28_月夜のプロポーズ、永遠の番(つがい)
夜風が頬を撫でる。
頬に残る熱が、冷たい空気にほどよく冷まされていく。
会場の光が背後で揺れ、遠くから音楽が滲むように聞こえた。
ふいに、レインハルト様がわたしの前で恭しく跪きました。
その真剣な眼差しに、わたしの鼓動が早まります。
彼はジャケットのポケットから、小さなベルベットの小箱を取り出しました。
「……シャルロット。これを」
開かれた箱の中には、月光を反射して眩いばかりに輝く、大粒のイエローダイヤモンドが嵌め込まれた指輪が収まっていました。
「……前言っていた、僕の魔力を練りこんだ宝石が完成したから。その石で宝飾職人に作らせたんだ。……正式に、僕と結婚してほしい」
「まあっ……! レインハルト様……っ」
驚きで声が詰まりました。
親同士が決めた婚約があり、すでに身も心も一つになり、わたしの身体には彼の子まで宿っている。
そんな形式的なプロポーズなど今更必要ないのかもしれない。
けれど、これは彼にとっての「贖罪」であり、同時に、わたしを一生自分の支配下に置くという「独占欲」の象徴なのだと、その瞳を見て悟りました。
「……ありがとうございます、レインハルト様。……もちろん、お受けいたしますわ。一生、貴方の傍から離れません」
指輪がわたしの薬指に嵌められる。
彼の瞳の色が、わたしの指先を永遠に縛り付ける鎖のように輝いていました。
わたしたちは、月光の下で何度も、何度も深い口付けを交わしました。
ふと、自分のドレスの上からお腹に手を当てました。
成体となり、彼と毎日のように混ざり合った結果、わたしの腹部はすでにふっくらと丸みを帯び始めていました。
このままでは、卒業式を待たずして、在学中に出産を迎えることになるでしょう。
急なことで結婚式の準備も間に合いそうにありません。
(……きっと、この子を抱きながらの結婚式になるわね)
でも、それもまた、わたしたちだけの特別な幸せの形のように思えました。
わたしを愛おしげに見つめるレインハルト様。
彼は本当に、この美しい月夜がよく似合う人です。
次の瞬間、彼が小さく詠唱すると、庭園の闇に色とりどりの光が灯りました。
淡い青、金、桃色、紫。
光は花の形を結び、蝶のように舞い、月の周りに冠を作る。
やがて夜空に、ぱあん、と大輪の花火が咲き続けます。
「どう? こういうのは好きかな?」
「ええ、もちろん……! なんて綺麗……」
「……なら、もっと特等席で見ようか」
彼はわたしの腰を抱きかかえると、飛行魔法でふわりと夜空へ舞い上がりました。
二人だけの空間。
遮るもののない大空。
花火が弾ける音と、彼の心音だけが聞こえる場所で、わたしは彼の広い胸に顔を埋めました。
「幸せにするからね、シャルロット」
「……わたしも、貴方を幸せにしたいですわ。……でも、わたしはレインハルト様からもらってばかりで……」
正直な気持ちを吐露すると、彼は破顔し、くすくすと子供のように笑い出しました。
「……いいや、君からもらっているよ。……ここに、ね」
彼の手が、わたしの膨らみはじめたお腹に優しく添えられました。
その瞬間、お腹の中の命がトクン、と動いたような気がしました。
「あ……。はい。……はい、レインハルト様。……貴方のお子を、これからもっと、たくさん産ませてくださいね」
「……うん、もちろんだよ。一生愛するよ。僕の……愛しいリリス」
花火の光に照らされた彼の横顔は、半年前の冷酷な仮面など微塵も残っていない、ただ一人の女性を愛し抜く一人の男の顔でした。
わたしたちは、夜空の果てで再び唇を重ねました。
これから先、どんな困難があろうとも、わたしたちはこの因果で結ばれた絆を断ち切ることはないでしょう。
わたしは彼を愛し、彼はわたしを永遠に浄化し続ける。
終わりのない蜜月は、今この瞬間、夜空の星々に祝福されて、新たな幕を開けたのでした。
Fin.
第一部フィナーレまでお読みいただき、ありがとうございました。
レインハルトが理性を手放した瞬間は、物語の核であり、同時にふたりの“はじまり”でもありました。
ここから先は、恋の勝敗ではなく、ふたりが背負ったものをどう生きるか——そんな物語になっていきます。
続くエピローグでは、第一部の余韻を壊さず、けれど確かに「次の地獄(=幸せ)」へ繋がる灯を置いていきます。
続きが気になっていただけましたら、ブクマで追ってくださると嬉しいです。
――第二部は“幸せと罪の代償”の幕開けです。
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