episode41
「終わったー!」
ついに、発表用の資料作りが終わった。長きに渡り、大変苦労した。
「お疲れ様!あとは発表の日まで練習するのみだね。2人とも、本当にこの期間ありがとう」
薫さんは嬉しそうに完成したプレゼンテーションの資料を眺めた。
大学細胞コンテストの日付は12月24日のクリスマスイブ。会場は私たちの大学。
「発表まで残り2週間。最高の状態で挑みましょう!今日はここで解散!」
薫さんは机の上のものを片付けながら言った。私も宮野くんも同じように帰る支度をした。
今日はこの後何もないから、直帰だな。
「あ、そうだ!今日さ、この後3人でご飯行かない?」
薫さんがナイス提案をした。宮野くんは即決OK。私も
「行きたいです!」
「よっし!それじゃあ私の車で行きますか!」
「えっ!?薫さん車で来てるんですか?」
「そうよ?」
この人、本当に大学生?と思う時がたまたまある。
3人で食事は何度か行ったことあるけど、今日行くのは本当に久しぶりだった。
「忘れ物ない?」
「おっけーっす!」
「大丈夫です!」
研究室の電気を消して、暗い廊下を歩いた。
「ここ、私の行きつけなんだ〜」
到着したのは、賑やかな居酒屋だった。駅近にあり、多くの人で賑わっていた。
赤い暖簾をくぐり中に入ると
「いらっしゃ〜い!3人でいいかな?」
「はい!あ、いつもの席で!」
「はいよ〜!」
薫さんは慣れた動きで店の奥の4人席に案内してくれた。カウンター席が7、8席ほどあり、向かい合って座れる席がたくさんあった。
「ここの席ね、私のいつものとこなの」
座席の下にある簡易的な荷物入れに荷物をしまった。薫さんと宮野くんが隣に座り、私は2人の正面に座った。薫さんからメニュー表を受け取り、なんとなく眺めた。
「私、レモンサワーで」
「おっけー!」
「俺も同じので!」
「それじゃあ頼んじゃうね〜。すみませーん!」
店の奥からちょっぴり小太りの男性店員がやってきた。
「お!今日はお連れ様がいるのかい!」
「はい!えっと、レモンサワー3つと、枝豆とタコの唐揚げお願いします!」
「はいよー!」
店員さんは何も持っていなかった。メモする用紙すらなかった。
「薫さんはここにどのくらいの頻度で来るんですか?」
「う〜ん.....月に2、3回かな。旦那と来る時もあるしね」
いまだに薫さんが結婚していることを忘れる。
「お待たせしましたー!」
「ありがとうございます」
レモンサワー3つと枝豆、タコの唐揚げが机に運ばれた。私たちはお礼を言いながら食べやすい位置に移動させた。
「それじゃ、宮野くん!乾杯お願い!」
「うぃっす!え〜今日は、プレゼン完成の祝いと、発表会成功を祈って、楽しみましょう!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「.....っはぁ〜!!!さいっこう!!」
ん〜!やっぱり何か終わった後のお酒は本当に美味しい!!!
「やっぱり人と飲むお酒の方が美味しいね〜!」
「1人だと寂しくなりますし」
「だよね〜。そういえばさ、さっき研究室で言ってた”『凛さんが大人で素敵すぎて、俺には100年早かった』ってどういうことだったの?」
薫さんは私たちを交互に見つめた。
「俺が、凛さんを好きで告白したんです。けど、凛さんには彼氏がいるから、ダメだったって話ですよ!」
「え〜!凛ちゃんこんないい男逃しちゃうのー!?」
「私には......」
「まぁ〜あなた達の世代だと彼氏彼女いてもおかしくないわよねぇ」
薫さんは頬を赤らめながら呟いた。もう酔ってきてるみたい。宮野くんは腹から声を出して賛同していた。
「凛ちゃーんの彼氏さんってどんな人なのぉー?」
「俺も気になる!」
2人はじっとこちらを見つめた。私は響さんからもらった指輪を見つめた。
「......彼は、本当に優しくて、頼りになる人。いつでも私を守ってくれて抱きしめてくれる。泣いた時も、嬉しい時も。相談にも乗ってくれる。大好きで、大好きでたまらない人———」
響さん、今ごろ何をしているんだろうか。もうしばらく会っていない。
「へぇ〜!そうなんだー!」
「俺とは正反対な野郎だぜ......」
響さんって、家にいるよね、この時間なら。時計の針は4を指していた。
ガチャン!!
「すみません!私、今日は帰ります!!!お代はこれでお願いします!」
「えぇぇっ!?ちょ凛ちゃん!!!」
響さんのコートを羽織り荷物を持ち店を出た。外は南極のように寒かった。
「はぁ、はぁ、はぁ......!」
思い出さないようにしていたのに。もう話さないと決めたのに。彼のことを思い出すと、体が勝手に動いてしまう。こんなにも、こんなにも突き放したのに。結局結果は思っていた通りだった。
「ついた.....」
ついにマンションの前までやってきた。少し離れたところで待機していよう。
道中で何度も転びそうになった。でもこのコートのおかげで転ばずに済んだ。
響さんに会ったら、まずなんて言おうか。
ちゃんと話がしたい
経緯を教えて欲しい
彼女は誰なのか
聞きたいことが多すぎて時間に追いつかれる。
「......あ、響さーん———えっ?」
うそ、でしょ。
マンションの入り口に響さんが現れたと思いきや、それは、1人ではなかった。
隣で腕を組み楽しそうに歩く姿があった。その女性の顔はよく見えなかった。
「うそ、でしょ......」
2人は笑いながらエントランスに入って、姿を消した。状況理解に苦しんだ。
彼の家の中に、行ったよ?
本当に、なんで。
私の短い恋も、あの扉の向こうで終わった気がした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
これにて、『京本さんはいつも私を困らせる———チャプター1』を終了いたします!長い間、拙作を読んでいただき本当にありがとうございます。
チャプター2でまた会いましょう!!




