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3話

すいません…王子様育成までいきませんでした。

じっと見つめていた鏡から視線を外して、近くにあるベルを鳴らした。

キィっと微かな扉の音とともに「お呼びでしょうか?お嬢様。」と侍女が数人現れる。

「殿下に会いに行くわ。準備をして。」

「かしこまりました。」

一斉に乱れなくお辞儀をし、各自テキパキと準備を始める。

1人の侍女が、レースやフリルをたっぷりと使った淡いピンク色のそれはそれは可愛らしいドレスを手にわたくしの元へとやってきた。

「お嬢様、本日のお召し物はこちらで如何でしょうか?」

このドレスはわたくしのお気に入りの1着だ。

まるで物語のお姫様のように可愛らしくて、大好きだった。

でも…

「それは嫌、違うものにして頂戴。」

『悪役令嬢』らしくない。

悪役令嬢らしい、もっと色彩のはっきりしたものがいい。

「あぁ、あれがいいわ。あれに合わせて皆支度して頂戴。」

わたくしが指差したのは深い赤色のドレス。リボンやレースが濃い紫というのも気に入った。

『悪役令嬢』に相応しいと思った。

出来れば甘くならないように、可愛らし過ぎないように。

だってわたくしは『悪役令嬢』になるんだから。



支度を整えて、朝食を摂ろうと階下に向かうとお父様に出会った。

わたくしの装いを見て一瞬目を見張ったようだったがすぐに破顔し「おはよう、可愛いローズ。今日の服はいつもと感じが違うけれど、それもすごく似合っているね。」と上機嫌に声をかけてきた。

「おはようございます、お父様。わたくしも10歳になりましてよ。いつまでも子供っぽい服など着ていられませんわ」と少しツンとした感じで返事をする。

その様子を微笑ましそうに見つめ、うんうんと頷いた後

「それでは今度はそういう服をこれから買い揃えようね。ついでに装飾品も新調しようか。」

と楽しそうに提案してきたので、即座にわたくしは

「あとわたくし、部屋の模様替えもしたいのです。もう少し大人っぽい感じに。ねぇお父様…いいでしょう?」

胸の前で手を組んで、上目遣いでお父様を見つめる。

お父様はわたくしの髪を優しく撫でて「勿論だとも。好きなようにしなさい、私の可愛いローズ。」と笑って言った。

その言葉にわたくしはにっこり、とびきりの笑顔で答える。

「ありがとう、お父様。大好きよ。」と最後に告げて『悪役令嬢』らしい、いつもの我儘を叶える。


全部捨てる。

可愛いレースもリボンも、お姫様のような淡い色も

全部捨てて、『悪役令嬢』に相応しい物を身につける。

だって可愛らしいものは、お姫様の『主役(ヒロイン)』のものだから。

『悪役令嬢』のわたくしにはいらないものだ。



朝食の席に着くと、お母様もお兄様達もわたくしの変化に驚いたようだけれど、すぐに「とてもよく似合う」と褒めてくれた。

自分で言うのもあれだが、わたくしの顔つきや髪や瞳の色的にもはっきりした色の方が映える。

今までの服よりよく見えるのは当たり前のことだと思う。

でも、この人達はわたくしがどんな服を着ていようときっと「よく似合う」と言って笑うんだと思う。

何を着てもローズは花のように可愛らしい。と言って。

今までは嬉しくて堪らなかったその言葉は、今は鉛のように重く感じる。

それを飲み込んで、わたくしは笑う。

とびきりの笑顔で「ありがとう。」と微笑む。






朝食を終え、騎士団で働いている下のお兄様であるラフィお兄様と一緒に馬車で王城へ向かう。

ラフィお兄様はわたくしより10歳年上の20歳。

わたくしと同じ髪と瞳の色を持つ、美丈夫な方である。

「何か困った事があったらすぐにお兄様のところに来るんだよ。すぐにどんな問題もお兄様が解決してあげるからね。」

隣り合って座っているわたくしを抱くように囲み髪に頬擦りをしながらお兄様が言う。

ラフィお兄様はスキンシップが多い方である。

「ありがとうお兄様、何かあったらお兄様を頼りますわ。」

わたくしがそう答えれば、ラフィお兄様は嬉しそうに頷いた。

こんな風に妹を溺愛しているが、騎士団でのお兄様は剣の腕が立ち上官の覚えもめでたいエリートらしい。

わたくしがいたら、溺愛モードのダメダメなお兄様になるのできっと凛々しいお兄様をわたくしが見ることはないだろう。

「ところでラフィお兄様、騎士団で働いているラフィお兄様から見てレオンハルト殿下はどのような方ですの?」

わたくしの質問に、未だ頬擦りをしていたお兄様は手を止めて考えるように微かに視線を上にやった。

「正直な話、あまり印象にないな。第1王子殿下が、かなり目立つ方だからそちらにどうしても目がいってしまって。ほんの偶に第2王子殿下とお会いしてもほとんど下を向いて、息を潜めるようにしているしね。…まるでそこに存在していないかのように、ひっそりとしてらっしゃるよ。」

最後の方は本当に小さく囁くように呟いたラフィお兄様は少し顔を下に向けたが、すぐにわたくしに向かってにっこりと微笑んだ。

「でも、ローズは何も心配しなくていいからね。ローズが言うことはきっと第2王子殿下も喜んで聞いてくださると思うから。仲良く楽しく過ごしなさい。」

その言葉を聞いたわたくしも、ラフィお兄様に負けないくらいに、にっこりと微笑みながら「はい、お兄様。」と言った。

視線を落としたラフィお兄様が蔑むような目をして薄く笑っていたことなんて微塵も感じさせないように。

明るく楽しく、新しい玩具を早く見たい無邪気な子供のような表情でわたくしは笑う。




…レオンハルト殿下。

もう、他人にこんな表情されないようにわたくしが育成して差し上げます。

お覚悟さないませ。


次こそ、絶対にレオンハルト育成計画始まります!!


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