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クーリングクレジット:cooling credit 第四部  作者: マスター


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第64話 圏外の返答

第64話は、北第七码頭でユウトが「上位プレイヤーのルール」と「自分の協働運用」を天秤にかける回です。

D地点の完全停止決定まで残りわずか。ユウトは大きな報酬への参加資格を失うかもしれないリスクを背負いながら、初めてFROST-9へ正面から条件を返します。

『D地点・近隣住宅地簡易避難スペース』

『完全停止決定まで:00:27:18』


 北第七码頭の待機車両用給水スポット。


 ユウトは、スマホを見つめていた。


 協働運用チャットには、仲間たちの返信が並んでいる。


『ハル:

 Aへ向かう。第2休憩棟までの動線を確認する。』


『ナギ:

 Bの低出力案を作る。給水とミストを分ける。』


『蒼真:

 Dへ行く。住民の利用状況を聞く。』


『片瀬:

 港の管理側に連絡中。協力者の入構手続きも確認する。』


 みんな、もう動こうとしている。


 しかしFROST-9からの警告は、消えない。


『あなたは一人で観測する条件だったはず。』

『協力者を入れるなら、事前観測パスを失効させる可能性がある。』


「……可能性、か」


 ユウトは、北第七码頭の地図を拡大した。


 A、B、C、D。


 四地点を一人で回る。


 それは、形式上は可能かもしれない。


 だが現実には、誰かの停止案が先に決まり、現場が変わってしまう。


 観測してから代替案を出す。


 その順番では、間に合わない。


「どうします?」


 RIVER-EDGEが、少し離れた場所から言った。


 いつの間にか、給水スポットのテント脇でこちらを見ていた。


「FROST-9の条件を守るか。

 それとも、仲間を呼んでパスを失うか。」


「聞いてたんですか。」


「北第七码頭では、情報は風より早い。」


 RIVER-EDGEは、ミストノズルを見上げる。


「俺なら、一人でやる。

 協力者を呼んで提案を通しても、責任の所在がぼやける。」


「協力しても、責任は消えません。」


「そうか?」


「むしろ、現場を知ってる人が増えれば、責任の場所が見える。」


 ユウトは言った。


「一人で決める方が、早いのは分かる。

 でも、間違えたときに、誰も止められない。」


 RIVER-EDGEは、小さく笑った。


「その言葉、ランキング上位には刺さらない。」


「だから、俺は圏外なんでしょうね。」


 ユウトは、FROST-9への返信画面を開いた。


 指が少し震える。


 5.000 CC。


 正式参加資格。


 都市圏ランキング。


 手放したくない。


 でも。


『ユウト:

