EP.014
「アン、申し訳ないんだけど…少しだけ二人にしてほしいの」
部屋に入ってきたマリアンヌにお茶を出したアンに、彼女はそう声をかけた。
「かしこまりました。ちょうど別件で用事もありましたので、少し席を外しますね」
──え、と思う間もなく、アンは空気を察したように、あっという間に部屋を出ていってしまった。
扉が閉まり、部屋には私とマリアンヌだけが残された。
「……ごめんね、ロゼリア。本当は嫌かもしれないけど…少しだけ二人で話したくて」
「…いいえ、嫌なんてことないわ」
嫌なんてことはない。それは本当だった。
ただ、二人きりで、何を話していいのか、どう話していいのかがわからなかった。
(昔は、こんなことを思うなんてなかったのにね)
私がそう考え込んでいたら、マリアンヌは一度視線を落とし、意を決したように顔を上げて話し出した。
「…改めて、謝りたくて。ずっと……連絡できなくて、本当にごめんなさい」
「えっ…と、まって、謝らないで。手紙、送ってくれてたんでしょ?」
「うん、でも…」
マリアンヌが小さく息を吐く。
「でも、ロゼリアに届いてなかったら意味がないもの。
…それにね、本当は、わかっていたの」
「…え?」
「…届いてないって、薄っすらとわかっていたの」
「…でも、怖かったの」
マリアンヌの声が、少し震えたような気がした。
「もし、届いているのに無視されているとか…そういう、そういうことがあったらどうしようって思ってしまって」
「そんなこと──!」
思わず声を上げた私を制するように、マリアンヌは弱く笑って口を開いた。
「わかってる。わかってたの。わかって逃げてたの」
「でも……アーサー様やレオナルド殿下と一緒に、ロゼリアのことを調べ始めて、まさかこんなことになってるなんて思わなくて…」
「それなら…もっと初めから、もっと強引にでも、早く、ちゃんと寄り添ってあげればって…自分が、情けなくて」
声を震わせながらそう告げるマリアンヌに、私も締め付けられたような感覚だった。
「私も…私もね、マリアンヌは、私以外にも沢山友人がいたから…」
「私がいなくなっても困らないし、他にもたくさん友人がいるからって、そう思ってて…」
「そんなことないよ!」
その言葉に思わず肩が跳ねる。
「そんなことない。絶対、そんなことないよ。…私の一番の友達…親友は、ロゼリアだよ」
「本当に、今までごめんね」
その言葉と共にマリアンヌの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
それを見た途端、張り詰めていた糸が切れたように、私の瞳からも、涙が溢れだした。
「……っ私も、ごめんなさい。ごめんね…っ」
言葉はうまく繋がらない。もはや、何に謝っているのかもわからないが。
二人で、声を上げて大泣きてしまったのだった。
まるで、五年間積もっていた誤解と不安を、涙で流しきるように──。




