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黄金の檻 〜全てを捧げる最強魔導師の極上愛に溺れて幸せです〜  作者: 雪白めると
【第一部 一幕:凍てついた月光と、破られた約束】
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3_遠い灯り、近いざわめき


 そんなある日。

 普通科の教室は、朝から妙に浮き足立っていました。


「聞いた? 魔法専科、来週は演武場で模擬戦ですって」

「レインハルト様が作ったゴーレムを壊すんでしょう? 噂だけで震えるわ……」


 話題の中心は、今日も彼のいる魔法専科のことばかりです。

 誰かが名前を出すたび、そこだけ空気が甘く熱を帯び、わたしの席の周りだけが取り残されていくのを感じます。


 わたしはひとり、ノートの端を指でなぞっていました。

 話題の中心にいる人は、わたしの婚約者なのに。

 その輪の中で、わたしだけが透明になっていく。


「でも、レインハルト様って、どうしてあんなに完璧なのかしら」

「血筋よ、血筋。ヴァルテンベルク公爵家だもの」

「魔導の名門ですものね」


 胸が、ひくりと痛む。


(わたし自身は、何も持っていない)


 その思いは胸の奥に小さな棘のように刺さって、抜けませんでした。

 周囲の好奇心が悪意ではないと分かっているのに。

 「すごい人の婚約者」であることが、いつの間にか「自分もすごくなければならない」という圧になって、息を詰まらせてくる。


 このままでは、またひとりで沈んでしまう。

 そう思った瞬間、机の横に影が落ちました。


「よっ。エリュシオン侯爵令嬢。……ここ最近、いや、今日は特に顔色が悪いぜ?」


 顔を上げると、赤い髪に青い瞳の青年が、遠慮なく笑っていました。

 同じ普通科の貴族――リオネル・ヴァレンティーヌ。


「リオネル様……そんなに、顔色が悪く見えますの?」

「『様』はいらないって。オレ、相手の癖を読むのは得意なんだ。今のシャルロットは、今にも消えそうだぜ」


 リオネルの言葉は乱暴なくらい真っ直ぐで。

 けれど不思議と、嫌な気はしませんでした。


「いや、彼がすごいのは分かるよ? でもここ普通科だろ。毎日『レインハルト様が』『ヴァルテンベルク様が』って」


 わざとらしく声色を真似るその様子がおかしくて、思わず小さく吹き出してしまいました。


「……ふふ。皆さん、憧れてしまうのですわね」

「お、やっと笑ったな」


 リオネルは満足そうに頷きます。


「婚約者がすげぇ人でも、本人が『何もない』わけじゃねぇし。『今はまだ』ないだけだ。天才には天才の、凡人には凡人の戦い方がある。オレだって魔法はないけど、剣と努力だけで騎士になってやるって決めてる。比べなくていいんだよ」


 レインハルト様は天才。

 彼の前では並の魔導師など只人に過ぎないのでしょう。

 そして、魔導すら使えないわたしたちは、努力で未来を掴み取るしかないのです。


「ありがとう、リオネル。慰めてくれて。少し、心が軽くなったわ」

「――いや、慰めっていうか、本気でそう思ってるけどな」


 リオネルがそう言いかけた、その時でした。


 にぎやかだった教室の入口が、一瞬で静まり返りました。

 普通科の生徒たちが、息を呑んで一箇所を見つめています。


 そこに立っていたのは、明らかに「こちら側」の人間ではない気配を纏った青年でした。

 ボサボサの金髪に、度の強い瓶底メガネ。

 ひょろりと背が高く、魔法薬の匂いを染み込ませた黒いローブを羽織っています。

 魔法専科の棟からやって来た、選ばれし者のひとり。


「……エリュシオン侯爵令嬢、シャルロット殿は……こちらかな」


 青年はどこか頼りない足取りでわたしの席まで歩み寄ると、リオネルを少しだけ警戒するように見やってから、頭を下げました。


「突然失礼。私は魔法専科の研究棟に在籍している、レインハルトの友人だ。彼から、君に伝言を預かってきたんだが」


 レインハルト様からの、伝言。

 心臓がドクリと跳ねました。

 手紙ではなく、友人を介した言葉。

 それはやはり、わたしと顔を合わせたくないという、彼なりの拒絶の表れなのでしょうか。


「はい……お聞きします。レインハルト様は、なんて?」







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冷淡ヒーローの“我慢”が限界に近づいていく、 すれ違いから始まる異世界執着愛。
― 新着の感想 ―
ツンデレかツンデレ!! 本人たちは突き放し突き放され〜だけど 見てるこっちは「おいおい、まったくよぉ……」 なんですけど
レインハルト様、ちゃんと説明してあげればいいのに〜って もどかしいですね。シャルロットが健気で可愛すぎます。 リオネルが隙を狙ってきそうな予感。
「日没後は歩くな」なんて、冷たく突き放したはずのレインハルト様が実はシャルロットのことを誰よりも心配している様子が伝わってきて、ニヤけてしまいます。 リオネルの励ましも心強くて、シャルロットが勇気を…
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