 一人で見られる範囲には限界があります。

 俺は、協力者と現場を確認します。

 ただし、最終的な提案は俺の名前で出します。

 協力者が勝手に設備を触ることはありません。

 それでもパスを失効させるなら、受け入れます。』


 送信。


 既読は、すぐについた。


 返事は来ない。


『D地点・完全停止決定まで:00:24:56』


 ユウトは息を吸った。


「蒼真さん!」


『聞いてる!』


「Dの状況、すぐ送って!」


『今、住宅地の入口。

 暑い。人もいる。

 でもMIST CROWが、もう現場説明を始めてる!』


「分かった。俺も行く!」


 ユウトは走り出した。


 ◇


 北第七码頭の外周道路を抜ける。


 大型車両の列。

 作業員用の通路。

 熱を返すアスファルト。

 海風はあるのに、暑さは抜けない。


 D地点の簡易避難スペースは、港と住宅地の境界にあった。


 小さな公共スペース。


 屋根つきのベンチが四つ。

 給水機が一台。

 簡易ミストが二基。

 古い案内板には、こう書かれている。


『高温時・短時間避難スペース』


 そこに、十数人の住民が集まっていた。


 子どもを連れた親。

 買い物帰りの高齢者。

 自転車を押す学生。

 港の作業を終えて、住宅地側へ帰る人。


 そして中央には、黒いフード付きの冷却ベストを着た人物。


『MIST CROW』


 彼は、タブレットを片手に話していた。


「繰り返します。

 この避難スペースは、正午から完全停止します。

 代替として、住宅地中央のコミュニティセンターを案内します。」


「遠いよ」


 高齢の女性が言った。


「歩いて十五分はかかるでしょう。」


「日中は巡回車両も出します。」


「毎回、来てくれるの?」


「需要に応じて調整します。」


 MIST CROWの口調は落ち着いている。


 怒鳴るわけでもない。

 誰かを見下しているわけでもない。


 でも、“需要に応じて”という言葉が、ユウトには引っかかった。


 人が来てから動く。


 それでは、来られない人はどうなる。


「すみません」


 ユウトは人の輪に入った。


「少し話を聞かせてください。」


 MIST CROWが、ユウトを見た。


「相馬ユウト。」


「はい。」


「FROST-9の観測パスを持つ新人。」


「新人なのは否定しません。」


「なら、停止案に口を挟む前に、数字を見ろ。」


 MIST CROWは、タブレットを差し出した。


『D地点・平均利用率:11%』

『ピーク以外の利用:低』

『冷却効率:広域平均の42%』

『代替施設:1.1km先』


「この出力を残すより、港湾休憩棟と医療搬送に回した方が、救える人数は増える。」


 ユウトは、数字を見る。


 反論しにくい。


 効率だけなら、完全停止は正しい。


「利用率11%ですか。」


「そうだ。」


「でも、今日ここにいる人は十数人です。」


「ピークだからな。」


「そのピークが必要な人には?」


「巡回車両を出す。」


「いつ?」


「需要を検知してから。」


「検知される前に、倒れたら?」


 MIST CROWの視線が少し動く。


「感情で判断するな。」


「感情じゃないです。

 “来られない人”を計算に入れてください。」


 ユウトは避難スペースの外を見る。


 住宅地へ続く坂道。

 日陰の少ない歩道。

 1.1km先のコミュニティセンター。


 若い人なら歩ける。


 でも、杖をついた人。

 子ども連れ。

 荷物を持つ人。

 作業終わりの人には違う。


「完全停止じゃなく、時間帯を絞れませんか。」


「出力を落としても、維持コストは残る。」


「ミストを止めて、給水と屋根下だけ残す。

 あるいは、午後のピークだけ動かす。」


「それで何人を救える?」


「今から出します。」


 ユウトは、蒼真を見る。


「聞けましたか?」


「今、聞いてる!」


 蒼真は、住民に声をかけていた。


「普段、ここを使う人!

 暑い日の時間帯だけでもいいので、教えてください!」


 MIST CROWが、鋭くユウトを見た。


「協力者を入れたな。」


「はい。」


「事前観測パスは失効するかもしれない。」


「承知しています。」


 その瞬間、ユウトのスマホが震える。


『FROST-9:

 協力者の介入を確認』


 心臓が跳ねる。


『観測パスの扱いを再判定します』


「来たか……」


 画面の下に、カウントダウン。


『再判定まで:00:09:59』


 その間に、D地点の停止決定までの時間も減っていく。


『D地点・完全停止決定まで:00:17:08』


「九分で資格が消えるか決まって、十七分で避難所が消える」


 蒼真が言う。


「忙しすぎるだろ。」


「だから、急いで聞く。」


 ユウトは、ベンチに座っていた高齢女性へ向かった。


「すみません。

 ここが止まったら、コミュニティセンターへ行けますか?」


「今日は無理だねえ。」


「なぜですか?」


「坂があるから。

 帰りにここで座らないと、家まで歩けない。」


 別の母親が言う。


「子どもが熱を出しやすいんです。

 買い物の帰り、ここで一回落ち着かせてから帰っています。」


 作業服姿の男性。


「港から帰るとき、ここで水を飲む。

 家に帰る前に一回休まないと、運転が危ない日がある。」


 ユウトは、数字を入力する。


 利用者数。

 時間帯。

 移動困難。

 代替施設までの距離。

 短時間利用の必要性。


 すると、ナギから遠隔メッセージが入る。


『ナギ:

 D地点のミスト二基は、消費電力の67%を占める。

 屋根下の送風・給水機・案内灯を残しても、必要電力は33%で済む。』


「三十三パーセント……」


 完全停止ではなく、67%縮小。


 それなら。


『ハル:

