覚ましてから、アンに入れてもらった紅茶を飲みながら朝食を取り、少し散歩をして。
昼は読書をしたり、勉強をしたり、マリアンヌとお茶をしたり。
たまに、アルバートも顔を出して…レオン様の愚痴やお兄様の愚痴を言って笑わせに来てくれることもある。
「自由にして、やりたいことをやってほしい」
お兄様からも、レオン様からもそのように言われ、最初はバチでも当たるのではないかと思っていたのだが、人間意外と適応力が高いみたいだ。
危険も不安もない。
一日三食の温かい食事、きれいな部屋に衣服。
ふと鏡を見ると、ここに来る前よりも少しふっくらとしたような自分がいた。
(ダイエット…しないといけないかもね)
思わず苦笑してしまう。
そんな生活を続けていたのだが、ふと、流石にこのままでは良くないのではないのかと思った。
別に昨日今日で思った訳ではない、ずっと思っていたが、今が心地よくて目を逸らしていたのだ。
でも、このままではいけない。
守ってもらってばかりでは。
みんなが私のために動いてくれていたのだ。──私も、何かを返したい。
そう思い立った次の瞬間、私はお兄様のもとを訪ねていた。
「…え?家の状況を教えてほしい?」
お兄様が僅かに目を開く。
同じく部屋にいた、レオン様がこちらにチラリと視線を向けた。
「…はい」
少し声が震えているかもしれない。
「お兄様も…他の方も。私が家のことを思い出さないように気を回してくださっていたのは、わかっています」
(息を吸って、落ち着いて)
「…でも、わたしもお役に立ちたくて。恩返ししたくて…何か、私にできることがあれば、知りたいんです」
物音一つ聞こえない程に、部屋が静まり返る。
息が苦しい。
じっと私を見つめる兄。
「……」
口を開こうとしたとき、その返事は思わぬ方向から飛んできた。
「ダメだ」
沈黙を破ったのはレオン様だった。
「…え?」
「ダメ。関わらなくていい、気にしなくていい」
「─っでも!」
「ロゼリア」
黙っていた兄も口を開く。
「…私も反対だ、悪いが。教えることはできない」
「っ、お兄様も…」
「ごめん、意地悪で言ってるわけじゃないんだ。…わかってほしい」
こうなったレオン様とお兄様が、意地でも譲らないことはわかっている。
(教えられないなら、勝手に…調べるだけだわ)
「…わかりました」
「…本当に?」
「はい、本当に。無茶を言って申し訳ありませんでした」
この言葉に、兄はホッとしたような表情を浮かべる。
もう一人の視線は、変わらぬままだったけれど。
あくまでも諦めたように、引き下がるようにして部屋を後にした。
レオン様の、彼の視線には、気付かぬふりをして──。




