EP.017
「ていっても、部屋、すぐそこなんだけどな」
「え?」
レオナルド殿下の部屋を出て、二人で歩きだしてほんの数歩程度。
「ここ」
彼が足を止めた場所は、角を曲がってすぐの部屋の前だった。
「近いですね…というか、ここって王族の方用の区域ですよね?私の部屋、こんな場所に用意して大丈夫なんですか?」
「近いほうが何かと便利だろ?」
「なにかと…?」
「何かと」
意味有りげに押し切られ、部屋の扉が開かれる。
部屋に足を踏み入れると、思わず息をのんだ。
「わぁ…!すごいかわいい!」
淡いピンクを基調とした柔らかな空間。
陽の光が差し込むようにレースのカーテンがかけられた大きな窓に、白に統一された家具。
とても、ただの一時宿泊用の客室には思えなかった。
そして──棚や机には見覚えのある思い出の品が飾られていた。
「これ……あの家から?」
「うん。とりあえず回収できたものだけ置いてある」
「こんな素敵な部屋…わざわざ、私のために部屋を整えて下さったんですか?」
「…いや、元々あった部屋片付けただけだよ」
そっけない言い方の割だけど、隠している耳が赤くて。
─きっと、部屋も一から用意してくれたのだろう。
(昔から、そういう不器用なところは変わらないのね)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
「足りないものがあったら言って、すぐに用意させるから」
「そんな!十分です…ありがとうございます」
そう言って部屋を眺めていたら、パタン、と扉の閉まる音が響いた。
「…殿下?」
その音に振り返ると、殿下は真後ろに立っていて。
「その、"殿下"って呼び方。…昔みたいに呼んでくれないのか」
「え?」
心臓が跳ねる。
昔──五年前は、彼のことを"レオン様"と呼んでいた。
けれど今は、どうしていいのかわからなくて。
気恥ずかしさや、距離の取り方、全てがわからないから。
「それは…その、どうしていいのか、わからなくて」
「昔みたいでいい」
即答される。
「呼んでほしい。…というか、呼ぶって言うまで部屋出さない」
「え!?」
思わず顔を見上げると、至って真剣な顔で。
「なんでそんなに距離ある感じで呼ぶんだよ…俺だけ」
「いや、そんなつもりは本当になくて」
「いつまで経っても敬語だし…会いたかったのは、俺だけなのか?」
「…え?」
息が詰まる。
思わず下を向いてしまったが、そのまま、震える口を開く。
「…レオ、ン、様」
その瞬間、彼の纏う空気が少し緩んだ気がした。
フッ、という笑い声が上から聞こえる。
チラリと上を見ると、そこには嬉しそうな顔で笑う彼がいて。
「…今は、それでいいよ」
「なんですか、それ…」
「別に?なんにもない。…顔真っ赤だけど、大丈夫?」
「レ、レオン様だって耳赤いですから!」
「俺のは気のせいだから」
「嘘!」