 Aの第2休憩棟へのルート、移動困難者には危険。

 大型車の横断がある。

 Aは入口側の低出力を残すべき。』


 協働運用の情報が、次々に届く。


 ユウトはMIST CROWへ向き直る。


「D地点、完全停止じゃなく67%縮小にしてください。」


「根拠は。」


「ミスト二基を止める。

 屋根、給水、送風、案内灯は残す。

 ピーク時だけ、近隣住民と港からの帰宅者が短時間使えるようにする。」


「電力は。」


「現状の三十三パーセント。」


「利用者数は。」


「ピークに十人以上。

 ただし利用者の一部は、1.1km先へ移動が難しい。

 ここは長時間滞在の場所ではなく、帰宅と移動の途中で倒れないための場所です。」


 MIST CROWはタブレットを見た。


「それでも、港湾休憩棟に回せる冷却余力は減る。」


「完全停止よりは減る。

 でも、ゼロにはしない。」


「きれいな答えだ。」


「現場にいる人の答えです。」


 そのとき、上空で低い音がした。


 ブゥゥゥン……。


 小型の監視ドローンが、避難スペースの上で止まる。


 MIST CROWの端末が鳴る。


『都市圏冷却評価局:緊急観測開始』


「評価局?」


 蒼真が空を見上げる。


 ユウトのスマホにも、表示が出た。


『D地点・代替運用案

 第三者リアルタイム評価を開始』


「FROST-9が?」


 ユウトが言う。


 その直後、FROST-9からメッセージが届く。


『あなたの協働運用は規約違反ではない。

 ただし、観測ではなく“提案実証”として評価する。』


『失敗すれば、正式参加資格は失効。

 成功すれば、裁量付き参加資格を付与する。』


「裁量付き……」


 ユウトは、画面を読む。


 完全な自由ではない。


 でも、現場で代替案を作る裁量を持って、広域案件へ入れる可能性がある。


「MIST CROWさん」


 ユウトは言った。


「三十三パーセントで、この場所を残せるか。

 実証させてください。」


 MIST CROWは、しばらくユウトを見る。


 そして、タブレットを操作した。


「十五分だ。」


「え?」


「完全停止決定を十五分延ばす。

 その間に、ミスト停止・送風維持・給水導線・利用者案内を実証しろ。」


 画面が切り替わる。


『D地点・代替運用実証』

『制限時間:00:15:00』


『実証失敗時:完全停止案を自動承認』

『実証成功時:67%縮小案を審査』


 ユウトのスマホが、強く震えた。


『優先提案権:暫定付与』


 目の前のミストが、まだ白く噴き出している。


 十五分後には、止めなければならない。


 しかし、屋根下、給水、送風、案内灯を残し、人が安心して使える形にできれば。


 この場所は、消えずに済む。


「蒼真さん、利用者案内を!」


「任せろ!」


「ナギさん、遠隔で出力の切り替え手順を!」


『送る!』


「ハル、現場へ来られますか!」


『Aのログを取った。今からそっちへ走る。』


 ユウトは、避難スペースの入口に立った。


 5.000 CCへの道。


 圏外からの挑戦。


 そして十五分間の実証。


 北第七码頭で、最初の“残し方”が始まった。

第64話では、ユウトがFROST-9の「一人で観測する」という条件に対し、協働運用を選ぶことを正面から伝えました。

5.000 CCの広域案件への参加資格を失うかもしれない中でも、ユウトは一人で四地点を回り切るより、現場を知る仲間と情報を集める方を選びます。


今回のポイントは、以下です。


ユウトはFROST-9へ、協力者と現場確認を行うこと、提案の最終責任は自分の名前で持つことを伝えた


D地点では、MIST CROWが完全停止案を進めていたが、利用者には高齢者、子ども連れ、作業後の帰宅者など、代替施設への移動が難しい人がいた


ナギの遠隔確認により、ミスト二基が消費電力の67%を占め、屋根下の送風・給水・案内灯だけなら33%で残せることが判明した


ユウトは、完全停止ではなく「ミスト停止+送風・給水・案内灯維持」という67%縮小案を提出した


FROST-9は協働運用を規約違反とはせず、提案実証として評価すると通知した


MIST CROWは完全停止決定を15分延長し、ユウトへ代替運用の実証機会を与えた


成功すれば裁量付き参加資格、失敗すれば完全停止案が自動承認される


第64話で、ユウトは上位プレイヤーの競争へ入りながらも、これまでの協働運用を手放さない道を選びました。

その代わり、今回からは仲間の助けそのものも“結果”として評価されます。15分の実証に失敗すれば、D地点は止まり、ユウトの正式参加資格も失われる可能性があります。


次回は、D地点・代替運用実証の15分です。

ミストを止めた瞬間、利用者が本当に屋根下・送風・給水だけで休めるのか。上位プレイヤーと評価局の監視の前で、ユウトは初めて“残すための縮小”を結果で証明しなければなりません。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

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