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【完結】黄金の檻 〜冷淡だった最強魔導師が理性を失った理由〜  作者: 雪白めると
【第四幕:真実の光、あるいは愛の証明】
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26_朝陽の寝室、甘い鎖

 公爵邸の寝室に差し込む朝の光は、昨夜の熱を暴き出すかのように残酷で、それでいて奇跡のように穏やかでした。


 重厚なカーテンの隙間から漏れる陽光が、乱れたシルクのシーツと、そこに横たわるわたしたちを照らし出します。

 身体の節々が重く、余韻のような、痺れるだるさが残っていました。


「……起きたのか、シャルロット」


 耳元で響いたのは、昨夜の熱に浮かされたような吐息とは正反対の、低く、落ち着いた、けれどどこか居心地の悪そうな声でした。


 視線を上げると、そこにはすでに上身を起こし、わたしの寝顔を見つめていたレインハルト様がいました。

 乱れた黒髪が朝日に透け、その黄金の瞳には、昨夜の「やりすぎた」自覚からくる、微かな申し訳なさが浮かんでいます。


「身体は……大丈夫かい? 医師の言いつけを破って、あんなに……」


 彼は言葉を濁しながら、大きな手でわたしの頬をそっとなぞりました。

 その手つきは壊れ物を扱うように優しいものでしたが、わたしの肌に残った紅い跡を見つけた瞬間、彼の瞳にどろりとした独占欲が再び滲むのを、わたしは見逃しませんでした。


「……すまない。君を誰にも渡したくないという飢餓感で、理性が……少し、制御不能だった」


 冷徹な魔導師としての仮面を脱ぎ捨て、一人の男として、わたしを求めたその代償。

 彼の指先がわたしの肌に触れるたび、昨夜の熱い記憶が、肌の奥でじりじりと再燃していくのが分かりました。


「いいえ……レインハルト様。わたし、とっても幸せですわ……」


 わたしは、重い身体を無理やり動かして、彼の逞しい胸元に顔を埋めました。

 全身から、彼の魔力を帯びた独特の芳香が立ち昇っています。

 身体中、昨夜巡った彼の膨大な精気と魔力でまだ熱く、頭の先から爪先まで満たされているような充足感がありました。


 かつて、わたしの存在を否定し、遠ざけていた彼。

 けれど今、わたしの肌に刻まれているのは、彼の熱い執着そのもの。

 「浄化」という大義名分を失ってもなお、彼はわたしを、その全てを削るようにして愛してくれた。

 その事実が、わたしの淫魔としての本能を、この上なく甘やかに満たしていくのです。


 ふと、わたしの心にある不安がよぎりました。

 このお腹の中に宿った新しい命。

 もし、この子がわたしと同じ道を歩むことになったら……。


「あ、そういえば……、あの、子どもが生まれたら……、その子はまたわたしのようになってしまうのでしょうか」


 わたしの問いに、レインハルト様は一瞬だけ目を細め、それから本当におかしそうに笑いながら、わたしの髪に顔を埋めました。


「君のように、フェロモンを放つようになるのかって? ……大丈夫、それはおそらくだが、無い」

「そ、そうなのですか?!」


 驚いて顔を上げると、彼はわたしの鼻先を指で軽く弾きました。

 その表情は、教壇に立つ賢者というよりは、最愛の伴侶を安心させようとする一人の夫のそれでした。


「文献で見る限りでは、エリュシオン家直系の更に男系から生まれた女児に発現するらしい。他にも色々と複雑な要素が絡み合っている可能性が濃厚で、目下調査中だ。まあ、要するに、リリスのような高位デーモンが世に発現する可能性はかなり低い。先代が二百年前だったことも考慮すると、少なくとも僕らの代で再び先祖返りのようなことは起こらないだろう」


「なるほど……」

「ふっ、君だけならまだしも、娘までその辺の男をたぶらかしはじめたら、さすがの僕も気が気でないというか、カバーしきれなくて仕事に支障をきたしそうだ」


「もう……!」と怒ったふりをして膨れるわたしを、彼は慈しむように抱きしめ直しました。


「それに関連する話ではあるけれど」


 レインハルト様はわたしの指先を絡め取り、その彫刻のような指でわたしの手の甲を撫でました。


「君の体質を安定化させるためのお守り(アミュレット)として、僕の魔力と炭素を融合させて宝石を作っているんだ。もう少し時間がかかると思うけど、待っていて」

「レインハルト様の……魔力で、宝石を?」


 それは、ただの宝飾品ではありません。

 最強の魔導師が、自らの根源的な力と、この世で最も硬い絆の象徴である炭素を組み合わせて作り上げる、世界に唯一の結晶。

 それは、彼がわたしのそばにいないときでも、彼の魔力がわたしの内を、外を、常に「庇護」し続けるという宣言でもありました。


「楽しみですわ、レインハルト様。わたし、それを肌身離さず身につけます。……貴方の魔力に、四六時中守られていると感じていたいですもの」

「ああ。君を、誰にも、一瞬たりとも渡さないための鎖だと思ってくれていい」


 彼の言葉は甘く、そして独占欲に満ちていました。

 わたしたちを繋いでいた「体質の治療」という絆は、今や「愛」という名の、より深く、より逃れられない鎖へと進化していたのです。







第四幕、ここまでお付き合いくださってありがとうございました!

今夜で第四幕は一区切り、明日から最終章フィナーレに入ります。

“真実の光”で浮かび上がったものが、彼らの関係をどこまで変えてしまうのか――いよいよ回収に向かいます。

更新はこれまで通り毎日22時予定。

最後まで一緒に見届けてもらえたら嬉しいです。

もし刺さったら、ブクマ・評価で応援していただけると次回作へのガソリンになります。

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冷淡ヒーローの“我慢”が限界に近づいていく、 すれ違いから始まる異世界執着愛。
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