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隠しキャラの理想と現実

カプチーノを飲んだら、上唇に泡がつく彼女。

それをみて「可愛く見せようとわざとやってるのか?」と彼が言う。

否定する彼女は手で泡を拭き取ろうとするが、

そこで彼が「待て、汚いだろ」と腕を掴みそのまま泡を舐め取るようにキス。

~萌えるシチュエーションbotより~

 大川家に遊びに来た結子ゆうこは、ダイニングテーブルにて、目の前に置かれた真新しいコーヒーマシンに見入っていた。


拓斗たくとくん拓斗くん! これ、どうしたの!?」

「ああ、母さんが会社の創立パーティーのビンゴ大会で当ててきたんだ。専用カプセルも全種類もらってきたみたいだから、飲みたいなら好きなの選んでいいぞ」


 生成りの布を張った籐の籠に全種類のカプセルを2個ずつ入れた拓斗は、それを2個のカップと共にお盆に乗せて持ってくると、結子の前に置いた。

 最近のコーヒーマシン用カプセルは、コーヒーやエスプレッソのバリエーションだけでなく、ティーラテや抹茶ラテなんてものまであり、あまりの多様さに目移りしてしまう。

 その中から最終的に選んだものは……彼女にしては珍しい一品だった。


「じゃあ、コレいただきまーす」

「カプチーノ? 珍しいな、お前がお茶系以外のものを選ぶなんて」


 カプチーノのカプセルセットを受け取りながら、拓斗は思わずそう言った。

 結子は、基本的にはお茶派である。しかし、コーヒーの類が飲めない訳ではないのだ。


「たまにはね。カプセル2個で作るって言うのが面白いし、何よりカプセルの色が抹茶色だったから気になって」


 あははー、と笑う結子に、拓斗苦笑しつつも、軽く彼女の頭を撫でた。

 ようやく触れられるようになった彼にとっては、こんな細やかな事でも幸せを噛み締められる瞬間である。

 直ぐに幸せ感溢れる表情に戻ると、拓斗は、カップとミルクカプセルをマシンにセットする。

 そしてスイッチを入れると、程なくして、ふわふわのきめ細かいフォームドミルクがカップを満たす。

 続けて、空になったカプセルとコーヒーカプセルを入れ替えて再度スイッチを押すと、先程と同じくらいの時間で濃厚なエスプレッソがフォームドミルクに注がれ、キャラメルの様な色が緩やかに広がっていった。


「おおー! すごーい! ふわっふわだね~!」


 一連の工程を目の当たりにした結子は、素直に歓声をあげた。瞳がきらきらと輝いている。

 その様子を微笑ましく見ていた拓斗は、エスプレッソが馴染むまでの間にキッチンからココアパウダーを持ってくると、フォームドミルクの上にそっと振りかけた。相変わらず、飲むよりも、こうして作る側の方が似合う青年である。


「よし、これで出来上がり。ほら、結子」

「ありがとう! ほわ~、ちょっとマイルドになったエスプレッソの香りの中にココアの香りもほんのり混ざって、匂いも美味しいね! では早速、いただきまーす!」


 手渡されたカップを両手でそっと持つと、結子は、端を唇に当ててゆっくりとカップを傾けた。

 フォームドミルクを少しみながら、遅れてやってきたエスプレッソを一口入れて、こくり。

 そのまま続けて二口、こくりこくり。

 丁寧に飲み込んでからやっとカップを唇から離した結子は、一部泡の消えたカプチーノを見つめて呟いた。


「美味しい。……凄いね。おうちでお手軽に、こんな美味しいカプチーノを作れちゃうなんて」


 だが、真面目に絶賛中の結子を見ていた拓斗は、堪え切れずに小さく吹き出した。

 何が彼を笑わせたのかさっぱり分からず、カップをテーブルに置きながら、結子は小首を傾げる。

 すると、拓斗は彼女の口元を指さした。


「結子、上唇に泡ついてる。それも割と豪快に」


 可愛く見せようと、わざとやってるのか? と、拓斗が冗談で言ってやれば、結子は目を丸くした。


「拓斗くんって、意外に乙女思考?」

「おいコラ、何でそうなる」

「いやだって、ふわふわの泡って言っても、おヒゲだよ? 可愛くないと思うけど」


 言いながら指で拭おうとすると、その手を拓斗にやんわりと止められた。


「ふわふわしたものは視覚的に人の心を和ませるし、それを女の子が付けている姿は、何となく無防備で可愛く見えるもんだよ。しかも、やっているのが意中の相手なら――」


 そこで言葉を切った拓斗は、彼の意図を理解しきれずきょとんとする結子の手を引いて、彼女の体を自身の方へ寄せると、身を屈めてぺろりと泡を舐め取った。

 おまけとばかりに、唇に軽いキスを一つ落としてから少し顔を離してみれば、愛しい彼女は、恥ずかしさと困惑で顔を真っ赤にして、あうあうと言葉にならない声を微かに発している。

 その反応に満足した拓斗は、

 

「こういう事、したくなる」

 

 と言って、いつもの穏やかさとは違う、色気の滲む甘い笑みを浮かべた。



*****



「――って企画書を作ってきてやったから、そのうちガンバレ。元攻略対象なんだから、これくらいやれるだろ」


 言いながら、拓斗の部屋のドアに寄りかかったれんは、右手に持った企画書をひらひらと振って見せた。

 ちなみにタイトルには、『拓斗×結子 キスイベント・その15 企画書』などと書かれている。ご丁寧に、『ラズベリー☆レッド』時の運営から送られてくる資料と同じ書式だ。

 そんな蓮に向かって、拓斗は顔を真っ赤にして叫んだ。


「3分前に初キス邪魔した奴が、寝言をほざくなーッ!! しかも、コーヒーマシンの話って、完全にお前の趣味じゃないかーッ!!」


 両思いになっても、不憫っぷりは健在な拓斗であった。

短いですが、以上をもちまして【隠しキャラ~】連載版、本当に完結となります。

お付き合いくださいまして、本当にありがとうございましたv

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