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黄金の檻 〜全てを捧げる最強魔導師の極上愛に溺れて幸せです〜  作者: 雪白めると
【第一部 三幕:理性の瓦解、暴走する香り】
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22_救世主、リオネルの察し


(彼女は……勘付いているの?)

(男性にしか感じられないはずの、わたしの『誘惑の香り』に……?)


 今のところ、この香りのトリガーは、レインハルト様へのわたしの「欲情」であることは分かっています。

 けれど、クラリス様は女学生の中でも群を抜いて敏感な水魔法の使い手。

 香りを「匂い」としてではなく、大気を震わせる「異質な魔力波形」として感知しているのかもしれません。


「……まさか、エリュシオン嬢。貴女、何か『禁忌の術』でもお使いではなくて? レインハルト様の思考を奪うような、不浄な何かを」

「そ、そんなことは……っ!」

「いい加減にするんだ、ヴァレンティーヌ。僕が研究しているのは彼女の存在そのものだ。……他者が口を出す領域ではない」


 レインハルト様がわたしの前に立ち、鉄壁の守護を見せます。

 けれど、クラリス様の視線が部屋の奥にある豪奢な「錬成寝台」を捉えました。

 その瞳が驚愕に見開かれ、次いで、冷ややかな確信へと変わります。


「……研究、ですって?……そのような錬成寝台(もの)が必要な研究でしょうか。……それに、この部屋を満たす異常な魔力の揺らぎ。原因は分かりませんが、レインハルト様、貴方は今、ご自身の魔力制御すら十全ではない状態なのではなくて?」


「…………ふう……、ヴァレンティーヌ。もともと僕と彼女は婚約者だろう。なんの不思議があるというんだ」


 その声には、氷のような怒りが滲みはじめていました。

 レインハルト様の周囲に金色の光が渦巻きはじめ、金粉のような粒子が舞い上がります。

 彼の前髪がふわりと浮いたかと思うと、部屋中の空気が重く鳴動し始めました。


 ゴトゴト…ガタガタ………。


 それだけではありません。

 空間そのものがひしゃげるような異音が響き、窓ガラスに微細な亀裂が走ります。


 王都の安全を担保する学園の防護結界すら、彼が放つ怒りと情欲の入り混じった無意識の魔力圧によって軋み、悲鳴を上げ始めていました。


 もしこのまま彼が感情を爆発させれば、本当に学園の結界が内側から崩壊してしまいそうです。

 王国の守護者としての最強魔導師はもはや、わたし個人の守護者へと成り代わり、国家級の危険性を持ち始めていたのです。


「ひっ……!?」

「レインハルト様!? お止めになって…!!」



 わたしが必死で止めようとしたその時、廊下からバタバタと騒がしい足音が近づいてきました。


「――姉貴ッ!! やっぱりここにいたのかよ! イザベラ嬢が俺のとこまで来て…ッ」


 現れたのはクラリス様の弟、リオネルでした。

 彼は息を切らしながら室内を見渡し、一瞬で状況を把握しました。


 ……いえ、把握しすぎて、その場に固まりました。


「…………。おい、姉貴」

「何かしら、リオネル。今わたくしは、魔導の正義についてお話ししているのよ」

「正義もクソもねーよ。……あそこに錬成されたベッドが見えねーのか?」


 リオネルは研究室にはあまりに不釣り合いな豪華な寝台を一瞥し、天を仰ぎました。

 そして、冷や汗を流しながら、依然として戦闘態勢の姉の腕を掴みました。


「いいか、姉貴。察してやれよ。……今のレインハルト様は『最強の魔導師』じゃねぇ。『最強に盛った婚約者』なんだよ。ここに居座るのは、火薬庫の中で火遊びするより危ねーぜ」

「何を……っ、失礼なことを! レインハルト様がそんな……!」


 しかし、結界が軋む異常なプレッシャーを肌で感じ取ったクラリス様は、一歩後ずさりました。


「いいから来いって! シャルロットも、変なことされる前に逃げろ……って、もう遅そうだな。レインハルト様、目がマジだもんな……」

「……ッリオネル!!」


 リオネルに腕を引かれながら、クラリス様は最後に鋭い視線をわたしに向けました。


「エリュシオン嬢。貴女のその不可解な力が学園の結界を歪めているのなら……わたくしは、決してこのまま見過ごしませんわ」


 クラリス様は強い警告の言葉を残し、リオネルは青ざめながら、二人は去っていきました。






 再び訪れた、重苦しいほどの静寂。


 レインハルト様は扉に鍵をかけ、防音の結界を張り直すと、再びわたしの方へと向き直りました。


「……邪魔が入ったが。むしろ、今の騒動で君の鼓動はさらに速くなったようだ。……香りが立ち上がりはじめている」


 彼はわたしの頬、唇とを撫でるようになぞり、ブラウスのボタンに手をかけます。


「あ……っ、レインハルト様……」

「研究はまだ始まったばかりだ。……さあ、続きをしよう。今度は、誰にも邪魔させない」


 黄金の瞳が夕闇の中で禍々しく、けれど愛おしく光ります。


 一歩間違えれば学園を崩壊させかねない、この狂おしいほどの熱。


 かつてのわたしなら、ただ怯えて流されるだけだったでしょう。

 けれど、わたしは彼の首に腕を回し、その熱をしっかりと受け止めました。


「……逃げませんわ」

「え……?」

「わたしが選んだことですもの。あなたの研究のためにも……最後まで、お付き合いいたしますわ」


 わたしの言葉に彼の黄金の瞳が驚きに見開かれ、次いで、ひどく甘く歪みました。


 わたしは再び錬成された寝台の上で、確かな覚悟と共に、最強魔導師による「徹底的な調査」を受け入れるのでした。










レインハルトが徐々に壊れていった第三幕、これにて終幕となります。


次回、第四幕の幕開け、ついにシャルロットがクラリスによって告発されてしまいます――、秘め事は守られるのか?そして新しい命の芽吹き……お楽しみに。

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冷淡ヒーローの“我慢”が限界に近づいていく、 すれ違いから始まる異世界執着愛。
― 新着の感想 ―
『最強に盛った婚約者』でしたか……前話で最強が屈服とか失礼な感想を書いてしまってすみせんでしたっ!!!最強に盛ってたらそれはもう、屈服じゃなくて当たり前のことでしたねっ!笑
レインハルト様、確かに壊れてましたが、予想してたのと壊れ方が違って笑いながら拝見しております。本来は結構シリアスな設定のはずなのに。 クラリスさんが壊れるのも仕方がないですね。
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