EP.010
コンコン。
アンに連れられて辿り着いたそこは、過去にも何度か訪ねたことのあるレオナルド殿下の私室だった。
私室を改修し、執務室としても利用しているらしい。
「レオナルド殿下。ロゼリアお嬢様をお連れしました」
アンの声に応じるように扉が開かれ、中からお兄様が姿を現した。
「おはよう、よく眠れた?」
「おはようございます。…お陰様で、とてもゆっくり休めました」
「そう。よかった」
そう言って、あの頃と変わらない優しい笑顔で迎え入れてくれる兄。
「二人とも入って。ロゼリアはそこのソファーに、アンはちょっとこっちで手伝ってほしい」
部屋の中には、もちろんレオナルド殿下もいた。
「…おはよう」
「おはよう、ございます」
アンがお兄様と話している間、私は殿下と向かい合う形でソファーに腰を下ろした。
何を話せばいいのかわからず、取り留めなく視線を逸らす。
二人の間には沈黙が流れ、どこか気まずい空気を醸し出していた。
「お嬢様、紅茶はミルク入りでよろしかったでしょうか?」
「え、えぇ」
「かしこまりました。すぐにご用意しますね」
(正直、それよりもこの空気を助けてほしい……!!)
何を考えているのかわからないレオナルド殿下をチラリと盗み見て、そんなことを思っている間に、アンが茶菓子と紅茶を用意し、お兄様も向かいのソファーに腰を下ろした。
「悪いが、君もここに残って話を聞いてほしい」
「もちろんです。お嬢様の話は私も聞きたいですから…むしろありがたいです」
そうして準備が整い、ようやく話し合いがスタートした。
「…とりあえず、五年前何があったのかを説明する。
信じるかどうかは、ロゼリアに任せる」
「あの…ちなみに、マリアンヌとアルバートは、」
「あぁ、ふたりは午後から登城するらしい。あの二人はもうある程度の話は知っているから、ひとまず今いるメンバーで話をしようと思う」
そう説明し、一拍置いてから、改めて殿下が口を開く。
「五年前、ロゼリアの両親が亡くなってから、領地の引き継ぎや諸々の手続きで、俺とアーサーは動き回ってたんだ」
「貴族学校に通っていたせいで、アーサーがすぐに領地を引き継げなかったことは知ってる?」
「…はい、少しだけ聞きました」
「レオナルド殿下に動いてもらっている間、知らないうちに…あの二人が公爵家に入り込んで、領地を引き継いでたんだ」
「…え?」
思わず声が漏れる。
「…と、いうことは……あの二人が来ることは、お兄様も知らなかったの?」
「あぁ」
兄は苦々しく頷いた。
「大方、どこかの有力な貴族が手を回していたんだと思う。…目星はついているがな」
「慌てて家に戻って話をしようとしても、義父母は取り付く島もなかったんだ」
「ロゼリアにも会わせないの一点張りだった。…それどころか、ロゼリアは『私に会いたくないと言っている』と、言われたしな」
「え!?そんなこと一言も…!お兄様に会いたくなかったことなんて、」
「わかってる」
兄はすぐにそう返した。
「わかってるんだよ。…でも、父と母が亡くなったときに一緒に入れなかったのは事実だから」
「だから…もしかしたら本当に会いたくないと思っているかもしれないと。──そう思って、段々会いに行くことも躊躇うようになったんだ」
あまり本筋には関係ないかもしれませんが、マリアンヌとアルバートは婚約者という設定です(◍'◡'◍)




