EP.012
「……あっ、では、お兄様がお義父様に"伯爵"と声をかけられていたのは、それが理由なんですね」
「ああ。それもあるが、私が正式にあの家を引き継ぐことを、あの場でアピールしたかった面もある」
話を聞く限り、兄も殿下も、私が今どういう気持ちで、どんな状況なのか全くわからなかったそうだ。
そこで、まずは、私をあの家から引き離さなければ何も進まないと判断したらしい。
だから、多少強引……やや無理やりにではあったが、レオナルド殿下が主導してパーティーを開催し、義父母が私を無理やり表舞台へ連れてくるようの仕向けたらしい。
「一応、これが上手くいかなかった場合の代替手段も色々考えてはいたが…相当罰金を払いたくなかったんだろうな」
「…でも、もう公爵家ではなくなったということは、もし義父母が私の参加を拒否した場合の罰金は、伯爵領の税の三倍、になりますよね?」
「さぁな。彼等は、自分達が公爵位を剥奪されたことをまだ認めていない。それに、どのみちお金がなかったんだろう」
私の知らないところで、相当な額が無くなっているとのことだった。
「ただ、あの二人が売った公爵家の家財に関しては、できる限り回収しているから安心してほしい」
「……えっ、そうなんですか?」
「そういえば、その話もまだだったな。
まず、ロゼリアの部屋にあった荷物に関しては、昨日俺の部下が──やや強引にだが、すべて城へ運びこんだので安心してほしい」
「義父や義母が勝手に売った家財に関しても、私が後を追い、レオナルド殿下に協力していただきながら可能な限り取り戻したから」
胸の奥が締め付けられる感じがした。
私の手元に残っているのは、昨日身に着けていたドレスと、母が特に大切にしていたペンダントのみ。
それ以外はすべてあの二人に奪われてしまったため──たとえ一部でも、思い出の品が戻ってくるという事実はとても嬉しかったのだ。
「…アンのことも、私が知らないところで、沢山…動いてくださっていたんですね」
「そんなことない。こんなの全然…全然足りてないよ」
悔しそうな顔で視線を逸らすレオナルド殿下。
その沈黙を引き取り、兄が話し出す。
「…ここからは、これからの話になるけれど。
まずは、昨日も言ったとおり、ひとまずは城で生活してほしいんだ」
「ここであれば、私も殿下もいて、警備も硬い。
全てが落ち着くまでは、ここで暮らしてほしい」
「部屋も、昨日は客室だったが、ちゃんとロゼリア用の部屋を用意しているんだ」
「まずは…ゆっくりと休んでほしい」
「その後、この先をどうしていくか、一緒に考えよう」
「…でも、私は、五年も社交の場に出ていなくて……そんなやつが、城に滞在して過ごすだなんてこと──」
「大丈夫だよ。俺がいるから。全部、大丈夫だから」
「…!」
それは、あの頃のレオナルド殿下と変わらない、優しい声色とは裏腹に、少し不器用な言い方の、彼の声だった。




